3話
ギルド『白銀の大剣』。
ギルドランクこそ低いが、Lv200越えが5名在籍する。
ギルド員の数は29名、平均レベルは100・・・と言ったところか。
現状のEOSでLv200越えは珍しい。
一番の理由は、モンスターを狩るのにそこまでLvが必要じゃなく、
PVP、GVGを主に行うプレーヤーや俺みたいな廃人位しか、Lv200台になってない。
・・・まあ、Lvを上げる行為はやり込み要素、みたいな感じになっている。
それに、Lv150を越えた以降の要求経験値がエグイこと。
EOSの多方面への楽しみ方が、Lvにこだわらない風潮を作ったのだろう。
元々、クラフトや拠点開発の自由度を高くしたのを売りにしていた所があるので、
それも関係しているのだろう。
俺のギルドの現在の人数は73名。
うち、Lv200越えは、俺を合わせて3人。
平均Lvは148だ。
そして、GVGの場合・・・このレベル差が直に響く。
例えばLv差が
10だと苦戦する。
20だと運が良ければ勝つ
30だと運が良くても相打ち。
40だと・・・勝ち目無し。
50を過ぎれば試合にもならない。
まあ、これは能力向上や能力低下を一切使用しない場合の事。
スキルも抜きで考えた場合の目安だ。
実際はスキルの組み合わせ次第で、何とかなる部分も多い。
だが・・・Lv差は純粋な力の差であるため、相手より高いに越したことはない。
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ログに流れてきた情報。
場所 ルカード荒野―苦難の渓谷前
日時 本日 22:30
人数 無制限
今日・・・?
いくらなんでも早すぎだ。
今が・・・22時、あと30分しかない。
「あの、トーマさん・・・」
「・・・向かった方がいいな、俺に掴まれ」
そう言って、手を差し出す。
エリサがその手を握ると同時に、アイテム欄の転移石を使用する。
ガチャを回した時の5等景品、腐るほどある。
転移石が砕けるエフェクトが広がり・・・。
次の瞬間にはルカード荒野に飛んでいた。
ルカード荒野、苦難の渓谷入り口。
俺たちが到着した時には、複数のプレイヤー同士が睨みあっていた。
「ああ、おっさん」
ギルド長ギルダー。
魔騎士のアタッカー。
金髪のオールバック、長身の男はギルド内ではこいつしかいない。
黒い軽装鎧と2本の双剣が武器だ。
そして、ギルダーの友人数名・・・つまりヘルフレイムのギルド員が周りにいた。
その目の前には『白銀の大剣』の男達が仁王立ちで立っている。
「ギルダー・・・状況を教えてくれ」
「状況?ああ・・・こいつらがいちゃもんを付けてきたんだよ。
俺はただ、『紅い復讐者』を見つけたから狩りに」
「『紅い復讐者』?」
モンスターの名前だ。
人型のモンスターで、魔騎士最高クラスの武器『極光の剣』をドロップする。
ただ、ドロップ率はお察しで最高性能の+10を持っている奴なんて、
俺は一人しか知らない・・・そいつもLvはカンストしていた。
「俺たちが先に『紅い復讐者』を見つけたんだぞ!」
「俺が先にって・・・言ってんだろうが!」
お互いに、食って掛かろうとしている。
『紅い復讐者』は先にターゲットした奴が討伐できる権利を持つ。
「・・・どっちが先だ?」
俺がそう話しかけるが・・・。
「「俺だ!」」
両者が声をそろえてそう叫ぶ。
仲がいいな、と思ったが。
「・・・ちょっと、確認するぞ」
道具欄から、双眼鏡を選ぶ。
目の前に双眼鏡が現れた。
「どれ・・・」
双眼鏡を覗く。
苦難の渓谷の谷間の底に、赤い影が見える。
『紅い復讐者』だ、
しかし、特にアクションも何も起こしていないし警戒もしていない。
つまり、待機状態だ。
「・・・まだどっちも見つけていない判定になってるぞ」
「だから!今こうしてるんだよ!」
・・・ああ、なるほど。
お互いに譲歩せず、言い争った結果。
今の状態という事か。
「それなら、なんでギルド同士にした?プレイヤー同士で十分だろう?」
個人の戦いで決めれば終わるようなことだ。
チーム同士で戦う必要性が感じられない。
『極光の剣』が欲しいのなら、自分一人でやれとも思う。
・・・手伝いがいるのなら、事前に話せとも。
「・・・おっさん、耳貸せ」
指でこちらを呼ぶギルダー。
「なんだ?」
二人で人の輪から外れる。
ギルダーは、白銀の大剣の一人を見る。
「あいつ、俺を馬鹿にしたんだぞ・・・!」
「・・・は?」
「俺を馬鹿にするってことは、チームを馬鹿にしてるってことだよな?」
こいつは何を言っているんだ・・・。
自分が馬鹿にされたから、チームの力を使って相手をボコろう・・・
なんて、そう考えてるのか?
