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302話

世に神という者がいるのならば、目の前の男を指すのだろうか?

圧倒される雰囲気に近寄りがたいその目線と眼光。

身に纏う衣は神々しささえ感じる何かがある。


「・・・魔獣が神か、笑えない状況だな」


余裕綽々、その様な表情をこちらに見せてくる男。

魔獣の頃にあった獣らしさはどこにも感じないその雰囲気。

・・・本当に同じ存在か?と思うほどだ。


「トーマ気を付けろよ・・・こういう場合かなりの力を有しているはず。

 ふふ、私の膝も震えているな、奴は相当だ」


「Gさん、一つ聞いていいか?」


「何だ?」


顔だけこちらに見せてくる。

身体は奴に向け、警戒しつつこちらの言葉を待っている。


「何故奴は神の格好を取った?経緯からすれば憎むのは分かる、だが・・・」


神の失敗作、出来損ないと前に語っていた。

ならば相当恨んでいてもおかしくはない。

だとすればだ、奴が神の形態を取るのはおかしいような気がする。


「さあな・・・だが、元は神の作ったもの。

 目指す場所、帰結する場所はあの姿なのかも知れんな」


「じゃあ、奴は神になった。或いはそれに近い存在になったってことか?」


「それはこれからわかる事・・・まあ確かに分かる事は一つだけだ。

 奴を止めねばならない状況がさらに強まったということだけは、な」


ゆらり、と身体を揺らす男。

何かしてくる、いや・・・これは。


「離れろ!奴の目線から!!」


嫌な予感、いや直感を感じた。

すぐさま後方へとそう言葉を飛ばし、俺自身も身体を飛び退かせる。

Gさんもまた、短距離転移でその場を離れた。


直後、一閃の光が男の指から放たれる。

ほんのわずかな、そう一瞬だった。

指を差すようにあったその先のアトラム城塞の半分が吹き飛んでいたのは。


――――――――――――――――――――


「何だ!?」


馬を飛ばしていた騎馬隊。

丁度アトラム城塞の傍を抜けていくときにそれは起こった。

目指す先が一瞬光ったかと思えば、後方に聳えていた城塞の壁が一瞬にして崩壊。

危うく後方部隊が瓦礫で押しつぶされるところだったが、

馬を飛ばして何とか回避に成功した。


「じょ、城塞が・・・」


見れば、半分以上が何かによって破壊されていた。

ガラガラと音を立てて崩れ去る城壁とそれに守られた建造物群。


「なんという威力だ、一体、何が、誰がこれを・・・!?」


「浮足立つな!敵が罠を仕掛けただけかもしれん!

 我々は目的を忘れ―――」


再度、光が目に入る。

その瞬間には、残っていた城塞部分全てが炎の柱に覆われていた。


「馬鹿な・・・こんな魔法聞いたことも見たことも・・・」


ドロドロに溶けていく石と鉄、強固な建材で出来た要塞。

何度攻撃を受けようとも落ちなかったその場所は、

たったそれだけのことでこの世界から消え去ってしまった。


――――――――――――――――――――


「威力は大したものだな」


「感心してる場合じゃないがな・・・」


城塞が跡形も無く消滅した。

破壊魔法か、炎魔法かは分からないがあれを喰らえばまずい事だけは確か。

直撃しなかったことは良しとするが、あんなもの見せられれば委縮もする。


身体に震えはないが、こちらを一撃で葬る力は見せつけてきた。

警戒しなければいけない事が増えてしまったな。


目の前の男は笑っている、楽しそうに。

まるで城塞を消滅させたことに満足するかのような、そんな顔だ。


「は・・・ははは・・・ははは」


「!」


笑い声・・・それは目の前の男が上げたものだった。


「はっはっは・・・ははは!この力は素晴らしいな。

 神に産み堕とされ貶され、世界の片隅で死ぬはずだった命が!

 今や世界を破滅させる力を得たのだ、愉悦の他にない」


良く通る透き通ったような声を響かせた男。

その声に周りにいる全員がぎょっとした顔を見せ、次には武器を構えて警戒していた。


「貴様は、魔獣・・・いや災竜か?」


「そんな下賤な者は既に死んだ。

 ここにいるのは神に近き存在になった一つの生命体よ」


「・・・こいつは、なるほどな。

 災竜を使い、ギルダーを使い、蘇ったこいつ。

 私は魔獣の存在自体をただの力だと思っていたが・・・な」


「そうじゃなくて、元々意思を持っていた・・・ですよね、Gさん?」


いつの間にか横にいた八霧が聞き返していた。

その様子に頷いて返すG。


「ああ・・・魔獣の死をきっかけに完全に目覚めたというところだろう。

 獣よりも冷静な意志、人間と同様理性を持った敵になったということだ」


「そうか」


余裕を見せる男に対してこちらの軍団に余裕を見せる者は少ない。

先の魔法を見て委縮しているものが半数、

戦おうと凄んで見せる者もいるが虚勢ばかりだ。


・・・まずいな。


「さて、君達を滅ぼすことなど造作も無いが・・・。

 まずは、お前からにしよう」


そう言って、男はこちらを指さしてきた。


「唯一私を殺し得た存在、だがそれもここまでの話」


胸の前で手を合わせる男。

そしてゆっくりと左右に開いていく。

手の間に小さな球形が生成され、そして少しずつ膨らんでいく。


「トーマ!」


Gさんが咄嗟に防御魔法を展開してくれる。

薄い膜のようなもので身体を包まれ、その状態で盾を構えた。


「無駄だ」


胸の前の球体が細く、長く変形を始める。

それは槍のような形状を取ると男の手に収まった。

そして、槍投げのような恰好を見せた。


「貴様の得意な技だろう?自分で受ける気はどうかな?」


振りかぶりもせず、ただ、放り投げるようにそれを投げてきた。

宙をゆっくりと舞う光の槍・・・だったが。

刹那、急加速をはじめ。


気づいたときには盾を捉えていた。


「な・・・!これは」


膜を破り、盾を貫通しながら一直線に胸を貫いてくる。

それは、ただ一瞬の出来事だった。


スキルが発動したと頭の中で流れて来る。

致死を食い止めるスキルが。


「!!!」


余りの痛みに片膝を崩した。


「トーマ・・・トーマ!」


「だ、大丈夫・・・だ」


「ほう・・・生きてるのか。

 それなりに力を加えたのだが、まさか耐えるとはな」


耐えた、というよりは保険が効いたといった方がいい。

致死回避スキルは盾役やタンクには必要なスキルだからな。


「トーマさん!」


八霧の投げたポーションが身体に当たると、傷口が塞がり始めた。

よろよろとだが立ち上がり男を睨みつけた。


「まあ、そうでなくては楽しくない。

 さあ・・・来い」


くいくいと指先を動かして挑発して見せてくる。


「言われなくても、行くさ」


「トーマ、待つんだ・・・奴の力は」


「・・・行かなきゃ全滅だ、奴はそのつもりだぞ」


奴が本気を出してそれを世界に向ければそれだけで全てが崩壊する。

戦わねば全部なくなってしまうのだ。


「分かっている・・・何とか数分持たせてくれ。

 八霧と打開策を講じてみる」


「頼む」


一歩前に出た。

奴を満足させるためにも、今は食い止めねばならない。


終わりの時は近づいている。

滅ぶか、滅ぼすかだ。


読んで下さり、ありがとうございました。

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