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306話


「Gさん!」


「・・・八霧君」


既に周りの味方は半数がやられている。

いや、それ以上に士気の低下が激しすぎる。

もはや軍としての体裁を失いつつあり、瓦解が始まっていた。


「もう抵抗する気もないようだな?

 直接手を下すまでも無く大方の戦いは終わったようだ」


男はそう呟くと、目の前に立っている俺に指を差した。


「とはいうが、貴様は諦めてないようだな?

 その目・・・まだ何かあるという光が見える」


「さあな」


正直、俺も詰んでいるとは思っている。

だが諦めるのは早いとも思っているのだ。

それに・・・。


「宵闇さんが守ったこの国を滅ぼそうとし、ギルダーを間接的にでも殺した。

 そんなお前を許せないっていうのがまだ強く残ってるんだよ。

 ・・・手前如きが必死に生きてるやつらの明日を奪っていいはずがないだろうが!」


「強い言葉は強がりだぞ、人間」


肩をすくめ、こちらの言葉にそう返してきた。

その表情はこちらを小馬鹿にしているようにさえ見える。


「トーマ・・・」


「どうせここから逃げても結果は同じ、やるまでやるだけだ。

 そうだろ、Gさん」


「・・・そうだな」


諦めかけていた表情を見せていたが、その一言で雰囲気が変わった。

まだ出来ることをする、そんな決意を見せる表情へと変わったのだ。


「・・・何故だ?何故絶望しない?

