23話
御前試合、それはゼロームにおいて、神に武技を奉納するために行われる試合である。
今ではラティリーズの前で行われる、トーナメント方式の戦いになっている。
リルフェアの時代では勝ち抜き戦になっていたらしい。
だが、その形式だと最初に戦う人物が疲労で不利になる。
その為、今ではトーナメント形式になっているとのこと。
全国から腕自慢が集まり、開催される一種のお祭りに近いらしいが。
一般人の入場は禁止されており、一部の貴族や上級騎士の楽しみの一つになっている。
特に最近は裏で賭け事まで行われているとのこと。
神聖な御前試合を汚すとは・・・
と、御前試合の詳細を語ってくれたイグニスは頭を押さえていた。
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特設された闘技場・・・コロッセウムみたいな場所で、観客に見守られながら戦う。
その闘技場の一番上には天覧席があり、そこでラティリーズが見物するとのこと。
円形闘技場の中で、お互いの武を競い合う・・・ということらしい。
ルールは以下の通りだ。
・基本、一対一の戦い(大会と相手が認めた場合、2人まで助っ人可能)
・相手が気絶した場合は勝ちと見なす
・相手を殺害した場合でも、反則行為が無ければ勝ちと見なす
・戦闘不能状態と審判に判断された場合、負けとなる(利き腕が折られる、歩けない状態等)
・時間制限は無し、場外負けも同様に無し(会場から出た場合は反則負け)
・武器に制限無し、剣でも魔法でも、暗器でも可能
・武器を失った場合でも、本人に意志がある限り戦闘は続行
・戦い方、道具に制限無し
・戦闘前に相手に危害を加えることは、反則行為を見なす
・その他、御前試合の名に恥じる行為を行った場合は反則負けと見なす
要は・・・武器を持ち込んで正々堂々戦えば何も問題なし、という事だ。
ただ、戦い方に制限無しというのが引っ掛かる。
一体、どんな戦いになるのやら・・・。
イグニスの話によると、死傷者が出るのは毎度とのこと。
参加者も本気でチャンスを掴もうと必死なのだろう。
自らの腕を、国に示すという意味も込めて。
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ゴルムの執務室。
聖堂騎士団、団長室でもある。
壁に飾られた勲章の数々に、棚に置かれたトロフィー。
だが、そのすべてはゴルムの父の物だ。
部屋の真ん中に鎮座する執務机には、大量の書類と食べ物が置いてある。
その執務机に備え付けの椅子に座る小太りの男、ゴルム。
彼の目の前には、聖堂騎士団最強とも名高い聖騎士『ゼフィラス』が立っていた。
聖堂騎士団でもトップクラスの剣の腕と並外れた身体能力。
優れた慧眼、思慮深い性格から多くの国民にも慕われている。
まさに、聖堂騎士団の顔とも呼べる存在だ。
「ゼフィラス!分かっているな!」
「・・・団長殿、どうしても私は彼と戦わねばならないのか?」
ゼフィラスは腕を組むと、難色を示す。
その様子を見たゴルムは、唾を飛ばしながら怒鳴る。
「いいか!これは俺の沽券に関わるのだ!
どこから来たのかも分からぬ男に、我が物顔で騎士団をうろつかせるわけにはいかん!」
「・・・」
ゼフィラスはそれを無言で聞いていた。
そして、考えていた。
彼は急に現れ、騎士団でも最上位の職であるラティリーズ様の専属騎士となった。
それを妬むゴルム団長が怒るのも無理はない。
専属騎士は、彼とイグニスのみ。
私は・・・聖騎士としてラティリーズ様に命を捧げた身、そんな役には興味も無い。
「ゼフィラス!聞いているのか!!」
「・・・聞いております、ただ、道理に適いません」
「道理ぃ?」
執務机を叩くと、そのまま身を乗り出し顔をゼフィラスに近づけるゴルム。
身じろぎ一つせずに、ゼフィラスはその場に立っていた。
「私はラティリーズ様の剣です。あなたの剣ではない」
「貴様・・・!」
腰に下げていた剣を引き抜こうとするゴルム。
だが、ゼフィラスは構わずに言葉を続ける。
「しかし、彼の力にも興味があるのは事実。戦ってみたいとも感じています。
・・・それに、御前試合はラティリーズ様への奉納試合。
それを断るのも、聖堂騎士としての道理に外れましょう」
そう言うと、踵を返した。
「お受けしましょう、この戦い」
呆気にとられるゴルムをよそ目に、ゼフィラスは部屋を後にした。
一人残ったゴルムは、ゆっくりと椅子に座り直す。
そして、ほくそ笑む。
