28話
『聖騎士』という役職。
聖堂騎士内でも、実力と功績を認められた者のみに与えられる名誉あるもの。
現在はゼフィラスと、国境沿いへの援軍に向かった女性の二人が該当する。
かつてはゴルムの父『ジーク』とその相棒、イグニスの父の『ランディス』。
二人が聖騎士としてかつては名を馳せていた。
ゴルムは彼の後釜として世襲したが、イグニスは世襲を拒否。
自らの力で聖堂騎士になると言い、ロンギヌス騎士団に入団した。
結果、彼女は自らの手で聖堂騎士の座を掴んだ。
ただし聖騎士自体は世襲できるものではなく、あくまで実力で成り得るもの。
よって、ゴルムもイグニスもまだ、『聖騎士』ではない。
ちなみに専属騎士は通常の聖堂騎士よりも上の立場になるが、
聖騎士よりは下の立場に当たる。
聖堂騎士<専属騎士<聖騎士<副団長<団長≪≪≪騎士団総括役
ちなみに、騎士団総括役とは『リルフェア』その人である。
イグニスは専属騎士であり副団長なので、権限は副団長権限になる。
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観覧席から、11回戦の様子を眺める。
・・・12回戦は次なので、八霧は控え室に移動したようだ。
その代わり、観覧席には神威と7号が隣り合って座っていた。
「あ、トーマ様。見てましたよ」
「そうか」
7号の隣に座る。
掃除をした時のメイド服姿のままなのは気になったが・・・まあいいか。
「次はゼフィラスという人が注目されてるんですよね?」
「そうだな・・・俺も少し気になる」
11回戦の為に、闘技場内の掃除が始まっている。
しばらく7号と話をしていた時だ。
7号の隣に座っていた神威が船を漕ぎ始めた。
・・・やれやれ、こんな所で寝たら風邪を引くぞ。
「神威、起きろ」
そう言って、肩を揺さぶるが反応なし。
これは完全に寝てしまったな・・・。
天気もいいし、昼寝にはもってこいの気温だ。
しょうがない・・・。
道具袋からマントを取り出し、神威に掛けてやる。
このマントは、寒冷地での行動の為に厚手に作られているマントだ。
こっちの世界でも、モフモフになっている・・・触り心地は結構いい。
本来は寒さによるスリップダメージを無効化するマントだが・・・。
毛布代わりに使えそうだ。
「マスター、寝ちゃいましたね」
「ああ・・・EOSをやっている最中にも寝てたりしたからな」
珍しい事ではない。
それに、うたた寝をするのはあまり緊張していない証拠だ。
昨日も寝れているようだし・・・。
こっちの世界に来て、ストレスが溜まっていないか心配だったが・・・。
今の所は大丈夫そうだ、八霧も楽しんでいるように見える。
神威を見ていた俺を見る、7号は俺と神威を交互に見た。
「マスターとトーマ様って、親子みたいですよね?」
「ん?ああ・・・そうか?」
よく世話を焼いているが、そう言う風に見えるのだろうか?
まあ、過去に色々あった子だから気を遣っている部分もあるが。
「じゃあ、私は孫にあたるんでしょうか?」
「孫?」
神威が俺の子みたいなもの。
7号は神威が生み出した子供のようなもの。
子供の子供は、親からすれば孫か。
・・・孫ねえ。
目の前の7号を見る。
「嫁も恋人もいなかった俺には、あまり縁のない話題だな・・・」
「え?」
結婚などしてなかったし、付き合ったのは・・・遥か昔、学生時代だ。
それも冗談半分の関係、あれを付き合ったにカウントは出来ないだろう。
独身のおっさんなんて、そんなものだ・・・悲しいけどな。
「7号、若いなら恋をしろ。後で後悔しないように精一杯な」
そういって、7号の頭を撫でた。
若いうちに、もう少し恋をしておきたかったと後悔した事もある。
7号には、素敵な出会いを期待したい。
「あ、あの、トーマ様も若いですよ!」
「そうか?」
鏡を見ていないから分からないが・・・。
アバターの設定年齢なら30代近くの年齢のはずだ。
俺がEOSを始めたのは22歳の頃・・・30になった自分を想像して作った。
しかし、そう言われると気になるな。
後で、鏡で確認してみるか・・・。
「ですから、あの・・・私!」
7号か何か言いかけた時、周りに歓声が響く。
男性も女性も、声を上げている。
「なんだ?」
目線を闘技場に戻すと、それは。
ゼフィラスが闘技場に入場した瞬間だった。
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聖堂騎士の鎧を軽量化したような鎧に、白いマント。
