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200話

自身に向かって歩いてくる聖職者風の女に向かってベヒーモスは何度も威嚇する。

立派に生やした角を何度も地面に擦り、その度に無風のはずの坑道に風が起こった。


「あらあら、服が汚れるから止めて欲しいわぁ」


頬に手を当ててそう言うプリラ。

緊張感というものは微塵も感じられないその態度に、

ゼフィラスとグスタフは多少の呆れを見せながらも見守っていた。


「ねえ、魔物さん。大人しく通してくれるのなら争わずに済むのだけれど」


丁寧にかつ、穏便に話すプリラ。

彼女の実力を知っている身からすればその態度には寒気が走る。


そのの言葉を理解したのか、憤る様な嘶きを上げるベヒーモス。

馬鹿にされたとでも感じたのだろう。


「そう・・・残念ね」


手に持ったメイスを軽く握り直すプリラ。

その行動が引き金になったのか、ベヒーモスは狭い坑道を身を擦りながら突進してきた。


「弱点の頭を晒しながらの突進。

 愚策もいいところね、それ」


メイスを振りかぶると、目の前に迫るベヒーモスの脳天目掛けて振り下ろした。

ベヒーモスの角が彼女の脇を掠めると同時に魔物の頭にメイスの一撃が入る。


その得物の直撃で、辺りに轟音にも似た音が響く。

メイスは深々とベヒーモスの脳天にめり込み、ひしゃげさせていた。

文字通り・・・ひしゃげたのだ、頭が。


「・・・プリラ、ご苦労様です」


赤黒い血を垂れ流す死体と化したベヒーモスを横目に私はそう話しかける。


「苦労なんてしてないわ。それよりまだ歩くんでしょ?

 急がないと他の魔物に襲われるわよ?」


「ですね」


周りが唖然としている中、私とプリラは死んだベヒーモスを傍に掘られた脇道に放り込む。

これで前進が可能・・・しかしプリラの言う通り急がなければ他の魔物に絡まれる可能性がある。


――――――――――――――――――――


坑道を歩く事・・・数時間、いや数日たったか?

