259話
隣にいた戦友が膝を崩して地面に伏す。
背後を守ってくれていた支援兵も折り重なるように死体になっている。
目の前にいた隊長は果敢に斬りかかり、敵兵数名を道連れにして息絶えた。
俺は今、混沌の真ん中に立っている。
いくつもの死体が折り重なり、山となっている戦場に突っ立って・・・。
「おい!馬鹿野郎!!」
身体に衝撃が走る。
同時に土の苦い味が口に広がった。
「戦場でぼさっとする奴がいるか!しっかりしろ!」
ここは最前線、両者が入り乱れての戦場の先端。
数十名いた俺の所属する歩兵団はわずか数十分で壊滅。
俺だけが残されていた・・・残ってしまった。
「いい加減に目を覚まして武器を持って戦え!」
前進に返り血を付けた兵士が自分に武器を渡してくる。
俺は・・・。
「・・・戦う、戦うしかないんだぁ!」
渡された武器を強く握り、敵陣へと走っていく。
負けるわけにはいかない。
故郷に残した年老いた両親の為にも。
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戦場は血塗れだった。
お互いがお互いを押し合い、混ざり合い。
激戦を呈した結果と言えばそうだ。
戦況は僅かにこちらが有利、バルク側の防衛部隊を後方へと下がらせつつある。
別動隊も有利に進めているという報告が来た、
このままなら城塞まで押し込めるだろう。
「被害は?」
ゼローム兵を率いていた隊長がそう呟く。
すると頬に血糊を付けた伝令が目の前で膝を折った。
「は、第3歩兵団が壊滅、第5歩兵団も半数がやられています。
しかし、本国からの増援である義勇兵の援護のおかげで敵を撤退させつつあります」
「・・・フェイ殿とレンドガ殿の部隊か」
始めはまばらの装備でまるで兵としての体裁を成していない部隊に見えたが。
実際は、彼らの戦場での働きは目を見張るものがあった。
「傭兵達、いい活躍をするな」
「負けていられませんね」
「その気概は良し・・・だが無理はするな」
彼らは彼らだからこそ大暴れできているのだ。
我々では到底まねのできない芸当、まさに戦場で生きる者達の戦い方。
「我々は彼らの援護に徹すればよい、適材適所という奴だ。
だが退くな、正規兵が退いては話にならんからな」
こうしている間にも前線の戦いは激化の一途をたどる。
朝方に始まった戦いは、昼を過ぎるころには更に戦闘地域を増していた。
――――――――――――――――――――
「前線が押されつつある、か」
「はは」
バルク側もこの状況は想定内といった雰囲気だった。
冷静に前線の指揮官は後詰の兵を押し上げていく。
「兵力、物資、地の利。すべてこちらに傾いているのだ。
案ずることは無い・・・我々は勝ちを待てばいい」
前線指令部であるテント内は、敵の善戦に慌てた様子を見せていたが。
指揮官のその一言で落ち着きを取り戻し、自身の業務へ戻っていく。
「しかし予想よりも多少早いかと。
この場所まで来るのに半日と掛かりますまい」
「なぁに、これ以上の進軍は出来ん。
そのために防衛陣を張り巡らせているのではないか?」
彼の部下、老体の軍師は一つ咳払いをした。
「何事も例外、予想外というものがございます。
それに備えるも兵法の一つかと」
「これだけの大戦、予想外などあるものか。
ましてや力と力がぶつかるこの場で、力に勝る我らが押し負けるなど・・・」
現に敵の斬りこみ部隊の進軍速度は目に見えて遅くなっている。
先ほどの報告だと第一拠点は突破したようだが、
第二拠点の防衛網に手を焼いているということだ。
「敵には一騎当千の兵もいるとのこと。そ奴が何をしでかすか・・・」
「ん・・・?はっはっは!たった数人の兵士に何が出来ようものか。
それとも数万の軍勢をたった一人で相手取る奴がいるとでも?」
「戦争は狂気そのものです、その狂気から生まれる力もございましょう。
せめてこの陣地を後ろに下げるだけはした方がよろしいかと」
下げる、と聞いて指揮官の眉が吊り上がる。
「逃げろというか」
「後方へ陣を移すだけでございます」
「要らん・・・決戦で下がろうものなら臆病者と呼ばれる!
