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21話

朝早く、大図書館の扉を叩く音が聞こえた。

その音で意識がはっきりとしてくる。


「・・・うん?」


寝起きは悪い方じゃない。

上半身を起こすと、頭を振る。

寝癖を手で直し、頬を二回叩く。


「よし」


ベッドから降り、身体を伸ばす。

上着を着て、応対するために個室を後にした。



扉を開くと、そこには軽装鎧を着た短髪の少年が立っていた。

10代前半に見える、金髪の少年だ。

こちらと目が合うと、ペコリと一礼される。


「あ、竜騎士のトーマ様ですね。

 リルフェア様よりご伝言があります」


「ああ・・・君は?」


「聖堂騎士見習いのトリスと申します!以後よろしくお願いします、トーマ様!」


そう言って敬礼してくる。


「あ、ああ・・・よろしくな」


元気のいい子だな。

しかし、騎士見習いもカテドラル内にいるんだな・・・。


「それで、伝言は?」


「今から2時間後に、誓約の儀をやり直すとのことです!」


そうか、やり直しになるのか。

お互いが気絶した一件で、うやむやになっているし当然か。


しかし、あの時はラティリーズの光る手に触った瞬間にああなった。

・・・今回は大丈夫だろうか。

あっちも、対応はしてくれていると思うが。


「分かった、準備が出来次第向かう。前の場所で大丈夫か?」


「はい、大丈夫です」


前の大広間でよさそうだ。

八霧(やぎり)神威(かむい)を起こして、準備させないとな。


――――――――――――――――――――


二人を起こし、朝食を済ませ。

色々と準備をしていたら、時間が迫ってきた。


三人で大広間に向かう。

まだ少し早かったのか、大広間にはほとんど人がいなかった。


「ああ、トーマ。もう来ていたのか」


赤髪の騎士がそう声を掛けてくる。

確か・・・


「イグニスさん・・・だったか?」


「よく覚えていたな」


感心したような顔でそう言った。

特徴的な人だから、忘れにくいと思うんだが・・・。


「まさか、貴様が専属騎士に選ばれるとは。

 まあ・・・おとぎ話に出てくる『竜騎士』様なら、当然か」


「・・・竜騎士の事は、知ってるのか?」


「この国では伝説の存在だ。

 かつて、ラティリーズ様の祖先であるリウ・ジィ様が、

 六災竜と戦った時に生死を分かち合った存在・・・」


そこまで言うと、俺を睨んだ。

・・・なんで、睨むんだ。


「貴様は本当に竜騎士なのか?」


信じられていない、と言うところだろう。

それはそうか、急に現れた人間が伝説の存在なんて言われても、

信じる人の方が少ないだろう。


「リルフェア様の言葉を信じないわけでは無い。

 だが私は、貴様をまだ信じてはいない」


信じてない、か。

そうだな、そう思われてもしょうがない部分はある。

だが・・・。


「俺達はまだ、会ったばかりだ。

 信じろと言う方が無理だし、信じろと言う気も無い・・・だが」


イグニスの目を見る。

一瞬、イグニスがたじろいだ。


「守れと言われた以上は、守り通す。その気持ちは、お前達と何ら変わらない。

 竜騎士だろうが何だろうが、な?」


リルフェアは頭を下げてまでラティリーズを守ってくれと頼んだ。

神とまで崇められる人が俺に頭を下げたんだ。

・・・なら答えなければ、男じゃないだろう。


イグニスはそれを聞くと、目を閉じて何かを考えているようだったが。

目を開くと、俺の目をじっと見た。


「ラティリーズ様を命を懸けて守り通すというのだな?」


イグニスは俺の胸辺りに、握った拳を当ててきた。

鎧越しだったが、その拳には力が籠っているのを感じる。


「なら、私は貴様・・・いや、トーマ」


呼び方を言い直したイグニスは、微笑むと。


「あなたを歓迎する、同志として」


そう言って、胸に当てていた拳を離し、握手の形を取った。

一瞬反応が遅れたが。


「ああ」


そう言って、その手を握り返した。

どうやら、信じてくれたようだ。

自分の仕事に誇りを持っている、そう感じる女性だ。


「しかし、お前のような気概の者が増えてくれればいいんだが・・・」


「どういう意味だ?ここに集まる聖堂騎士も、同じような面々じゃないのか?」


