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275話

確かに奴は強くなっていた。

何度か斬りあうことでそれは確信へと変わった・・・のだが。

それ以上に気になるのは攻撃の感覚がかなり緩い。

手を抜いていると直ぐに分かるほどに。


「・・・」


ラッシュを仕掛ければこちらを押し切れるかもしれないというのに、

奴の動きは緩慢で見切りやすいほどだ。

とは言え一撃の攻撃力は相当なもので、受け流すか回避するかしなければいけない。


「馴染んできたな、身体も。では・・・少し速度を上げるとしよう」


そう呟いた災竜の身体は先ほどまでと打って変わって機敏なものを見せる。


「!」


剣戟が連続で三回。

二度目までは回避と盾で防げたが、三度目の攻撃は肩に掠った。

鎧の一部が弾け飛び肩からは血飛沫が舞う。


「っく、むぅん!」


体勢を崩しかけたが、何とか持ち直して次の攻撃を防ぐ。


奴の言う通り速度が上がっている。

的確にこちらの死角を狙いつつ、かつ踏み込んだ力のある一撃。

直撃すれば致命傷になりえる。


「どうした?攻撃されているのだぞ?

 反撃の一つでも見せたらどう、だ!」


喋りながらも攻撃を繰り返す災竜。

寸前で何度も攻撃をいなすか回避しているため、

着ている鎧にもダメージが溜まり始めていた。


「はぁ!」


盾を構え、相手の攻撃にあわせるように突き出した。

スキルで言えば『バッシュ』、タイミングを合わせて使えば相手を吹き飛ばせる。


「む・・・!」


盾に勢いを全てはじき返されるような感覚を覚えた災竜。

その衝撃で腕が弾かれると、余波で身体ごと後ろへ弾き飛ばされた。


「ほう!面白い技だ」


優雅に着地しながら災竜は笑う。


「・・・盾も鎧もボロボロだな、セラエーノに怒られる」


壊れるまではと思い二線級の鎧で対応していたが、それもここまでだ。

ゲームのシステムで一瞬で全ての装備を切り替える物があったのだが。

実ははこちらでも作動する事を少し前に確認していた。


「俺も出せるものは全部出す」


事前に仕込んでおいたそれを開放する。

ボロボロになった装備が一瞬で剥がれ、中から新たな鎧が現れた。

それは白銀に光る竜騎士用の鎧。

先ほども白い鎧を着ていたが、似ても似つかぬ性能になっている。


こちらの世界に来た時に着ていた鎧でもある。


「ふふふ、いいぞ、いいぞ。そうでなくては」


怖気る様子も、驚く様子も無く災竜は笑う。

今この時こそが至福の時間だとでも言いたいとばかりに。


「行くぞ!」


――――――――――――――――――――


「ねえ、八霧君」


セラエーノは横目で八霧を見ながら言葉を続けようとするが。

それを制するように口を開いた。


「実力は災竜が上、力も早さも勝ってる。

 けど経験・・・というより力の使い方ならトーマさんが勝ってるかな」


「力?」


「スキル構成だったりとか、立ち回りだったりとか。

 要するに戦い方と身体の相性は勝ってるよ」


つまり災竜は自身の力を完全に操れていないということなの?

と、セラエーノは聞き返すが・・・それに対して八霧は首を振った。


「操れていない、というよりは全力を出せていない。

 いや、出そうとしていないのかもしれない」


「は?」


眉を上げるセラエーノ。

何を言っているのかという顔だ。

まあ・・・そうだろう。


「理由は分からないけど、力をセーブしているように見えるんだ」


「そんなことして何の得があるのよ」


「分からない、けど何か理由があるはず」


首を再度振る八霧。

その様子を見て肩をすくめて見せるセラエーノ。


「案外、力が強すぎて全力を出すと壊れると思ってるんじゃないの?