後退は無いものと思え!!」
「は、はは・・・」
もう意見は通らないとそう判断した老人は静かに口を閉じた。
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敵陣の前線指令部は引き下がらないようだ。
それは我々の尖兵が司令部近くまで突出したのに、
撤退する様子を見せなかったことで確信した。
突出した兵たちは直近を護衛する近衛兵によって蹴散らされ、
戦いはギリギリのところで硬直しつつあった。
「ちぃ・・・!ここまで来て尻すぼみとはな」
「あと一歩、なのですがね」
司令部とする拠点を前にゼローム軍の動きは静止。
近衛兵の働きも大きいが、それ以上に厄介な事態が発生した。
動きを止められたことで陣形の横側から敵が集中攻撃を仕掛け、
一部の部隊が壊滅判定を受ける事態になってきていたのだ。
「押し倒してでも突き進め!このままでは袋叩きになるだけだ!!」
ここまでくれば小細工は不要、邪魔するものを蹴散らして突破するのみ。
勢いはこちらにある、後は崩すだけなのだ。
「おらおらぁ!!立ち止まるんじゃねえ!」
レンドガが近衛兵の集団へと突撃していく。
迎え撃とうと武器を構え、彼の目の前に立ちふさがるが。
力の差のせいか太刀打ちできずに蹴散らされて行っていた。
のだが。
「むぅ!?」
振り下ろした斧が何かに弾かれ、レンドガの体勢が崩れる。
弾かれた反動のせいか、レンドガは腕を押さえている。
あれほどの大男でしかも怪力を誇る者の一撃をはじく相手。
只者ではない、そう思いながらフェイは彼を止めた者を見た。
「親衛隊隊長オスカー、参る」
「ご丁寧に、どうも、っと!」
自己紹介をしながら斬りかかってきたオスカーに対し、
フェイは軽く身体を動かして攻撃を回避する。
だが、空ぶった長剣を木の枝のごとく軽く振り返して再度剣を彼へと向けた。
「!」
すんで、顎のあたりギリギリでその一撃を何とか回避する。
いや、回避したつもりだったが顎のあたりから血が滴っていた。
滴る血をフェイは指で拭う。
「なるほど、手練れだな」
「そんなもん!力でねじ伏せるだけだ!!」
レンドガはそのまま突進していく。
「やれやれ・・・援護はするよ」
フェイはレンドガの死角になりそうな場所へと向かう。
「掛かって来い、ゼロームの犬どもが」
「おらぁぁ!!」
「はあ!」
レンドガの攻撃に合わせ、フェイも動く。
相手の回避位置であろう場所へと。
だが。
「!?」
レンドガの攻撃をそのまま、鍔迫り合いの要領で受け止め。
彼を力で押し返し、よろめかせていた。
「な・・・レンドガが押し負けた」
「ぐぅぅ!?こいつめ!」
意地になってレンドガは再び体勢を直すと同時に斬りかかる。
隊長もそれに応じるかのように構えて再び鍔迫り合いを行った。
「力押しでは勝てんぞ!」
身体を翻しながらレンドガの力を逃がす。
急に押さえていた力が無くなった大男の身体は倒れかける。
隙だらけとなったその身体に剣を突き刺そうとするが、
その切っ先はフェイの投げた石が明後日の方向へと弾いた。
「・・・面倒だな、貴様」
地面に倒れ土煙を上げるレンドガ。
その身体を中心に、隊長とフェイは睨みあう形となっていた。
「その言葉そっくりそのまま返すぜ」
睨みあうフェイの顔からは、冷や汗が流れていた。
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