全員、ラティリーズを守るという誓いを立てているはずだ。

それに、彼女を神として崇めていると聞いていたし、

命すら捨てて守る覚悟をしていると思ったが。


「・・・」


イグニスが黙ってしまった。

そして、忌々し気に、周りを見渡した。


「半数はそうだ、だが・・・聖堂騎士には世襲した者が多い。

 今の団長がそのお手本のようなものだ」


小声でそう話す。

そう言えばイグニスは副団長と、リルフェアが言っていた。

団長は、まだ会ったことも無いな・・・。


「世襲した者は、皆、地位や名誉を守るために必死だ。

 ラティリーズ様を守ると誓っておきながら、いざという時どうなるか・・・」


地位や名誉を守るために、必死・・・か。

表向きは忠誠を誓っておきながら、いざという時は役に立たないという事か?

変な話だ、騎士というのは主君の為に命を張るものじゃないのか?


――――――――――――――――――――


しばらく、愚痴混じりの話をイグニスから聞いていた。

すると、俺に関わる一つの話が聞けた。


「聖堂騎士には2種類の存在がいる。

 団長や私みたいに、正式に配属されるものと。

 ・・・トーマのように、傭兵騎士として雇用されるものだ」


「傭兵騎士?」


傭兵・・・?

つまり、非正規雇用のようなものか?


「ああ、聞いていなかったか?」


強い者を集めていると、そう聞いて最初に会った聖堂騎士から紹介されたが。

なるほどな・・・傭兵と聞けばそれも納得がいく。

強い者を集めているという事実にも合致する。


『強い人間』=『出来た人間』とは限らない。

強いと言うだけで聖堂騎士にしたら、ならず者集団になっている可能性だってある。

だったら、騎士扱いの傭兵にしていれば、雇用を切るだけで関係性が無くなる。

一時的に凌ぐ方法としては、最良の手段とも言えよう。


「リルフェア様はトーマを正式な聖堂騎士として叙任すると言った。

 ・・・私が去ったあの後に、何を話したかは分からないが」


「・・・」


「初めは信じられなかったよ、もしかしたら君がリルフェア様とラティリーズ様を

 騙し、竜騎士と偽って取り入ったのかとも考えたが」


イグニスは首を振ると、俺の目を見た。


「だがトーマ、君は嘘をつく様な人には見えない。

 先ほどの言葉と、態度に偽りは感じられなかった」


「そうか・・・それは、ありがとう」


「しかし、本当に君は竜騎士なのか?

 ここまで言っておいてなんだが、まだ、信じられない部分もある」


・・・イグニスにも、事情を話しておいた方がよさそうだ。

話の流れを黙ってみていた二人に振り返る。


「・・・言っても大丈夫か?」


「大丈夫だと思うよ?彼女は真面目そうだし・・・

 それに、隠し事した方が疑われるし、ばれたら二度と信じられないと思うよ?」


そうだな・・・。


「八霧に賛成、イグニスは・・・悪い人に見えない」


「そうか」


二人も問題ないという。

よし、イグニスにも話しておくか。

イグニスに向き直ると、俺達の事情を話した。


最初は首を傾げたり、疑うような目をしていたが。

話を続けていると、仲間を探しているという部分で彼女の顔が変わった。


「・・・離れ離れになった仲間を探している?」


「ああ、八霧や神威の状況を考えると、

 あいつらも近くに転移している可能性が高い」


イグニスは顎に手を置き、何かを考えていた。


「君は、仲間の為に・・・今、行動をしているというのか?」


「ああ」


俺がそう言い、頷く。

すると、イグニスの顔が少し変わった。


「分かった、騎士団の方でも情報を集めてみよう。

 ・・・と言っても、噂程度しか集まらんと思うが」


「いや・・・それでも十分助かる。

 ・・・信じてくれてありがとう、イグニス」


そう言って、俺は頭を下げた。


「君が、他者の為に動いているというのなら、信頼に値するだろう。

 ・・・それに、我々はもう仲間なのだ、困ったら助けるだろう?」


仲間か。

そうだな、仲間が困っていたら助けるものだ。

俺も、イグニスが困ったら助けるだろう。


同じ、騎士団の仲間として。


  


読んで下さり、ありがとうございました。

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