211話
翌朝。
結局ほとんど眠ることが出来ずに朝まで過ごしてしまったカロンは、
多少眠気の残る頭をもたげながら馬上にいた。
「・・・さて、どうなるものか」
昨日のことを思い出す。
フーラが訪ねてきてこちらの事を見抜いてきた。
口には出さなかったが、間違いなく意図は伝わってしまったはずだ。
だというのに、今日の朝方には何も変化がない。
(彼の言った通り、何も言わなかったのか・・・?)
何故?と頭の中で考えるが。
その思案は目の前に跪いた兵士によって中止することになった。
「カロン将軍、『のろし』が見えました」
「あ、ああ・・・そうか」
作戦開始の合図だ。
これから一時間後に反旗を翻すことになる。
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「ははは!見てみろフーラ!」
上機嫌なマースは前線を眺められる小高い場所に、
椅子とテーブルを置いて状況を食事をしながら眺めていた。
その目線の先には彼の用意した大軍勢がじりじりと城壁へと迫りつつあった。
「この規模、装備に軍勢!俺こそが次期皇帝に相応しいということだな!」
「・・・そうですね」
顔色を変えずにそう返すフーラ。
彼も前線部隊の一員として軽装だが鎧を着用していた。
対するマースは豪華できらびやかなマントに正装。
とても戦闘に参加しているとは思えない格好であった。
「そういえばカロンはどうした?」
「後方で準備をしています、負傷兵も残っているようですし。
準備ができ次第最前線に突入すると」
「そうか、役立たずなりにやってるということか」
テーブルの上に置かれている菓子をほおばるマース。
「奴が出てくる前には城壁は突破できるさ、仕事なんてない」
「・・・油断は禁物かと、相手を侮れば確実に馬鹿を見ま―――」
フーラがその忠告を言い切る前に、彼の頭を何かがとらえ殴り飛ばしていた。
それはマースが片手に持っていた馬用の鞭だった。
「おい、フーラ・・・誰がお前を奴隷階級から特別に補佐まで上げたと思う?
お前は利口で賢いが!この状況で負けるはずがないだろうが!!」
顔を殴られ、地面に付したフーラを何度も鞭でたたく。
鞭でたたかれる空気を切るような音が何度も何度もその場に響いた。
「・・・」
頭を守るように両手で隠しフーラはじっと耐えていた。
「ふー・・・!分かったか、フーラ!!
二度と俺に向かって馬鹿などと口にするなぁ!!」
「・・・」
その様子を傍目で見るマースの護衛達。
あるものは目を背けて、あるものは目を閉じていた。
「お前も最前線に出てこい!」
「・・・了解、しました」
鞭で殴られ、腫れの残る体のままフーラはその場を去っていった。
その痛みのせいか体を多少引きずりながら。
痛々しそうな顔で彼を見送る護衛達。
その護衛達に向かってフーラは一つ笑みを浮かべた。
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「攻撃の手を休めるな、いいか攻城戦は波状攻撃が基本だぞ!」
魔法攻撃を幾度となく城壁に浴びせ、その間隙を縫うように歩兵たちが前進していく。
相手の攻撃の密度が高いからか城壁側の反撃はあってないようなものだった。
その様子に前線の隊長はほくそ笑む。
「数を押しての総力戦だ、耐えられまい」
先行部隊が城壁の下に張り付く。
そして梯子をかけると城壁に立てかけ上り始める。
「侵攻部隊の援護を続けろ!ここさえ抜けてしまえばあとはなだれ込むだけだぞ!!」
城壁さえ突破してしまえば後は数で押せばいい。
この場所が最も防御の堅い場所のはずだからな。
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「うおっと!?」
兵士が眼前に飛んできた魔法をすんでで交わす。
城壁内部では、度重なる魔法攻撃によっていたるところが穴だらけになっていた。
魔法防御をかけた岩を重ねているとはいえ、