 機械だってそうでしょ?リミッター付けるのはそれが理由なんだから」


「機械・・・リミッター?」


八霧の目がセラエーノを捉える。

正解を得た、という目をしていた。


「それ、正解かも」


「え?」


「力を一気に増大させた災竜の身体は定着までに時間がかかるとする。

 すると今のこの状況・・・力は張子の虎状態なんだ」


「ええ?」


張子の虎と聞いてセラエーノは更に怪訝な顔をする。


「じゃあなに?あいつは自分の力を操れてないってこと?」


「うん、それに・・・今の災竜は危ない状態だと思うんだ」


今の彼は導火線に火が付いた爆弾に近い。

全力を出せば出すほど導火線は短くなっていく。

そしてある境界線を超えれば・・・自壊する。

恐らくだが。


セラエーノの言った通りリミッター以上の力を持っているのだとすれば、だが。


「暴走して自滅するのを待つの?」


「・・・トーマさんの力と災竜の力。

 限界近くまで高めれば災竜に軍配が上がる。

 なら、どこまでやれるかで次の動きが・・・いや、でも」


能力で言うならば災竜が上。

だが、その限界値を考えれば互角かもしれない。

展開次第ではこちらから横槍を入れなければ。


「セラエーノさん、とにかく状況を見よう。

 いつでも動けるようにしておいて」


「わかった、手遅れになる前に指示を出してね」


その言葉に八霧は頷いて返す。

自分の額に少し汗をにじませながら。


――――――――――――――――――――


何度かの斬り合い。

お互いに致命傷を避けながらも攻撃を身体に当て合っていた。


「ふふ・・・いいぞ、とてもいい」


こいつは段階的に力を上げているようだが・・・。

一気に開放することはしていない。

・・・何故だ?


その気ならば俺以上の力を行使して圧倒することもできるハズ。

なのにしないということは・・・?


(慣れていないか、或いは出せないかどっちかだが)


力を籠めた一撃を回避しつつ、そう思案する。

技の切れも、それに含まれた力も想像以上だが。

予想をはるかに上回るほどの強さはまだ見せていない。


「何故本気を出さない?」


「本気で相手をしたら一瞬で終わるだろう?そんなものつまらん」


余裕の顔を見せ、そう言い放つ災竜。

だが奴にとって俺はこの世界での目の上のたん瘤のようなもの。

さっさと殺してそれを取り払いたいはずだ。


いくら戦闘狂とは言えいつまでも遊んで戦うはずがない。

事実奴の身体中は既にこちらの攻撃で傷だらけになりつつある。

・・・やはり考え通り扱え切れないほどの力に手こずっているのかもしれない。


――――――――――――――――――――


災竜は自分自身に溜められた力が己の考えを遥かに超えていることに気づいていた。


そもそも封印が解かれなくとも、自分で打ち破れるほどの力は既に溜まっていた。

数年前からその状態ではあったが、しかし力の定着には時間必要だったのだ。


故に封印された状態のまま力が落ち着くのを待った。

そして・・・頃合いを見計らってこの暴挙に出たのだ。


だが現実は彼の身体を蝕むほどの力が己の中に眠っていた。

大昔に封印され、その際に本体を失ったこともそれの一因となった。

結果、ギルダーという体に全ての力を押し込んだ状態となっている。


いくら強くとも人の身体、大きすぎる力は必ずしもその肉体を朽ちさせる。

最後に行ったこの戦争と戦乱による強化、それこそがトリガーになっていたのだ。


(何ということだ、我自身を滅ぼしかねんほどの力だ)


体内から湧き上がる純粋な力。

それは意識を吹き飛ばしそうになる位強い衝動を備えてせせりあがってくる。

目の前にいる男を見ながら災竜は心で呟く。


(だが、抑えられん、抑え切れん。目の前に強い者がいるのだ!)


それは生まれ持っての性か或いは災竜としての宿命か。

自身がどうなろうとも強い者を打ち倒す。

それが彼の生きる意味であり、そして混沌をもたらすものとしての宿命でもあった。


「人間!貴様を殺し我が望みを!」


災竜は一つそう吠えると、体中からどす黒いオーラを放つ。

例えどうなろうがこの身体は特別。

そう簡単には朽ちぬと、災竜は心の中で笑う。


だが、彼は気づいていなかった。

オーラを纏ったその瞬間に、体中が一瞬軋んだことを。

読んで下さり、ありがとうございました。

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