表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/381

201話

簡易拠点で少しばかりの休憩を挟み、早朝。

全員の準備が整ったのを見計らって我々は進軍を再開した。

今日中には何とか首都が見える場所までは進みたいものだが。


「・・・それで、後どれ位掛かるの?」


「2日、いえ3日位かと。かなり強行軍で急いで、という前提ですが」


「急いでそれか・・・兵の体力が持つか」


グスタフは心配そうに後ろからついてくる兵隊たちを見る。

少し休んで元気になったのか、顔色はいい方だが。

疲れは完全には抜け切れていないのは体の動きを見れば分かる。


「ええ、だからこそ急ぎたいんです。

 なるべく早く首都付近まで行きそこでゆっくりと休養を取り、

 一気に攻め入るのを目標にしているのですが」


「眼前で休むのか?」


「最悪、強制的に休まなければいけない場合もあります。

 何より相手の警戒網が首都に及ぶ前にさっさと圏内に入りたいというのもあります」


最悪の最悪を言えば、この坑道の存在を知っている可能性もある。

こちらに注意を向けられる前に潜っておきたいという気持ちもあった。


「強制的に休む・・・あ、そう言う事ね。

 機を見て攻め入れば時間だってかかるだろうし、

 それを考えればさっさと移動した方が時間に余裕が出来る訳か」


「ええ」


エマのその言葉に頷いて返した。


「それに遅くなるよりは早い方がいい時があります。

 ・・・特に何が起こるか分からない場合は」


――――――――――――――――――――


そこから坑道を抜けるのには2日と掛からなかった。

強行軍での行動という事もあったが、一番なのは障害が殆ど無かったことが大きい。


そして行動を抜ける長い階段を登り切った先には。

とても眩い光が漏れる出口が見えた。


「・・・眩しいわね」


「何日も薄暗い中を歩いていたので当然といえばそうですね」


先行していた数人が外に出るが、日の光が眩く辺りがほとんど見えない。

やがて慣れてくると、その場所はどこかの森の中だった。


「こんな所に洞窟があったのか」


「グスタフさん」


「ここはルセの森、帝都の北方に広がる緑豊かな森だ」


足元に生えていた草とキノコを触りながらそう言うグスタフ。


「帝都の足元を抜けてここまで来たという事だ・・・そう考えるとかなり長い道だな」


「グスタフ、この森に警備兵の類は?」


立ち上がるとグスタフは周りの空気を感じ取るように目を瞑った。


「匂いは全くしないな、まあ無理もない。

 この場所は敵が侵入することなど考えてもいない場所だ」


ヘルザードから見てゼロームは東側。

バルクは南東側に存在しており北方は海が広がっている。

更に言えば外国、つまり別大陸からの侵攻を一度も受けたことが無いようで。

海側への警戒はほぼないといっていいらしい。


「我々からすればこの場所に出たのは僥倖と言える。

 ほぼ無警戒の帝都に奇襲できるぞ」


「・・・ふむ」


何をするにもまずは情報だ。

偵察兵を送って帝都の様子を探って貰わねば。


――――――――――――――――――――


「・・・」


シャルードは押し黙ったまま、玉座に座っていた。

その様子は不機嫌そうに眉間にしわを寄せていた。


「は、反乱軍は未だ見つからず・・・我々も全力で捜索していますが」


ある街で反乱軍を見かけたとの報告を聞き、持てる戦力を投入したが。

実際に踏み込んでみればもぬけの殻、

更に吸血鬼共からの横やりで捜索はうやむやになってしまった。


「情報が錯綜している、もっと正確な情報を持ってくるのだ」


シャルードの隣に立っていた青年将校らしき男がそういう。


「は!」


報告に来た兵士は深く一礼すると急ぎ足で去っていった。

その様子を見てシャルードは大きなため息をついた。


「こんな様子ではゼロームへの攻勢も出来ぬ!

 何をやっておるのだ!」


「陛下、落ち着いて下され。

 奴らもそこそこの大所帯、警戒の網の目を潜ってこの帝都まで来ることは出来ませぬ。

 ゼロームへの攻撃部隊は既に国境沿いに送る手立てまで整えていますので、

 反乱軍を発見次第攻撃を開始いたします」


長いローブを纏った壮年の男がそう言う。


「カーザ卿、反乱軍を放っておいてゼロームへ攻撃を仕掛けぬのか?機を逸するぞ」


玉座の傍に控えていた貴族の一人がそう声を上げた。


「は・・・国内に反乱分子を残したまま兵を送り出すのは愚策かと。

 相手にはグスタフ将軍も混ざっていると聞きますし、

 発見場所によっては国境の兵を引き返して事に当たる可能性も」


「手薄になった所を攻める、常套策ではあるが」


ふむ、と顎に伸ばした髭を擦る。


「しかし後手になってはこちらが不利になります。

 急ぎ反乱軍を見つけ、蹴散らすのが最善の策かと。

 私も私兵を率いて捜索いたしましょう」


「・・・」


コツコツと玉座の肘掛けを指で叩くシャルード。

イラついているのか、その叩く速度がだんだんと早くなる。


「うむ、任せるぞカーザ卿」


「は」


カーザは深く一礼すると、玉座の間から去っていった。


「残る戦力をすべて動員し、一刻も早く反乱軍を発見し叩くのだ!」


「陛下、万が一ですが警戒網を抜かれる可能性もあります。

 最低限の戦力は残しておかねば・・・その首にナイフを突きつけられるかもしれませんぞ」


「この帝都に攻め入れるものか、

 報告に上がっていた戦力程度では城壁も越えられぬわ」


そう言ってふんぞり返るシャルード。

その様子を見た側近たちは顔を背けてため息をついていた。


「陛下、繰り返しますが万が一と言う可能性は必ずあります。

 戦争というものは奇策、予想外の事象が起こるもの。

 御身の無事を祈るならば何卒兵をお残しに」


「貴様、我に命令するのか?」


ギロリ、とシャルードの目が側近たちに向く。

一瞬全員が委縮したような表情を見せる。


「・・・滅相も無い、私どもは提案をしているだけです。

 最後にお決めになられるのは陛下御自身です」


「ふん、ならば全軍を持って反乱軍を鎮圧しろ。

 最低限の防衛部隊のみを帝都に残しておけ」


「は・・・それでは準備をしてまいります」


老人はそう言うと、その場を離れていった。


――――――――――――――――――――


「先は無い、か」


玉座の間から離れた側近の一人がそう呟く。


「シャルード様は先が見えないのだ、私にはこの国が崩壊していく様が見えるぞ」


「最近では自分の意見に賛同する者だけを手元に置いている始末・・・。

 我々の首もいつ飛ぶか」


最近では古参と呼ばれる参謀や臣下を気に食わないというだけで辞任させ。

状況によっては処刑に近い形の命令をする状況になっていた。

それもこれも、ゼロームへの決戦の案件が失敗したのが起因になっている。


「昔から横柄で自分勝手な部分はあったが、それでもここまでひどくは」


「何もかもがうまくいかなくなり、ストレスが溜まっているのはわかるが。

 すべて我々の責任にされてはかなわぬ・・・」


「・・・本当の首が飛ぶ前に、国から逃げるのも一つかもしれんな」


側近たちは顔を合わせながら、自分たちの行く末を案じていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