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274話

トーマと災竜が戦いを始めて僅かに過ぎた頃。

既に始まっていると思われていた八霧と影の戦いは小康状態となって止まっていた。


始めは何度か切り結ぶようなこともあったが、

お互いに決め手に欠け間合いを取り合う状態で時間が過ぎている。


だが何時までも戦わないというわけにはいかない。

覚悟を決め、間合いを詰めようと一歩踏み出したその時。


「・・・運のいい奴だ」


そう一言いい残すと影は一足飛びでその場から立ち去った。

追撃しようにも既に距離が離れすぎている。


「運のいい?」


どちらともに殆ど攻撃する事も無く、ただ睨みあっただけで終わった。

時間稼ぎのために攻めて来たのかとも勘ぐるが・・・。

去り際のセリフを考えるにそれは無いだろう。


「八霧様、ご無事ですか!?」


「ああ、うん・・・拍子抜けだけど」


何の目的で彼が攻めてきたのかが分からない。


「・・・まあ、いいか。それで他の部隊の状況は?」


今はそれはおいておこう。

それよりも現状が知りたい。


「斥候の情報によりますと、トーマ様率いる部隊が何者かと接触。

 交戦状態に入ったとの報告が・・・いかがいたしましょうか?」


「・・・」


それだ、奴が去った理由は。

恐らく援護に向かったのだろう。


「場所は?」


「ここからかなり近い場所です」


ならばそこに向かわなければ。

恐らくそこで起きている戦いはこの戦争の全てがかかった戦闘になっているはずだ。


――――――――――――――――――――


「むん!!」


セラエーノもまた影との戦闘を繰り広げていた。

お互いに傷を負いながら、一進一退の攻防を繰り広げる。


「やはり、別世界の強者・・・ウキウキするな」


「言ってる場合なの?ほら!!」


ハンマーを頭上で振り回しながら、遠心力を生んでいるセラエーノ。

十分に力を得たその得物が影に向かって襲い掛かる。


「ふ・・・」


余裕の顔を見せ、振り下ろされるそれを回避する影。

地面にハンマーが衝突すると、衝撃をあたりにまき散らした。

影は、衝撃をまるで風に乗るように回避しながら間合いを取っている。


「力だけは一人前だが、その程度では」


「言ってくれるわね・・・!生産職を舐めてると痛い目に合うわよ!」


持っていたハンマーを投げ捨て、両手に小型の槌を二つ持つ。

重量が軽くなった分、一気に間合いを詰めるセラエーノだったが。


「!」


明後日の方向を見た影は、何かに気づいたかのように空中へと浮遊する。


「逃げる気!?」


「呼んでいる・・・戦いは後だ」


そのまま、目にも止まらない速さで飛び去っていく。


「なにさ・・・!いや、ちょっと待って」


飛んでいった先には主力部隊がいる。

まさか、あっちを襲って壊滅させる気じゃ・・・?


「させるか!」


飛び去る方向へと全力で走り出すセラエーノ。

その姿を見た兵士達も後に続くように移動を始めた。


――――――――――――――――――――


八霧、セラエーノの戦いが中断するとほぼ同時刻。

本体である災竜は不敵に笑いながらトーマを眺めていた。


「こちらも、全力を出すとしよう」


そう言った災竜は力をためるように中段に構える。

彼の纏うどす黒いオーラが彼を包みながら天高く舞い上がり始めた。


その黒いオーラに導かれるように遠方から接近する二つの黒い存在。

災竜に似たそれは躊躇なく渦巻く中に飛び込むと、見えなくなった。


「なんだ・・・今のは?」


少なくとも人間ではない。

人影には見えたが、よく見えはしなかった。


「この程度か、まあいい。他の三人も合わせれば・・・!」


オーラは更に風を巻き起こしながら広がる。

今度は災竜に向かう逆風が吹き荒れ始めた。


「・・・む、あちらの三人は倒されたか。貴様の仲間が健闘したおかげだな?」


「何?」


いつの間にか黒いオーラが薄まり、その全てが災竜に吸い込まれた。

先ほどまでとは違い随分と落ち着いた顔を見せている。


「トーマ、我の秘密を教えてやろう」


そう言うが否や腕を振りかぶって一瞬にして間合いを詰めてくる。

急な動きだったが、何とか盾を構える時間は・・・。


盾に衝突したと思われる拳は、その盾を砕きながらこちらへ向かってきていた。


「な・・・っく!」


直撃しまいと身体をのけ反らせて回避する。

何とかすんでで回避は間に合い、空振りで終わった。


「我が力は混乱や混沌、人の叫びや悲しみ。

 負の感情により増幅し増大する」


二撃目を受けまいと間合いを取りながら奴の言葉を聞く。


負の感情?増幅?

つまり、あいつは・・・。


「まさか力を得るためにこの戦いを起こしたのか・・・?」


「半分は正解だ、半分は・・・起こるべく戦争が今起こっただけの事」


手に持ったままの盾だったものを捨てる。

次の盾を袋から取り出し、構えながら奴の出方を見る。


「そして今、貴様を上回る力を手に入れたのだ。

 この大戦争によってなぁ!」


「そうか・・・だが、やってもいないのにそんな言葉を吐いていいのか?」


フラグになるぞ、とでも言いたかったが。

実際の心境はそうではなかった。

使っていた盾は破壊されてもさほど痛くない汎用品だが、

だとしてもスキルで強化されている盾を一撃で破壊してきたのだ。


奴の言葉はあながち嘘ではないことはそれで分かる。

こちらも持っているすべてを持って挑まなければいけないことも。


「力が溢れて堪らん、さあ存分に殺しあおう」


実に愉しそうに笑う災竜。

清々しいほどに、何も曇りのない顔で笑っている。


「・・・」


本当に、殺し合いが好きなのだろう。

屈託のない歪んだ笑顔をこちらに向けているのだ。


・・・ここで倒さねばこの大陸も、仲間たちも危うくなる。

そんな事を直感させる何かが奴の笑顔には見えた。


「お前だけは確実に仕留める」


槍の穂先を向け、そう呟く。

それを嬉しそうな顔で災竜は見ているのだった。


――――――――――――――――――――


トーマと災竜の戦いを観戦するように敵味方共に一定の距離を保っている。

今まで戦いがあったことが嘘のように、肩を並べてその姿を見守っていた。


その中で八霧とセラエーノは合流していた。


「なんか、変な空気」


「皆、二人の戦いを見守っているんだよ」


ゼローム側も救援に訪れたバルク側の増援の兵士も、

目の前の戦闘を食い入るように見つめていた。


「・・・遠距離から援護する?」


その言葉に八霧は首を振る。


「今目の前で起こっている戦いは、この戦争の行く末を決める重要なもの。

 ・・・悔しいけど僕たちにできるのは見守る事だけだよ」


「もどかしい・・・何とか助けられない?」


「そんなことしたら災竜が更に力をつけるだけだよ」


「え?」


八霧は考えていた。

そしてその答えが災竜の口から洩れた時に合点がいったのだ。

・・・下手に戦闘を起こせば災竜が有利になるだけ。


ならば今の状態はこちらにとって都合がいい。

刺激して戦闘を繰り広げるよりは、見守っていた方がいいのだ。

少なくとも奴に力を与えることはこちらの不利にしかならない。


「だけど、戦闘がどうなるかは分からない。

 ・・・一応保険は打っておいた方がいいね」


「分かった、何するか分からないけど手伝うわよ八霧君」


胸を叩いて任せろというセラエーノ。

その言葉に八霧は頷いて返した。


読んで下さり、ありがとうございました。

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