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296話

魔獣は自身の力を吸い取られていることに気づいたのだろう。

自らを縛る縄を強引に振りほどくと魔法陣から抜け出そうとする。


「させるか!」


手槍を放り投げ、その行動を制する。

動きを阻害させること自体には成功したが、

それでも奴の大暴れを止める手立てにはならなかった。


遂には全ての縄を引きちぎり、魔法陣から飛び退いた。


「むう・・・しかし予想通りにはなったぞ。

 トーマ!力を失っている今こそ奴を討伐するチャンスだ!!」


「ああ!」


赤黒いオーラのようなものは鳴りを潜め、全身の体毛も逆立っていない。

明らかに力を失っている状態だ。

今ならば奴を何とか出来るだろう。


「ここで仕留める・・・!」


――――――――――――――――――――


陽動の為の部隊は魔獣と魔物を引き剥がすために全力を尽くしていた。

諸国連合体となった軍団は、眼前に迫る魔物を食い止めながら隊列を維持。

何とか瓦解を防ぎながら戦闘を続ける。


ある時急にその攻勢が弱まった。

いや、魔物たちの注意が別の場所に集まったかのようにベクトルが変わったのだ。

それに一番先に気づいたのは最前線の兵達。

迫る敵の勢いが急に弱まったのをその肌で感じていた。


「・・・あ?」


今にも自分に斧を振り下ろそうとしているオーガ。

それが急に行動を中止し、明後日の方向を見るとそちらに走り始めた。

周りを見れば他の魔物も同様に同じ方向に駆けだしている。


「な、何が起きたんだ一体・・・?」


今の今まで死力を尽くした戦いを繰り広げていた前線。

急な事態に兵士達はただ立ち尽くすだけだったが。


「あっちは・・・まさか、魔物を追撃しろ!向かわせるわけにはいかんぞ!」


向かう先には魔獣を罠にかける予定地がある。

奴らの向かう場所はそこに違いない、そう思った隊長は追撃命令を出すのだった。


「魔物の動きが変わったってことは、そう言うことよね?」


「多分そうね」


セラエーノとプリラも魔物の動きを見て察知した。

作戦自体は成功したと、そう見ていいだろう。


「食い止めましょう?」


「もちろん!」


二人は駆ける、魔物を行かさんと。

その速度は常軌を逸するほどの速さで、魔物群の前へと立ちふさがった。


「八霧君のポーション、すごい効果ね」


「足が速くなるって聞いたけどここまでとはね」


空になった瓶を地面へと放り投げる。

追いかけられた彼らもそんな速度で人間が走るとは想定外だったらしく、

急ブレーキを掛けるように足を止めた。


「どこに行くの?私たちを放っておいてさ」


「まだまだ、戦いは終わってませんよ?」


移動しようとする魔物の目の前に立ちふさがる二人。

それらを突破しなければ目的地へと向かえない事は魔物も直感していた。


――――――――――――――――――――


力が落ちたとはいえ、それは世界を滅ぼす存在。

一撃の重みはまだまだ健在だった。


牙を立て噛みつかんとした攻撃を回避するが、

それを見越して動かしていた尻尾の一撃が身体を襲う。


何とか盾で防ぐが、あまりの衝撃でそれごと弾かれ身体がのけ反る。


「っと!」


強引に身体を戻しながら両手で盾の裏側を押さえ、相手側へと押し込む。

読み通り、崩した身体に一撃を加えようとした前足を迎撃することに成功した。


「・・・」


攻撃を止められた魔獣は、間合いを取るように後ろへと飛び退く。

どうやら、自身が思う力を出せないでいて戸惑っているらしい。

本来ならば体勢が崩れた時点で俺は致命傷を負わされていただろう。


だがそうはならなかった。

Gさんの仕掛けた魔法陣が効を奏した結果だ。


今ならば奴を倒せる、少なくともそのチャンスは出来たのだ。

逃しはしない、いや。


何故か奴が逃げる気がしない。

普通ならば体力などを消費すれば一旦退避して回復に回る、

その行動は生物的におかしくはない考えだ。

だが、奴にはその気がないような動きを見せている。


・・・圧倒的な力を持つが故の驕りか、或いは罠か。


「トーマ、油断するなよ・・・!」


「分かってる」


お互いの間合いが詰まることは無く、数十秒は過ぎた。

隙を伺っているのか、行動すら見せずにこちらを睨むだけだ。


