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231話

居ても立っても居られず俺はトレーの上のパンを分捕るように取る。

そしてその部屋から飛び出すように家を後にした。


後ろから呼び止めるような声も聞こえてきたが、一目散に道を走っていく。

振り返る事も無くただ走り続けた。


「くそ!くそ!くそ!」


自らの情けなさに嫌気がさす。

現実じゃ、頭も良くないし運動もまるでダメ。


ゲームの世界だけは強くあれたというのに今はその身体をもってしても、

俺より力の弱いだろう民間人に助けられる始末。


数分走り、息も絶え絶えで道端に止まる。

肩で息をしながら手に握ったパンを見た。


「情けねぇ・・・情けねぇよ・・・俺」


一人じゃないにもできないという、現実で味わったそれが今になって甦る。

それは気持ちの悪循環になり、その場に動けない程の暗い気持ちを生み出し始めていた。


(やはり、その程度だな)


「てめぇ!いつまで俺に話しかけやが―――」


(ほうほう、ギルドマスターの座を不正操作で勝ち取ったか。

 他の男に嫉妬してその座を奪うとは・・・やはり小物か)


自分が行った過去の出来事を口にする何者か。

いや、ちょっと待て。


「な・・・なんでそれを知ってる!?」


(貴様の記憶も心も覗き放題だぞ?融合しかけている身としては造作もない事だ)


それじゃ、あの時のことも、と呟く。


(友人の力を借りて、その座を奪ったか)


俺の頭の中を読むように声にする。


「あ、あれはダチが勝手にやっただけだ!俺は何も・・・。

 何もしていないぞ!」


何もしていないと自分に言い聞かせるが。

それ以上に覚えている記憶というものは消せないものだった。


―――――――――――――――――――――


転移より数年前のEOSでの出来事。


EOSの世界でも屈指の強敵とされるレイドボスを事も無げに倒す男。


完全に倒したことを確認すると、剣に付いたレイドボスの血を拭った。

自身の身体を確認すると、多少の返り血を浴びており汚れてしまっている。


「・・・らしくないな、いつもなら返り血など浴びないだろうに」


同じく倒したことを確認していた後衛の司祭の服を着た男が近寄ってくる。

その男の名は黄金色のG、ヘルフレイムの現参謀役。

そして声を掛けられた男こそギルドマスターの宵闇だった。


「ああGか・・・そうだな、らしくないよな」


血を拭って綺麗になった白銀に光る剣を見ながら宵闇はそう返す。

そして少し思いつめた顔をしてGの顔を見た。


「実は、最近おかしな夢を見るんだよ」


「夢?ははぁ・・・惚れた女の夢でも見るのか?」


茶化すようにGはそう口にする。


「いやいや、そんな夢のある夢じゃない」


そう茶化したGに対して軽く首を振って返す宵闇。


「どこか別の場所にいる少女が、ずっと俺を呼んでる。

 悲痛にも似た叫びでずっと」


「・・・悪夢か?ふぅむ」


司祭風の顔を少し曇らせながら何かを考えるG。

その様子を見て一つ苦笑を見せる。


「それと・・・時間が経つにつれて俺はここにいられないような気がするんだ」


「ここに?いや、それはまさか引退するということか?」


「似たようなものかもしれないな・・・」


そう呟き、空を見上げる宵闇。

疑似的に作られた美しい夕焼けが広がっていた。


「おいおい待て!お前とトーマで作ってきた団じゃないか!

 今が最盛期だというのに肝心要のお前が抜けてしまってどうする」


「俺にも分からないんだ、この感覚は。

 だから、後が困らないようにお前にこれを」


そう言って、宵闇が手渡した紙。

何か文章のものが書いてあるが。

それを一目見たGは怒りの顔を露わにした。


「馬鹿者!事実上の引退宣言ではないか!!