 状況が貴様らを殺すことは確定しているというのに。

 死が怖くないとでもいうのか?」


「皆怖いさ、死ぬことはな。

 正直お前を倒す方法なんて頭の中に無いし、どう出来るかも分からん。

 だからって諦めたら何も解決しない事は確かだろ」


持っている槍の先端を男へと向けた。


「死ぬまでは諦めない、絶対にな」


「・・・人間というものは奇妙な生き物だな。

 簡単に煽られただけで大戦を引き起こすものもいれば、

 周りにいる者のように圧倒的な力にすら抗おうとする者もいる。

 御しにくいものよな」


苦笑を一つ見せると、今度は顔を引き締めてこちらを睨んできた。


「ならば目の前から貴様らを潰すとしよう。

 希望の一つも何も残らないように」


――――――――――――――――――――


その頃、プリラとセラエーノ達は戦いの場から離れた小屋の中にいた。

本来なら既にトーマたちと合流してもおかしくない時間だったが、

彼女らはまだ現地に入っておらずある事をしていた。


「プリラさん・・・早くいった方がいいんじゃない?」


「駄目」


先ほどから薬剤の調合をずっと繰り返している。

あの毒を何とかして変性させようと頑張っているらしいが・・・。


「プリラちゃん、毒って何だと思う?」


「へ?毒?ええと・・・まあ、体に変調をきたしてダメージを与えるもの、とか?」


「まあ、それも正解ね。いろんな毒があるから完全な正解とは言えないけど。

 例えば鍛冶に使う薬品を人間が飲んだらまずいでしょ?」


「まあ・・・そうね、うん」


ものによっては死ぬだろう。

だが、あのタイプを毒とは言わないような気もするが。


「それと同じ、何だって使用方法を間違えれば毒となりうるの。

 私が今やっているのはあの化け物にとっての特効毒・・・。

 破壊を再生に、再生を破壊に逆転させる毒よ」


「・・・え?」


「身体にダメージを与えるだけが毒じゃない、そういうことよ」


手に持った瓶から紫色の煙が上がる。


「回復魔法系を極めていればそれも可能・・・時間はかかるけどね」


「・・・ちなみに、どれくらい?」


「一日あれば十分、なんだけど。

 この状況じゃその時間もなさそうだからギリギリまで間に合うようにしてみる」


見ればプリラの額からは汗が浮き出ている。

余裕そうな表情とは裏腹に、かなり焦っている様子が見て取れた。


「・・・私も手伝うよ、何かできる?」


「そう?じゃあ、これを混ぜておいて」


――――――――――――――――――――


雑木林付近を中心として残存した軍団は円陣で囲んでいた。

ある程度の距離を保ち、静観するようにその場に留まっている。


「・・・リルフェア様、戦局が悪くなる一方です」


「・・・」


隣にいた参謀がそう呟く。

顔色は悪い、冗談でそう言っているわけではない事は十分に分かる。


「お逃げ下さい、国外・・・いえ大陸外に逃げれば何とかなるやも」


「間に合わないわ、絶対に。それに多くの将兵と協力者を置いて逃げるだなんて。

 皆命懸けで挑んでいるのよ?代表である私だけ逃げるわけにはいかない」


「しかし、貴方様が死ねば希望は全て潰えます。

 生きて逃れれば再起の可能性も」


「それも理解しているわ・・・だけどね、逃げられる状況だと思う?

 その可能性がひとかけらでもあればするでしょうけど、ね」


暗い顔を見せ一瞬うつむくが、咳ばらいを一つすると腰掛け直した。

大将がこれでは駄目だと考え直して顔を整えるリルフェア。


「姉さん、私も前線に出るわ」


「・・・ティアマ、貴方」


「何もしないよりはまし、そうでしょう?」


隣に座っていたティアマは立ち上がる。

それに連座するように周りの親衛隊たちも立ち上がった。


「使える兵士達を搔き集めなさい、種族役職は問わない。

 一人でも多ければ道を開ける可能性は高くなる、だから」


「はは・・・!」


親衛隊が散っていく。

その様子を見ていた参謀を含めた人員たちも近くに立て掛けてあった武器を持った。

武器を持つ彼らの顔は決意に満ちたようなものを見せている。


「リルフェア様、先ほどああ申しましたが私も戦う覚悟はできております。

 いざとなればここの要員達も戦闘に加わることをお許しください」


「ええ・・・その時は私も戦うわ。

 義勇兵も何も無い、戦う意思のあるもの全て奴に挑むべき時」


静かに立ち上がるリルフェア。

そして片手を男のいる方向へと向けた。


「生きる者全てがあいつを倒すためにその牙を向ける。

 これは我々生物が生き残るための戦争・・・闘争よ!

 集められるだけ・・・いえ、国が立ちいかなくなるとしても全てをぶつけなさい」


その言葉に参謀が決意を込めた頷きを返す。

それと同時にある提案を具申してきた。


「リルフェア様、ならばヘルザードとの戦争での最終手段を講じてみては?

 ダメージとまでいかないまでも動きを邪魔することくらいは」


「あれを?いえ、でも」


それは数年前に考えられた対魔物用決戦魔法。

大気、そして大地の魔力を吸い上げて撃ち出すものである。

そのため一時的に大陸から魔力が失われるため、

作物の生育及び国民の健康に重篤な被害が出ると今まで使われることは無かった。

それが生み出す戦果よりも残す後遺症の方が大きい、

そんなものを使いたがる者はいないだろう。


結果として使用はされず、封印されることになったが。

無論、魔獣が現れた際にこれを使うべきと具申しようとした部下はいた。

だがダメージすら与えられないだろうと奴の姿を見て全員が口を噤んだのだ。


「効くとは思えないわ、それに払うものが多すぎる」


「効かなくともいいのです、これは・・・意地の問題です」


「意地?」


「我らゼロームは千年を超える国家。

 数多の先祖、祖先、英雄たちが脈々と受け継いできた歴史があります。

 多くの困難や苦難を越えた先に今の我々が存在出来ているともいえましょう。

 だが奴はそれを一瞬にして破壊しようとしている」


「・・・」


「ただ座して死を待つよりは、一発でも与えてやられましょう。

 ゼロームの民としての意地と、誇りを掛けて。

 せめて欠片も国が残らぬのであれば、その前に殴ってやりましょう?」


熱く語る参謀に、目を閉じて何か考えてるリルフェア。


「そうね、リウ・ジィが命を賭してこの国の土台を作り上げたのだもの。

 理不尽に潰されるくらいなら命を削って殴ってやりましょう・・・末裔として」


椅子から立ち上がると、周りを見渡し大きく息を吸う。


「いいわ、準備をしなさい!

 今を生きる者として奴に一矢報いることくらいはしましょう。

 魔道砲の準備を急ぎなさい!最後の抵抗を見せるのよ!!」


読んで下さり、ありがとうございました。

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