「我々も援護を加えましょう!」


「下がってろ、下手に手を出すとかえって状況が悪くなる」


メンバー以外の兵士達は遠巻きに戦闘を眺めている。

何人かは動きを止めた魔獣に対して弓を構えていたが、

隊長に止められ番えた矢を下ろしていた。


「先にどちらが動くか、どちらにせよ・・・これは」


隊長が被っていたヘルムを直そうと手を掛けた瞬間。

そのヘルムがずり落ちるほどの衝撃波が彼を襲った。


槍の先と魔獣の爪、それが二人の間でぶつかり合っている。

激しく火花を散らしながら、辺りの木々を揺らすほどの衝撃を放ちながら。


「ならば搦め手だ」


槍に込めた力を一気に抜き、魔獣の力をこちらへと向ける。

勢いあまって奴の身体がこちらへと傾くのを見計らい、

体勢を回転させながら槍で頭を切り払う。


「!」


死に体にされ回避もままならなかった魔獣。

何とか頭を動かして直撃は避けたが、頬付近に大きな切り傷を残した。


痛みで一瞬怯んだように見えたが、それは一気に怒りの表情へと変わり。

次の瞬間には飛び掛かるように攻勢を仕掛けてきた。


「怒りは判断を・・・鈍らせる!」


片手で持った盾で襲い掛かる魔獣の頬を打ち据える。

すると盾から衝撃波のようなものが放出し、魔獣を後ろへと弾き飛ばした。


「くそ!援護しようにも・・・どうすりゃいい!?」


「止めろ、俺たちは見守る他ない」


ヘルムを直した隊長はそう呟く。

その手は固く握り拳を作っていた。


――――――――――――――――――――


「これで・・・ぜんぶ・・・よね!?」


肩で息をするセラエーノ、その横には余裕顔のプリラがニコニコしている。

周りには大量の魔物の死体の山が出来ていた。

セラエーノの持っているハンマー、

本来ならば白いはずのそれが真っ赤に染まるほどの返り血を付けていた。


対するプリラもメイスが拉げるほど酷使していた。

特に先端部分は何度も殴打を繰り返したせいで折れ曲がっている。


「まだよ、他の部隊の援護をしないと」


「そうよねぇ・・・そうしなきゃねえ・・・うん」


はぁぁぁ、と一つ大きく溜息を吐くとセラエーノは両頬をバンバンと叩いた。


「もうひと踏ん張りね!」


二人は駆けていく、未だ戦闘が続く場所へと。

すると見知った部隊の影が見えてきた。


「・・・くそ、大丈夫かゴルガン」


「俺はここまでですぜ、隊長」


それはグスタフ率いるリザードマン部隊。

数に勝る魔物部隊を押しとどめていたものの、敵軍精鋭が合流したことで形勢が逆転。

遂にはグスタフとその部下二人だけを残して壊滅してしまっていた。


ゴルガンと呼ばれたリザードマンも腹部に致命傷を負っており、

すでに手遅れな事は誰が見ても明らかだった。


「最期まで新入りが残っちまうとは・・・隊長、奴だけは何とか」


「分かっている・・・必ず生きて帰す」


ミノタウロスの斧がグスタフの目の前を通過する。

手投げ斧らしきそれは地面に突き刺さると、土煙を上げていた。


「もう次が来たか、手向けも出来んな」


グスタフもまた肩口に傷を負っていた。

援軍を呼ぼうにも他の部隊も手一杯。

それどころか壊滅判定を受けた部隊もある。


「隊長、次の敵が!」


「分かっている!迎え撃つぞ」


眼前に迫る数体のミノタウロスとその統率者。

満身創痍では相手に出来ない、それは分かっている。


「掛かって来い・・・!最後まで戦い抜いてやる」


大剣を構え、一撃を見舞おうと振り上げる。


「どけぇ!!邪魔ぁ邪魔ぁ!」


砂塵を上げ、突進してくるミノタウロスの群れを横から襲う人影があった。

最前列を走っていた魔物を横合いからぶん殴り、昏倒させている。


「邪魔だって言ってるじゃない!!どきなさいよ!」


彼女に攻めかかろうとした他の部隊も同じように殴り倒していた。

あれは・・・。


「セラエーノ殿・・・救援感謝するぞ」


「ひどくやられたようね、そっちも」


「・・・ああ」


戦う気力はまだ残っているグスタフを見て、セラエーノは何度か頷いた。


「戦えるわね?」


「もちろん、まだまだやれるさ」


体勢を直しつつ、力強く頷いて返すグスタフ。

その様子にセラエーノも頷いて返した。

読んで下さり、ありがとうございました。

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