 トーマか私に選ばせるだと!?勝手を言うな勝手を!!」


「分かってる!分かってるからこそ持っていてくれ・・・」


宵闇は多少悲しそうな顔を見せた。


「何を悩んでいるんだ?言ってくれ、友人じゃないか」


友人という言葉を聞き、一瞬宵闇の顔に戸惑いが見える。

そして少し考えるそぶりを見せると。


「分からない・・・自分でも。

 だが、次にあの夢を見たときには・・・俺はここから。

 いや、この世界、現実から消えてしまう気がするんだよ」


「は・・・?いやいや夢で人が消えるだと?そんなバカな話が」


「俺も馬鹿話だと思っているよ、だからこそ保険にそれを持っていてほしいんだ」


保険と聞き、Gの身体が一瞬止まる。

同時に紙をもう一度眺め、視線を宵闇に戻した。


「保険、保険だな!?分かったそれならば預かろう。

 ・・・消えるなんて二度と言うなよ友よ、そんな寂しい言葉は聞きたくない」


紙を丁寧に懐にしまうと、Gはそのままギルドのたまり場へと向かっていった。


「悪い、悪いなG。俺は・・・」


ここから確実に消える、それだけは感覚が知らせている。

いや、現実世界からも消えるような気がしているのだ。


・・・その不安があるからこそ、彼に紙を渡しておきたかった。

これでヘルフレイムの未来は安泰だ。

信じている二人の友のうちどちらかが継げば問題は、無い。


彼らならば、適任を選ぶ。

恐らくそれは二人のうちどちらかだろうが。


――――――――――――――――――――


(悪い男だな貴様)


「何を・・・!」


(貴様はその現場を見ていた、そうだな?)


「な、違う!」


ギルダーは頭に響く声を遮るように両耳を塞ぐ。


「俺は何もやってない、やってないんだ!」


(嘘をついても貴様の記憶は正直に語っている。

 二人の会話も遠巻きに聞いていた、そして)


「やめろぉぉ!」


(・・・)


やめろ、という怒声が辺りに響く。

同時に声をかけてきた石像の声が急に聞こえなくなった。


「・・・?」


急に静かになったことに違和感を感じ、耳から手を放して辺りを見渡す。

すると目の前には巨大化した石像が立っていた。

それこそ、見上げるほど大きなそれを。


「な・・・ぁ?」


「そこまで心が弱ればもう容易い、汝はもう我の身体になりつつあるぞ」


「は・・・?ぁ?え?」


今まで動いていた身体が動かなくなっていく。

まるで石化していくように重く、固く。


「・・・存分に世界を破壊し尽くすがいい。そうすれば我が身体の復活も近くなろう」


意識が遠のいていく。

今度こそ、深みにはまるような何かに捕まえられていった。


――――――――――――――――――――


森の中心で起きた一人の男がいた。

頭が痛むのか、何度か首を振っている。


「いてぇな・・・」


頭を叩きながら辺りを見渡すと。

こちらを見ている存在を見つけた。


ゆっくりと近づいてくるその姿は猟師らしき服装の男性。

その手に弓を持ちこちらに歩いてきていた。


「おお、こんなところに人がいるとは。

 夜分だというのに武器もなしに狩りか?」


腰に下げたランタンでこちらを照らしてくる。


「見たところランタンも松明もない、迷ったのかね?」


「そんなところだ・・・」


ちらりと男性の手にあるランタンを見る。

この暗い場所を進むにはあれが必要だろう、是非とも欲しい。


「なあ、そのランタンをくれないか?」


「え?ははは、それは無理な話だ。

 私が家に帰れなくなる」


「そうか、残念だ」


一瞬、男性の身体に風が吹く。

森は無風に近いというのに、だ。


「え?」


ランタンが地面に落ちる、男性の右手ごと。


「あ、あぁ、あれ?」


痛みもなく、右手は二の腕から先がなくなっている。

地面に落ちた自分の手と切られた断面を交互に見る男性。


「お、お前は・・・何を―――」


言葉を継ぐ前に、男性の首から上は空中に舞っていた。


「うるさいんだよ、さっさと渡せばいいものを」


ランタンを取り、ギルダーは歩きだす。

同時に首のなくなった身体が地面に倒れ伏した。

宙に舞っていた首はその身体に乗っかるように落ち、そのまま地面に転がる。


「ははは!はー・・・簡単なもんだな。

 ひゃ、ひゃひゃひゃ・・・あっははは!」


ランタンを掲げ、ギルダーは森へと消えていく。

手に持つそれに照らされた彼の影は竜のような形となっていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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