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集団転移!ーギルドメンバーごと転移したLvカンスト竜騎士-  作者: 倉秋
ゼローム皇国の騎士編-御前試合ー
24/381

24話

次の日の朝。

身体を動かす目的で、カテドラルの周りをランニングしていた。

すると、カテドラル裏の練兵場周辺に大型の施設が組まれていた。

あれが、御前試合の会場なのだろうか。


近付いてみると、看板が立っていた。

会場の看板には『第127回ゼローム御前試合』と書かれている。

127回・・・歴史ある大会という事か。


昼頃に予選会が始まるというのに、既に何人かは施設内で訓練をしているようだ。

外側からでも剣同士がぶつかる金属音や、鈍器のようなものを振る音が聞こえる。

俺も、もう少し走っておくか。


「あ、トーマ様」


すれ違った金髪の少年に声を掛けられた。


「トリス?」


騎士見習いのトリスが立っていた。

手には書類と荷物を抱えていた。


「僕の名前を憶えていてくれたんですね、光栄です!」


「ああ・・・それで、何か用か?」


そうだ、とトリスは一言呟くと、手元の書類を渡してきた。


「これは?」


「戦況報告書が届きましたので、皆さんに配っていたんです。

 トーマ様が最後だったんですけど、見つかってよかったです」


書類に目を落とす。

それは、国境沿いでの決戦の報告書と戦況分析が載っていた。


その報告書によると。

ゼローム皇国軍は8割以上を喪失、壊滅状態になり本国へ撤退。

一方のヘルザード帝国軍は1割弱の損失で、国境付近まで進軍していた。


しかし、突撃部隊であり斬り込み部隊でもあったグスタフ将軍率いる部隊が、

急遽撤退、それに続くように前線部隊が進行を停止。

今は帝国軍と、ゼロームの増援との睨み合いが続けているとの事。


ただ、この報告書自体が急増のものなので、常に戦況は変わると補足されていた。


「つまり、しばらくは攻め込んで来ないのか」


何故撤退した・・・?

絶好のチャンスだったろうに。


「なんでも、グスタフ将軍を倒した人がいたらしいんですよ。

 すごいですよね!あのグスタフ将軍を、ですよ!」


なるほど、突撃部隊の隊長がやられたのか。

それで勢いを無くした軍は進軍を停止、睨み合いになったと。

しかし・・・トリスの興奮具合はすごいな、グスタフっていう奴はそんなにすごいのか?


「・・・グスタフっていうのはそんなにすごい将軍なのか?」


「帝国で一番の戦士と呼ばれる若き将軍です!

 敵味方問わず、人気がある将軍ですよ!」


そう、興奮交じりで話している。

余程出来た将なのだろう。


「そうか・・・だが、彼がやられたことは、ゼロームにとってはいい事だな」


「・・・そうですね、一時的とはいえ相手の攻勢を回避できたんですから」


この様子なら、次の攻撃までは時間が空くだろう。

争いごとは、初めの勢いを削がれると二の手を打つのは遅くなると聞く。


とはいえ・・・聖堂騎士が国境沿いに派兵されるのは避けられないだろう。

正規軍が壊滅した事実を考えれば、正規軍の援護だけでは物足りないはずだ。


「それで、トーマ様は一体なにを?」


トリスがそう聞いてくる。

そう言えば、ランニングの最中だった。


「・・・御前試合に出ると決まってしまったからな。

 ランニングの途中だ」


「え?御前試合に・・・!」


「ああ」


トリスの顔が輝いている。


「すごいですね!入団早々御前試合に出るなんて!

