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集団転移!ーギルドメンバーごと転移したLvカンスト竜騎士-  作者: 倉秋
ゼローム皇国の騎士編-御前試合ー
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31話

八霧の過去が少し明らかになります。

八霧(やぎり)が救護班のプリースト達に解毒薬らしきものを配っている。

プリースト達が解毒薬を倒れている人達に飲ませると、即座に回復したようだ。

立ち上がっては、自分の身体を不思議そうに眺めていた。


パラウは拘束され、聖堂騎士達に引きずられていった。

流石に、観客にまで被害を出した・・・拘束されて当然か。


「八霧さん、勝ちましたね」


「ああ・・・だが、納得出来ていない顔をしているな」


八霧の顔は晴れていない。

勝ちはしたが、納得していないように見える。


・・・まあ、初っ端からあんなことになったんだ、

俺が参加していても、同じような気持ちになっただろうな。


――――――――――――――――――――


八霧が観覧席に上がってきた。

顔は気まずそうにしている。


「予選突破、おめでとうございます!」


ニコニコと笑いながら7号がそう言う。


「あ、うん・・・ありがと、7号」


頭を掻きながら、八霧はそう言葉を返した。

やっぱり、納得出来ない戦いだったか。


しかし、八霧は表情を変えて、俺を見てくる。


「・・・でも、これでトーマさんと戦える」


そう言って、少し笑う八霧。

・・・そうだな、本戦で戦う可能性は十分あるだろう。


「ああ、楽しみにしてるぞ・・・八霧」


「楽しませてみせるよ?」


そう言う八霧の顔は、不敵な笑みを浮かべる表情に変わった。


――――――――――――――――――――


13回戦の準備が始まる。

掃除と同時に、八霧の渡していた解毒薬を会場に撒いている役員たち。


「考え無しで、毒を撒くからこうなるんだよ。戦いだって何でもしていい訳じゃない」


その通りだ。

ゼフィラスを狙ったあの作戦が可愛く見えるほどの戦いだった。

いや、戦いと呼んでよかったのかあれは・・・。


開始と同時に毒を撒き、全滅させる・・・広範囲に及ぶ毒で。

彼のやったのは、無関係な人まで巻き込む可能性がある外道の戦法。

許されることではない。


八霧は腕を組んで、怒ったように呟いた。

その頭を撫でてやった。


「・・・え?」


「その通りだ、何でもしていい訳じゃない」


ルール上には、彼の初動を縛り付けるルールは無い。

戦い方は自由なのだから、それもありなのだろう。

しかし、そのルールでも観覧席を巻き込むような行動はご法度のはず。


・・・だが、その行動を見て思い出したこともある。

昔の、八霧に出会った当初の話。

八霧は彼に近い・・・周りを考えない悪質プレイヤーだった。


――――――――――――――――――――


ヘルフレイムに誘う前、八霧はソロプレイヤーとして過ごしていた。

パーティーも組まず、黙々と強力な毒を調合。

その毒で辻斬りならぬ、辻毒を繰り返す悪質プレイヤーと、EOSでは認識されていた。

彼のLvが他のメンバーよりも高いのは、その名残・・・。

強力な毒の素材を手に入れる為に、高Lvモンスターと戦った結果だ。


そして、そんなある日・・・俺に辻毒を行った。

結果は、毒を使おうとした瞬間に俺が八霧の手を掴んで制止した。


離せと必死に俺の手を払おうとするが。

・・・前衛職と補助職じゃ力の差は歴然だ。

いくら暴れても、振り解ける程の力は無かった。


逃げることを諦めた八霧を、半ば強引にヘルフレイムの拠点まで連れていった。

そして、何故そんなことをしているのかと問い詰めた。


始めは押し黙っていた八霧だったが。

宵闇さんの助力もあり少しずつだが、口を開き始めた。



開口一番、家族内がうまくいってない、と八霧は言った。


