241話
「さて、自己紹介と行こうか」
「・・・」
二人が対峙して数分。
しばらく無言だった両者だったが、
災竜がそう話し始める。
「我は災竜、この世に破壊をもたらすために生まれた者。
大陸を焼く災禍そのもの」
「・・・トーマだ」
「ああ、知ってる」
知ってる、か。
やはりこいつは。
「お前はギルダーなのか?」
隠しもせず、そのまま本質を突いた。
その問いに対して肩をすくめて見せる災竜。
「そうでありそうではない」
「何?」
ティアマの格好を取っていた災竜は一瞬黒い霧に包まれたかと思うと、
その姿をギルダーのものにしていた。
「ギルダー」
「我はその昔、一人の戦士に負けた。
いや・・・正確には時間を稼がれ封印されたに近い」
「・・・」
一人の戦士、か。
恐らく宵闇さんの事だろう。
今までの事、それにGさんの残した情報をもとにすればだが。
災竜はゆっくりと自分の身体を眺めながら、話をつづけた。
「その封印の影響で我は身体を失った。
故にもっと強く、もっと強靭な身体を欲したのだ」
右手に握り拳を作ると、グッと握った。
それを見つめながら災竜は言葉を続ける。
「リウ・ジィが我を滅するために呼び出したその戦士。
その戦士のいる世界から新たなる身体を呼び出そうとそう画策したのだ」
「・・・それが」
ギルダーだったのか?
いや・・・だが、だったら。
「災竜、俺達が飛ばされたのはお前のせいか?
その話ならギルダーだけ飛ばされてもおかしくないが?」
再び肩をすくめて見せる災竜。
「転移させるのは初めてでな。
予定ならばこの身体のみを切り離すつもりが、辺りまで巻き込んだ。
・・・それがお前たちだ」
俺を指さす災竜。
・・・何てことだ、この世界に転移したのはこいつのせいか。
だとしたら、もう一つ気になることがある。
「何故俺を選ばなかった?ギルダーよりも素体としては優れてたはずだぞ」
少なくともギルダーよりはステータスが高かった。
Lv差もあったし、奴の言う強い身体が欲しいのなら俺を狙ってもおかしくない。
いや、力のみを求めるのならそうするのが妥当だったろう。
「ふ・・・適正というものだ。
無作為で身体を選べるほど当時の我は力を取り戻してはいなかった」
「当時・・・今は違うか」
「ああ」
一つ頷いて返す災竜。
その目は赤く光っていた。
「ギルダーを吸収した今、次はこの世界で最も強力な貴様を吸収する」
「・・・そうか、そうだったか」
吸収されたのか、ギルダー。
目の前のこの存在に。
・・・多少ほっとした部分があった。
あいつの意志で、あいつの考えで世界を滅ぼそうとしていたわけじゃない。
少なくともこいつの口ぶりから判断すればそうだ。
なんだかんだ言っても、あいつもギルドの一員。
狂ってこの世界を破滅させようとしているわけではなくて安心した。
つまり、悪いのは。
ギルダーの身体を乗っ取り、世界を壊そうとする奴。
目の前の災竜そのものだ。
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災竜が欲しているのはこの世の破滅。
その為には自分以上の力を持つ者は邪魔なのだろう。
・・・故に俺が一番の障害になっているということか。
「しかし威勢のいいことだ、仲間を連れてくればいいものを。
一人できて英雄気取りか?」
「お前が何者なのかはっきりしなかったから一人で来た、それだけだ」
だが、今となってはそれは正解だったと言える。
目の前にいるのは八霧や神威では相手にならない強敵。
Lvが高い戦闘職であり攻撃特化の魔法剣士なのだ。
その点俺は防御寄りの構成、魔法剣士に対しては戦いやすい部類に入る。
Lv差も考慮しても一騎打ちで負けることは無いはずだ。
・・・まあ、災竜の奴が能力を底上げしている可能性もあるが。
(まずいなら、短距離テレポートで逃げるだけだ)
お互いに距離を保ちながら初撃をどちらが取るかを見合う。
災竜の事だ、チート並みに能力を上げているかとも思ったが。
様子を見るということはそこまで底上げが出来ていないようだな。
「行くぞ、トーマ」
「!」
災竜が低く構え、手に剣を生成する。
そしてそのまま突撃をするかと思いきや。
「ぐ・・・!?」
胸を抑えてうずくまり始めた。
「ち・・・!抑えたと思った、が」
「うるせえ!俺の身体だ!くそが!」
・・・?
一人芝居を始めたのか、まるで会話するように叫ぶ災竜。
うずくまりながらも会話は続き。
「貴様・・・あとで・・・・」
「うるさい!!」
自分の胸を一つ強く叩く。
すると、すくりと立ち上がった。
「おっさん!」
「・・・一体、何が・・・いや」
雰囲気で分かる、こいつはさっきまでの災竜じゃない。
だとすれば・・・まさか?
「ギルダー、か?」
「ああ、俺だ!って、そうじゃない!急いで俺を、俺を殺してくれ!」
殺せ?
・・・待て。
「こいつを抑えていられる時間なんてたかが知れてんだ。
これ以上、こいつを大陸で暴れさすわけにはいかねえ!」
手を広げ、無防備のまま立ちすくむ。
まるで切れと言わんばかりに。
「あんたなら殺せる!頼むよ!」
一体何が起きているんだ。
目の前の存在は災竜で、ギルダー。
「乗っ取られて、随分立つけどよ。これが最後のチャンスなんだ!」」
「乗っ取られる・・・そうか」
奴はギルダーの身体を奪ったわけじゃない。
ギルダー自身を乗っ取ったのか。
だから、今目の前にいる人格は。
ギルダー本人だ。
「あんたには色々迷惑を掛けたし、何かを頼める立場じゃないことも分かってる。
だけど、頼むよ・・・一生のお願いだ」
すがる様な目でこちらを見てくるギルダー。
・・・そうだな、お互いに何かを頼めるような仲じゃない。
だが、こいつだってヘルフレイムの一員だ。
「・・・引きはがせないのか?お前ごと殺すことになるぞ」
「構わねえ!・・・いや、死ぬのは多少怖いけどよ。
もう、引きはがせない程にくっ付いちまってるんだ」
頭を抱え、何かを必死に抑え込んでいるギルダー。
「ぐ・・・!くそ、もう」
魂が抜けたように、ギルダーの身体が崩れ落ちる。
「全く、貴様の身体ではなくなっているというのに。
困ったものだな、未練がましい人間とは」
胸を押さえながら災竜が立ち上がる。
苦しかったのか息が多少乱れていた。
「災竜」
「ふん、こいつは気づいていないだろうが。
この身体を滅しても我は死なん、仮の身体だからな」
つまりここで倒しても、何の意味もないということか。
「今日はここまでにしておこう、次会うときに雌雄を決するとしようか」
災竜は一度身体をくるりと回す。
すると黒い霧が立ち込め、身体を包むと身体が消えてゆく。
「待て!」
「・・・次は万全の体勢にて待つ、覚悟しておけ」
再度胸を押さえて災竜は消えていった。
「ギルダー・・・」
虚空に消えたその姿を追うように、俺は空を見上げた。
ギルドのメンバー、その身体がこの世界を滅ぼそうとしている。
「宵闇さん、これは止めるべきなんだよな。
少なくとも・・・ギルダーをあのまま放っておくわけにはいかない」
死にたがっていた。
・・・俺に文句ばかり言う奴だったが、それでも。
「団員は助けるもの、そうだよな」
読んで下さり、ありがとうございました。