チンピラだな、まるで。
「つまり、ヘルフレイムを舐めてるってことだよな?」
「そうは言わんだろ・・・馬鹿かお前は」
つい口に出したその一言。
・・・ギルダーの顔が一瞬険しくなる、が。
次の言葉を話すときには、したり顔になっていた。
「リーダーを愚弄するのはいけないなー、皆、聞いたよな?」
ギルダーの友人達がいつの間にか近くにいた。
「ああ、聞いた」
「・・・さいてーね」
「同じギルド員だとは思えない」
「出てってくれないかな?」
そう言う割に、ギルダーの友人達の顔はニヤニヤ笑っている。
・・・こいつら、俺を追い出そうと。
元々追い出したがっていたが、こうも露骨に仕掛けてくるとは。
「なあ、このギルドにもうアンタの居場所はない。
・・・ギルドはもう、俺等のものなんだぜ?」
それは事実だ。
もう、こいつらのギルドに成り下がってしまったんだ。
ヘルフレイムは。
俺も、宵闇さんが作ったギルドを守りたいという気持ちと。
・・・ズルズルと残っていたという自分の気持ちがあった。
だが、今のこいつの一言で、ヘルフレイムへの未練は消えた。
決別するなら・・・した方がいいだろう。
「・・・ああ、分かった。今回のGVGが終わってから辞めてやる」
「あっ、そう・・・自分が邪魔になっていること、ようやくわかったんだ?」
ギルダーの顔は笑っている。
俺という邪魔な存在を消せて、満足そうだ。
友人達も、ニヤニヤ、俺を見て笑っている。
・・・邪魔、か。
宵闇さん達と一緒に、ギルドを作った時の事を思い出す。
始めは3人から始めた、ギルド作り。
今の拠点を見つけて、改造し。
金が無くなって、3人で金策に走り。
拠点が出来上がる頃には、ギルド員も増えていた。
宵闇さんが決めた、ギルドの規約。
仲間は見捨てず、助け。
苦難には皆で立ち向かい。
最後は全員で笑う。
・・・俺はそれを守りたかった。
だが、守れるだけの行動ができなかった。
流れていくヘルフレイムをただ見ていただけに近い。
だったら・・・俺は。
コンソールにある文字を打ち込む。
宵闇さんとGさんと示し合わせていた事がある。
「もし、ギルドがどうしようもなくなった場合の保険を作ろう」
という名目で作った、保険の金とアイテムを引き出しておく。
自分の所持金が跳ね上がり、アイテム欄も増える。
・・・ギルド員ではもう、俺しか知らないものだ。
というより、この隠し財産は俺と宵闇さん、Gさんの3人で溜めたへそくりだ。
この金と、アイテムがあれば、また・・・ギルドを立ち上げられる。
宵闇さんとGさんがいた頃のあの・・・居心地が良かったギルドを。
俺が作ろう。
読んで下さり、ありがとうございます。