ある日、父が家を出て行き、それっきり帰ってこなくなった。

母親はノイローゼに近い状態になり、家庭は崩壊。

少しの事でもキレる母の体罰も酷くなり、母親は恐怖の対象になった。

そして、その事は誰にも言えず、ずっと一人で抱え込んでいたらしい。


相談できる人もおらず、日々過ごしていたが。

ある日、EOSというゲームと出会った。


始めはとても楽しくプレイしていた、自分の境遇を忘れるほどに。

だが・・・そんなある日、EOSでの友人グループに裏切られ、ハブられたと。


ゲームの中でも・・・自分は不幸じゃなきゃいけないのか。

そう感じた瞬間には、自分の中の暗い感情が頭を支配した。

そして・・・始めた、EOSでの辻毒行為。


まあ・・・自分だけこんな目にあうのはおかしいと思う人はいるだろう。

俺だって、仕事でうまくいかなかった場合は、そう感じることもある。

何で自分だけうまくいかないんだ、不幸だ・・・と。

だが・・・その考えだけで、他人に迷惑をかけていい理由にはならない。


八霧も本質的にはそう感じていたらしく。

悪いとは思いつつも、自分を止められなかったと吐露した。

後悔もしていると。



俺と宵闇さんは顔を合わせた。

そして、お互いに頷いた。

八霧を『ヘルフレイム』にいれようと。

彼を独りぼっちにはしておけないと、お互いにそう思った。


自分の感情を吐き出し、泣いている八霧の頭を撫でた。

そして、俺はこう言った。


『ヘルフレイムに入れ』


隣にいた宵闇さんも笑って頷いていた。


八霧は唖然としていたが、申し訳なさそうに俯いた。

自分が入っては、迷惑が掛かると。


俺はそれを一笑に付した。

そんなことは気にするなと。

ただ・・・迷惑を掛けた人には謝りに行こうと、そう告げた。


驚いた表情をした八霧は、ふっと微笑むと、頷き。

そして・・・ヘルフレイムに入れてくださいと頭を下げた。

俺と宵闇さんはその様子を見て、笑って彼を迎え入れた。



それ以降だ、八霧が俺に懐いたのは。

今まで辻毒をしたことを俺と共に被害者に謝りに行き、許しを貰った。


ヘルフレイムに入った後は、人が変わったように明るい少年に変わった。

前評判の悪質プレイヤーというレッテルを塗り替える程に。

・・・まさか、ここまで知識欲が豊富で、とても頭が切れる男だとは思いもしなかったが。


それ以降も、ヘルフレイムの一員として活躍してくれた。

彼がいなければ、困った状況も多々ある。

古参勢からも、信頼されていた・・・まるで、家族の一員のように。


・・・ヘルフレイムこそが、八霧にとって本当の家族になっていたのかもな。

そう考えると、ギルダーに好き勝手させた自分が多少許せなくなる。

彼にとっての家族を壊したも同然だ。


だからこそ・・・俺はこの世界で、新しいギルドを立て直そうとも思ったんだ。

皆への、贖罪の意味も込めて。


――――――――――――――――――――


過去のことを思い返しながら、八霧の頭を撫でていたが。

八霧は、その手を両手で押さえた。


「僕たちはまだ、敵同士だよ?」


「ああ、そうか?」


俺は笑いながら、頭から手を離した。

・・・あの頃に比べれば、本当に明るくなったな。


そうだな、本戦が終わるまでは・・・俺達は敵同士だ。


「僕の策略で、食いついて見せるからね」


「ああ」


「途中で負けないでよ?」


「お前こそ、油断するなよ」


そう言って、二人で笑いあう。


手を抜く気は無い、八霧は全力で来る。

だからこそ・・・俺も全力で受け止める。


読んで下さり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] コレが実戦で戦場なら何でも有りは当たり前なんだがな
2019/11/30 21:41 退会済み
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