 ・・・僕なんて、入団して数年経ちますけど、まだまだ未熟で」


そう言う、トリスの顔と体を見る。

軽装鎧から覗かせる、腕や足には無数の切り傷の後。

剣の鞘もボロボロ、恐らく・・・中に入っている剣も傷んでいるだろう。

だが、彼が整備を怠っているというわけではなさそうだ。

むしろ・・・訓練の為にボロボロになったという感じに近い。


「・・・そうだな、少し時間はあるか?」


「え?」


――――――――――――――――――――


トリスを連れて裏の練兵場とは違う、もう一つの練兵場に来た。

こっちは、屋内の練兵場だ。


「あの、トーマ様・・・一体何を?」


練兵場はほとんど人がいない。

まあ、こんな朝早くだ。


俺は練兵場の横に置いてあった武器を見繕う。

ほとんど刃こぼれが目立つ剣や槍ばかり。

新しいものは殆どない。


「仕方ない・・・トリス」


道具袋に手を突っ込むと、ブロードソードを取り出す。

エリサの材料収集の手伝いの際に手に入れたものだ。

・・・俺にとっては、もう要らないものだ。


「ほら」


鞘を持ち、トリスに手渡す。


「え、あの・・・これは?」


「そいつで俺の相手をしてくれ」


その言葉を聞くと、トリスは目を丸くして俺を見た。

そして、焦りだした。


「え、あの・・・僕は、まだ見習いで・・・その」


「俺からは攻撃はしない、ただ、打ち込んできてくれ」


そう言うと、左の小手にラウンドシールドを取り付ける。

右手には、訓練用のロングソードを握る。


「・・・打ち込むだけ、でいいんですね?」


そう言うと、トリスは鞘からブロードソードを引き抜いた。


――――――――――――――――――――


俺がしたかったのは、防御のおさらいだ。

トリスのような、訓練途中の騎士も、ベテランの騎士も基本は同じだ。

攻撃は武器にもよるが、大抵は斬り、突き、殴打に大別される。

特に剣は、そういう意味ではバランスの取れた武器だ。

刃による斬撃、刃先での突き、剣の側面や柄頭を利用した殴打も可能だ。


「行きますよ・・・!」


やる気になったのか、トリスが剣を構える。

その構えは、剣を上段に構えている。


(・・・上段からの打ち下ろし)


トリスが走りだす。

間合いに入ると同時に剣を力を籠めて思いっきり振り降ろす。

その剣の軌道に合わせて、俺は盾で軌道を塞ぐ。


キィンという金属音が響いた瞬間に、盾を斜めにずらした。

力を流されたブロードソードの刃先は、盾を滑るように地面へと落下した。


「うわぁ!!」


力一杯振り下ろしたためか、剣に引きずられるように体勢を崩すトリス。

こけたような姿勢で地面に横たわるトリス。


「・・・トリス、初撃から全力を出すのは愚策だ。

 相手の体力も精神力も、ほとんど削がれていない状況では、

 渾身の一撃は回避されやすいぞ」


相手との力量差が明白なら、それも選択肢に入るが。

自分と同じか、それ以上なら初撃は様子見の方がいい。


「は、はい・・・!」


ブロードソードを構え直すと、今度は突きの構えを見せる。


「突きをする場合は、相手の対処しづらい場所を狙うんだ。

 俺とトリスには体格差がある、その場合の死角は・・・ここだ」


そう言うと、下半身を指さす。


「上半身を狙えば、俺は盾で弾けるが・・・

 下半身の場合は、俺は回避するか剣で弾くしかない」


ラウンドシールドでは、しゃがまないと足元まで防御できない。

手を伸ばしても足先までは防御できないからだ。


しゃがんだ格好は死に体に近い。

立ち上がる動作の時に、隙が生じる。

ベテランのプレイヤーともなれば、その隙を見逃すはずが無い。


「下を・・・狙う・・・!」


トリスの突きが、俺の脛辺りを狙う。


「上手いぞ」


足を一歩下がらせると、突きの一撃が床に当たる。

石床に擦れたブロードソードの先端から火花が出る。


「あ・・・」


突きの姿勢のまま、俺を見るトリス。

その顔は、やってしまったという顔だ。


「だが、回避は簡単だ。斬りに比べれば、突きは点の攻撃―――」


「ご、ごめんなさい!」


そう言って、トリスは頭を下げた。

ごめんなさい?


「おいおい、俺は怒ってる訳じゃ」


「け、剣を・・・傷つけてしまいました」


そういうと、ブロードソードの先を指さす。

石床とぶつかった部分に、刃こぼれが見える。


「気にするな、形あるものはいずれ壊れる。

 それに、お前が気にするべきは、突きの後の体勢だ」


「・・・体勢?」


「俺に突きを交わされた瞬間に、回避行動を取らなかった。

 俺が敵なら、右手のロングソードで攻撃していただろうな」


そう言うと、トリスは顔をはっとさせた。


「まあ、お前もまだまだ見習いなんだ。

 ・・・だが、敵と戦うには修練不足だな」


そう言って、トリスの頭をポンと叩く。


「はい・・・すみません」


そう言う、トリスの顔はしょんぼりとしていた。

・・・。


「もう少しだけ、付き合ってくれ。身体を動かしておきたいからな」


そう言うと、俺は間合いを取った。


「は、はい!」


それからしばらく、トリスとの稽古が続いた。


彼は真面目で、伸びしろがある。

・・・いずれは、聖堂騎士になれるだろう。


読んで下さり、ありがとうございました。

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