「ふふふ・・・!これで、奴の勝利は無くなった。
しかし、ゼフィラス・・・奴をどうにかして操らねば」
そう、一人考えるゴルム。
・・・そして、ある妙案が彼の頭をよぎる。
「そうだ、奴には妹がいたな」
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大図書館に戻った三人。
すると、広間を含めたほぼすべての掃除が終わっていた。
床も、壁も、机の上もピカピカだ。
何が起きた、という前に掃除をした張本人たちを見つけた。
それはメイド服を着た、1号から10号だった。
「掃除させてたのか?」
神威にそう尋ねる。
神威は頷くと。
「集合」
その言葉と共に、1号から10号までが整列する。
いつもながら見事な整列だ。
「うん、ご苦労様」
神威がそう言うと、全員が一礼をして神威の部屋へと向かっていった。
7号を残して。
その様子を見た俺は、7号に声を掛ける。
「まだ、蓋は取れなさそうだな・・・」
まだまだ、命令を聞くだけのドールだ。
彼女たちも、いずれ7号と同じように、自分で考え動く日が来るだろう。
「そうですね・・・あの、トーマ様」
「ん?」
7号はポケットから紙を取り出す。
「先ほど、騎士見習いの方がこれを渡してくれと、訪ねてきました」
その紙を受け取る。
丁寧に折られた紙を開く。
「御前試合の日程か」
それを聞いた八霧が横から紙を覗く。
「へぇ、カテドラルの裏手にある練兵場で開催されるんだ」
「・・・明日?早いな」
日程自体は最初から決まっているのだろう。
訂正されたとも書いてない、元から決まっていた日程なのだろう。
紙には明日は予選会、明後日が本戦と書いてある。
予選会は誰でも参加可能らしい。
ここに集まった中から、16人が選ばれ・・・トーナメント方式で戦うのか。
そして、聖堂騎士代表として俺ともう一人が参加する、と。
「あの、トーマ様」
7号が話しかけてくる。
その顔は・・・心配そうな表情をしていた。
「騎士見習いの方が言ってました。
怪我をするかもしれないのでどうかお気を付けて、と」
「御前試合だからね、死者も出ることがあるって聞くし」
それを聞いた7号の顔が少し青ざめる。
「だ、大丈夫なんですか?」
俺を心配してか、そう聞いてくる。
その気持ちは素直に嬉しいが。
7号の頭を撫でる。
「大丈夫だ、それに・・・これは良いチャンスだ」
「チャンス?」
そう聞き返す7号。
「まず、俺達の力がどれだけのものか、測れる。
これは、八霧と神威の安全にも繋がるだろう」
この中で戦闘職は俺のみ。
しかも、この中では一番生存能力が高いスキルを持っている。
最悪、瀕死になっても生き永らえる可能性が一番高いという事だ。
「八霧、お前は俺が戦っている姿を見て、大体の戦力分析をしてくれ」
「戦力分析・・・か、それなら僕も参加したんだけど」
それを聞いて、俺は少し驚いた。
八霧が、大会に参加する・・・?
「僕も、自分の実力を見てみたいんだ」
「・・・危険だ。一番頑丈な俺が試すべきだろう?」
「肌で感じた方が戦況分析も確実だよ?
それに・・・無理はしないからさ」
そう言って、八霧は俺を見る。
真剣な目で俺を見てくる、ふざけて言っている訳じゃなさそうだ。
俺は近くの椅子に座った。
「・・・どうして、戦いたいと思う?」
「錬金術師として、どれだけやれるかを確かめたい。
僕も、自分の身を守らないといけない状態になるだろうし」
俺が必ず守れる状況にいるとは限らない。
その時は、自分自身の身を守る必要が出てくるだろう。
「だからこそ、僕は参加するよ。怪我なら、ポーションで治せるしね」
そう言って、錬金術師の服の後ろを見せてくる。
大量の試験管のような瓶が内ポケットに入っている。
「それに、僕は・・・トーマさんと戦ってみたい」
服を戻すと、俺を指さしてきた。
「俺と?」
「うん・・・僕だって、トーマさんに齧りつける位の実力はあるよ」
そうか。
・・・当人が出たいというのなら、俺が止める権利もないだろう。
それに、八霧が自分自身でやりたいと言った、その気持ちも尊重したい。
それに、八霧とはかなり久しぶりに戦う。
成長も、見ておきたいと感じたのも事実だ。
「分かった・・・だが、やるからには全力で来い」
「もちろんだよ」
そう言って、お互いに握った拳を合わせる。
八霧の成長を見れるのは、楽しみだ。
手ごわい相手になる・・・かもしれないな。
読んで下さり、ありがとうございました。