鎧は青と白に染められて、青空のように綺麗な鎧だ。
背中には身の丈に近い程の大剣を背負っている。
柄には豪華な装飾が施されている。
そして腰にもロングソード程の大きさの剣を下げている。
しかし、兜は装着しておらず、顔が見えている。
綺麗な金髪を風にたなびかせている。
遠目でよく分からなかったが、顔立ちは良さそうだ。
「あの方が・・・ゼフィラスさん・・・?」
「そうみたいだな」
他の参加者に対して頭を下げているゼフィラス。
礼儀正しいのは、その行動で分かった。
「さすが、ゼフィラス様ね」
後ろに座っていた女性がそう呟く。
振り向くと、そこにはドレスを着た女性が座っていた。
観戦している貴族の一人だろうか。
「ゼフィラスっていう人は、そんなにすごいんですか?」
7号がそう聞き返した。
すると後ろの座ってきた貴族の女性は、
手に持っていたフリルの付いた扇子を仰ぎながら喋る。
「ゼフィラス様は聖堂騎士の中でもトップクラスの人格と腕を持つお方。
平民出身であることが残念と呼ばれるほどの人物ですわ」
平民出身、か。
聖堂騎士は貴族出身も多いと聞いた。
肩身が狭い中で、自分の実力だけで聖騎士になったのだろう。
・・・立派な人物だな、そう聞くと。
「リルフェア様から爵位を頂いているので、貴族の一員ではあるんですけどね」
女性が闘技場の方を見る。
「ほら、始まるみたいよ」
目線を闘技場に戻すと俺の時と同じように、
選手がぐるりと円を描くように並ぶ。
あの時は全員がバラバラに戦い始めたが・・・今度は様子が違う。
ほぼ全員の目線がゼフィラスに向かっている。
これは・・・まさか。
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「おい、聖騎士様よ」
隣にいた男が話しかけてくる。
目線だけそちらに向けると、重武装の傭兵騎士が立っていた。
アーメットヘルムの中から、隻眼の男性の顔がこちらを見ていた。
「私に何か用か?戦いは、まだ始まってないぞ」
「へっ、始まれば分かるさ・・・あんた、全員に狙われてるぜ?」
・・・それは知っている。
さっきから、隣に立っている男以外からの殺気を感じるからだ。
恐らく、始まったと同時に私に襲い掛かるだろう。
「あなたはそうしないのか?」
「して、たまるかよ。俺は・・・卑怯な事は嫌いでな」
そういうとアーメットヘルムのバイザーを下ろした。
片手に持っていたハルバードを構え直し、左手に盾を持つ。
よく見れば、彼はロンギヌス騎士団の鎧を着ている。
騎士団の紋章は黒く塗りつぶされ、彼が傭兵騎士だという事を表していた。
そして・・・その鎧は傷だらけ、マントも裾が破けている。
「気に食わねえ、そうまでして勝ちたいのかよ。
・・・自分の力で勝ち取れってんだ」
バイザーのせいでくぐもった声が、こちらまで響く。
その声には、苛立ちも感じた。
傭兵騎士は金で雇われる元騎士や騎士崩れの人たちの事だ。
多くは、騎士団で問題を起こして退団させられた者たちや、
騎士団での行動に嫌気がさしたような人物が大半。
それゆえに、粗暴な者や法律を遵守しない者が多い。
だが彼のように自分の誇りや、名声の為に戦うものも少なからずいる。
自由に、自分の力を貫き通す彼らには、一種の尊敬の念も感じる。
「・・・開始!」
その一言が、闘技場に響く。
そして・・・隣の彼を除く全員が、私に向かってきた。
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「やっぱりな・・・」
彼の隣の騎士以外、全員がゼフィラスに掛かっていった。
まるで示し合わせたかのように。
戦士も、魔法使いも彼を目の敵にするように向かっていった。
「ひどい、これじゃ・・・いじめじゃないですか!」
7号はそう声を上げた。
「いや、これは立派な戦略だ」
生き残るのが目的のサバイバルゲームの場合、強い奴を先に潰すのは常套手段。
後は残った奴で争うだけの状況にする。
特に、今回の場合は彼以外にそこまで目立つ選手はいないと聞く。
・・・要は、彼がいなくなれば有力な人物が一人もいなくなる。
つまり、自分にお鉢が回る可能性があるという事だ。
「サバイバルは他人を蹴落とすのも戦略の一つだ」
「で、でも」
「・・・だが、ゼフィラスは勝ち残るな」
あの中でも特筆して強い。
束になって掛かっても、怪我をさせるのが精一杯のように思えた。
その結果は、多少違ったが・・・概ね合っていた事は後で分かることになる。
読んで下さり、ありがとうございました。