こうも雨のように魔法が当たれば耐えきれないようだ。
「撤退命令はまだなのか?」
「もう少しだけ待ってくれとよ、後ろの準備がまだなんだと」
「これじゃ命がいくつあっても足りな―――うぉぉ!?」
足元に炎魔法が着弾し、ブーツに火が付く兵士。
それを見た隣の兵士がすぐさま水系魔法で消化した。
「ありがとよ!しかし自慢の一張羅が」
「命があっただけましだろうが・・・直撃なら全身火傷じゃすまないぞ」
へいへい、とその言葉に兵士が返していると。
「おい!撤退命令だぞ!急げよ!」
伝令の声が城壁に響く。
「やっとか・・・よし!全員撤退だ」
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「む・・・?」
一瞬だが城壁の攻勢が完全に止んだ。
どうやら・・・。
「撤退を始めたか!よしいいぞ!もっと押すのだ!」
散発的だった城壁からの攻撃はさらに少なくなり。
魔法攻撃による攻撃で城壁に大穴が開くと、その抵抗は完全に止んだ。
同時に固く閉ざされていた入口の大扉が兵士達の攻撃により損傷。
少しずつ開かれていく光景が見えた。
「隊長!城門並びに城壁は制圧致しました。
敵は市街に撤退したようです」
「ふむ・・・鮮やかな引き際だな」
「鮮やかすぎる気がしますが、いかがいたしましょうか?」
「ふっ!我々に恐れをなしたのだろう、このまま突き進むぞ!」」
馬を走らせ隊長は先陣を切って突撃していく。
その後に彼の部下が続いていく。
隊長に質問をした兵士はその後に続くのをためらっていた。
あの引き際、まるで予定通りの行動のように彼には見えていたのだ。
しかし、戦場の一兵士に過ぎない彼の言葉など誰が聞こうものか。
しばらくすると彼もまた流れの中の一人として、
その大軍と共に突撃していったのだった。
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一方市内へと引いた兵士たちは、要塞化した家々へと退散していた。
「よし、第一段階は成功だな」
「本当に止めれるのかよ!?あんな大軍だぜ」
急いでいたせいか落ちそうになった自身のヘルメットを直しながら兵士は外を見る。
眼前に迫る市内の最も広い道を所狭しと走る兵士の大軍。
勝利を確信しているのかその歩みは非常に軽快そうに見える。
「まあ・・・信じるしかないさ、次の予定は?」
「ここで迎え撃つって話だろ?大丈夫なのかよ・・・」
家には簡易的だが鉄板などで補強、魔法用に札での防御も施している。
簡単には壊れないが、あの大軍に突撃でもされればひとたまりもないだろう。
「元々あの大軍を止められる術は限られているだろう?
その限られた策を軍師殿は練っているのだ・・・我々にはわからぬがな」
「いわれた通りやるしかない、ってか」
弓を構え、窓から馬に乗った敵将を狙う。
「やれっていうならやるしかない!」
「だな!出来るところまではやってやろうぜ」
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市中へと入り込んでくる大軍を眼下に収めるテネス。
彼は帝都にある時計台の上からその様子をじっと眺めていた。
「1、2・・・4。ふむ・・・なるほど」
最初はなだれ込み、分散していた兵力が広場で合流して一つの塊となってきている。
帝都とは言え大軍が通れるほどの道はそうない。
となれば最も広いメインストリートを使うのは常道だ。
狭い道だとそれだけ歩みも遅くなる、あれだけの大軍ならば当然だが。
「やはりその道を選びますか。
しかし常道は読まれやすく、対策もされやすいですよ?」
早速、こちらの方を見ている伝令に向かって持っていた杖を二度振る。
それを確認した伝令は何度か頷くと準備を始めた。
「大軍が固まった今、屠るのは容易いですね」
ここまではある程度読み通り。
後は彼らがうまく罠にかかってくれればいいが。
読んで下さり、ありがとうございました。




