208話
夜襲に参加したリザードマン達は、体に黒いマントを装着。
更に爬虫類特有の肌のテカリを消すために特殊な粉末を肌にまぶし、
真っ黒な肌になっていた。
遠目から見れば暗闇の中では見分けが出来ないほどに真っ黒な外見になっていた。
「ん!?」
道を歩く二人の警備兵の一人が足音に気づき振り返ろうとするが、
振り向く間もなリザードマンの棍棒が頭に命中していた。
「・・・ぐぁ!」
「!?」
相方が殴られたことに気づいたもう一人が腰の剣を引き抜こうとするが、
その手を塞がれ首にナイフを刺された。
そしてナイフを刺したリザードマンがグスタフに兵士を確認させる。
「・・・グスタフ様」
「ああ」
二人の兵士はどうやらゴブリン族のようだ。
「隊にゴブリンは?」
「ちょうど二人います」
「よし」
倒れる二人の兵士の装備を剥ぐ。
そして連れてきた隊のゴブリン二人に命令を出す。
「鎧を着て内部に潜入しろ、奇襲を知らせる鐘を破壊した後に火を放て」
「了解しました」
「任せてくだせい、紛れるのは得意分野です」
ゴブリンたちは兵士の鎧を着ると、持っていた武器を腰に下げた。
そしてそのままランタンを拾って相手の陣地へと向かっていった。
「ばれますか?」
「夜中でほとんどが寝静まっている。交代の警備も起こされるまでは寝てるだろうからな」
彼らの顔を見る兵士は数少ないだろう。
今の行為の音さえ聞かれていなければ彼らの潜入はうまくいくはずだ。
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見張りは倒された二人だけではなく、複数の組が同時にパトロール作業を行っている。
とは言えそこは多種多様な種族の混成部隊。
お互いの顔を覚えている方が珍しく、それはゴブリン部隊にも言えたことで。
「以外に気づかれねぇな?」
「おう・・・」
2回ほど他のパトロールとすれ違ったが。
こちらの顔を確認するでもなく通り過ぎて行った。
むしろこちらを味方だと勘違いしているようで軽く手を振ってきたくらいだ。
・・・出来るだけ顔を隠そうとしている行為が無駄に感じてくるくらいに、
その警戒心は低いようだ。
「それで、目的地は?」
「あれだあれ」
目の前に広がる大型のテント。
物資を集積させている言わば兵糧庫のようなもの。
「お前は周りの確認と鐘を頼むぜ」
松明を片手にそのテントへと潜り込んでいく片割れ。
「急げよ・・・」
周りを警戒しながら、鐘の付近まで歩き細工を施す。
・・・。
数分程度経つとテントの中から相棒が出てきた。
手には何も持っていない、どうやら工作を終えたようだ。
「早く逃げるぞ」
「ああ、急ごうぜ」
――――――――――――――――――――
その様子を遠目から見ていた兵士がいた。
そしてそれを将軍に報告しようと寝室に近づくが。
「待て、将軍はお休みになっている」
警備の者にそう止められた。
事情を説明するが、将軍を警備担当は。
「・・・それは食料をつまみ食いしたということだろう?
後でゴブリン共にはこちらから処罰を伝えておく、お前も休んでおけ」
全く、と言いながら警備はため息を吐く。
「いや!そうじゃない、何かしていたように見えるんだ」
「何か?・・・浅ましいゴブリンの事だ、腹が減って勝手に食い漁っただけだろう?」
「そうじゃなくてだな・・・!」
二人の話が平行線を辿ろうとしたときそれは起こった。
兵糧庫付近から火の手が上がり、空を赤く染め上げつつあった。
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「やったか」
開始の合図のごとく燃え上がるテント。
消火作業のためか、数人の兵士が水の入った桶を抱えて走っている姿が見える。
「よし、仕掛けるぞ!」
グスタフがそう声を上げると、周りにいたリザードマン達が雄たけびを上げる。
その声に気づいたか、消火作業を続けていた兵士たちは一斉にこちらを向いた。
「突撃!!」
一斉に敵のキャンプ地へとなだれ込む部隊。
手に持った桶を捨て、応戦の態勢をとる兵士たちとの戦いが始まった。
――――――――――――――――――――
「ん・・・むぅぅ!?」
鎧を外し軽装で寝ていた将軍だったが、急に走った衝撃でベッドから転げ落ちた。
「なんだ?今地面が揺れたような・・・」
地面に手をつくと、わずかな揺れが散発的に感じ取れた。
そして気づく。
その揺れは複数の足が起こす振動だと。
「まさか・・・敵襲か!?」
嫌な予感が頭をよぎる。
それと同時に寝間着を着替えて外へと飛び出した。
自身の構えている陣から少し離れた場所が火の手を上げていた。
この瞬間確信した。
「敵襲か・・・!」
「将軍!敵が攻勢を・・・ぐぁ!」
走り寄ってきた伝令の体を投擲された槍が貫き、
死体となった彼は地面に転がった。
「く!?」
槍の飛んできた方向から複数の影が見える。
頭は爬虫類のようなその兵士たち。
「リザードマン!しかもその紋章・・・グスタフの親衛隊か!」
「カロン将軍と見受ける」
「っち・・・」
厄介な者に見つかったと将軍は後ずさりしながら距離をとる。
何度か後ろを確認するが逃げる手立ては思いつかなかった。
「私は親衛隊指揮官の一人でラーと申す。いざ尋常に勝負を」
「将軍職が一騎打ちなどすると思うか!」
悪あがきで近くにあった砂袋を勢いよく投げる。
地面に落ちたそれは煙幕のように土を巻き上げた。
「生きてこそ・・・!」
チャンスとばかりに踵を返して全力で走り出す。
「げほ・・・逃げられると思うな、将軍」
土にむせ返りながらもそう呟くラー。
彼の逃げた先にも、こちらの部隊は回してある。
――――――――――――――――――――
「ちぃ・・・!」
林の中を走り回るカロン将軍。
だが、行く先々で敵兵とみられる影がこちらに向かってくる気配がする。
「まさか夜襲を仕掛けてくるとは、いや待て」
この夜襲の狙いは・・・私か?
最高級指揮官である私が捕縛、あるいは死亡すれば。
この集団は崩壊、或いは解散してしまう。
代理で指揮をとれる者もいなくはないが、
私に何かあれば全体の士気に影響があるのは確実。
どちらにせよ、ここで奴らに何かされるわけにはいかない。
「ここを抜ければ確か集落があったはずだ!」
一度隠れて、奴らをやり過ごす。
そして生き残った者を再編して、朝に来るであろう部隊と合流。
昼には再攻撃できるだろう。
・・・しばらく走り続けると、目の前に人工物が見え始めた。
私の予想通り集落は存在していた。
ここに来る際に物資を収奪し、村民は疎開させたので誰もおらず火も一つも見えない。
その静まり返っている一軒の家に身を隠した。
「くそ・・・朝になれば反撃もできるはずだ。
今はここで隠れてやり過ごすしか」
そう小声で呟きながら多少埃臭いベッドの上の毛布を引っぺがし部屋の隅に向かう。
毛布にくるまり、身を小さくして一夜を過ごすことにした。
「・・・」
強引に起こされた形に近かったのでどうにも眠い。
全力疾走をしたのも久しぶりで・・・疲れた。
「いかん・・・眠れば・・・何が起こるか」
緊張と疲れのせめぎあいで多少は眠気を押さえられてはいたが、
結局睡魔には勝てずその場に寝転がってしまった。
そして彼の眠る民家にリザードマン達が接近しつつあった。
読んで下さり、ありがとうございました。