常に歩き続けている我々には時間間隔が狂い始めていた。


「そろそろ休憩にしますか」


テネスがそう言うと、隣を何とかついてきていたグスタフが息を切らせて頷いていた。

彼ほどの者でも疲れる距離を歩いてきたのか・・・そう思うとこちらの身体も急に重くなる。

足が多少ふらつくと、近くにいたエマが心配そうに肩を貸してくれた。


「すまない」


「いえ・・・流石にみんな疲れてるわ。

 ちょっとテネスさん!飛ばし過ぎよ!」


「ああ・・・それは申し訳ありません。

 危険地帯を一刻も早く抜けたかったので」


地図を片手にそう言うテネスの顔は一切の汗を掻いていなかった。

その隣をぴったりと歩いていたプリラもだ。


「危険地帯・・・か?」


そう聞き返すと、テネスは地図の一部を指差す。


「今通ってきた道は魔物が潜むには格好の場所が多かったのです。

 そこで休めば敵の中央にキャンプを張るのも同じなので・・・

 皆さんには無理をして頂きました」


「無理、と分かっていたの・・・はは、あなたねぇ・・・」


半分あきれ顔でエマはそう呟く。


「とにかく休みましょう?みなさーん、キャンプの準備を始めましょう」


プリラが後方にそう叫ぶと、先ほどまでへとへとになっていた兵士たちの顔が一斉に変わった。


――――――――――――――――――――


「ふむ・・・なるほどな」


地図を確認しながらグスタフは何度か頷く。


「確かに、あの地点を抜けるのは得策だ・・・だが、これは疲労が残る距離だぞ」


「疲れは休めば取れます、しかし怪我は次第によってはその場に置き去りになります。

 早めに行軍し安全な場所で休むのは最善策かと」


グスタフは兵士に手渡された飲み物の入ったコップを呷った。。


「抜けた先に丁度休めそうな広い空間があったのでここにしたのですが」


「ああ・・・恐らくここは大型の魔物の住処だったのだろう」


「だった?」


「匂いがほとんど残っていない、食事跡もかなり古いものだった。

 ここを去ってから数年以上は経っていると思うぞ」


地面を触りながらそう呟くグスタフ。

そしてその空間の横に広がる大きな穴を指差した。


「あそこから入ってきたんだろうな・・・そして出て行った」


「出て行った、ね。じゃああの穴は地上に続いているのかしら?」


プリラがそう聞くとグスタフは頷いて返した。

地上か。


・・・一応何人か送って偵察をさせた方が良さそうだ。

最悪あの穴から魔物が押し寄せる可能性もあるだろう。


「とにかく野営の陣地を作りますので。

 皆さんは少し待っていてください」


――――――――――――――――――――


広さの問題もあり、野営地は簡易的なもので済ますことにした。

とはいっても大型のテントを守るように周りには簡易防壁が張られてはいるが。


「ふむ・・・」


一応兵士全員が入れるだけのスペースと寝床は確保できている。

まあ・・・雑魚寝に近い状態で寝る事になるのだが。


「テネス、何難しい顔しているの?」


「ああプリラ・・・その、天井を伝ってきたら防壁を無視できると思いまして」


「ああ」


防壁はテントをぐるりと囲っているだけのもの。

耐久性は高くそう簡単には壊れはしないし、飛び越えるには高い。

しかしここは密室に近い閉鎖空間。

しようと思えば天井からこちらを強襲することも出来る。


まあ、警備兵をおいて警戒させれば大丈夫だろうけど。

それでも対策を考えておくに越したことはないだろう。


兵士たちは野営地に入るなり糸の切れた人形のようにその場にへたり込んでいた。

流石に歩き詰めだっただけあって、訓練された彼らでも疲れたのだろう。


「対策は簡易的なものにして・・・今は食事でも用意しましょうか?」


「そうね」


プリラはこちらの言葉に同意すると、早速料理の準備を始めていた。


――――――――――――――――――――


「何でも出来るのね、彼女」


「プリラですか?」


簡易拠点の端で椅子に座って本を読んでいたらエマが話しかけてきた。

手にはコーヒーらしきものを入れたカップを持ち、

それを少し口に含みながらプリラのいる方向を見ていた。


その当人であるプリラは料理をしていた。

鼻歌交じりで鍋を掻き回している。


「ええ、何でも出来ますよ。

 料理は得意らしいので期待していて下さい」


「へえ・・・私料理は苦手だから、ちょっと憧れる」


「そうなんですか」


コーヒーを飲み干し、空になったカップを見るエマ。

少し悩んだ表情を見せると。


「よし、私も料理を手伝ってくる」


そう言って、プリラに近づいていった。


「・・・エマの料理か、想像できないな」


「ゼフィラス」


こちらの話を盗み聞きしていたのか、テントの裏からゼフィラスが姿を現した。


「他の人から見れば何でもできる才女に見えるらしいが。

 知っている身からすれば色々と不器用な女性だからな」


「不器用、ですか?」


「料理を手伝いにいったのも今この状況での緊張感を何とかしたい為だろう。

 コーヒーを飲む速度がかなり早かったからな」


「よく見てるんですね」


「昔からの付き合いだからな、あいつとは」


なるほど。

エマが丁度プリラの手伝いを始めていた。

・・・危なっかしい手つきで包丁を握っているが、大丈夫だろうか?


「剣を握るのは得意でも、包丁は無理か」


「意外にそういう人は多いですよ?」


似てるからといって得意とは限らない。

まあ・・・でも。

散々戦いっぱなし、歩きっぱなしの我々からすれば。

目の前で調理をしている女性の姿を見ると、ほっとする部分もあるのは確かだ。


「しかし・・・今料理しているあの女性がベヒーモスを一撃で屠るとはな」


「人は見かけによらないともいいますし」


「心強くはあるが、正直怖くもあるよ」


そう言ってゼフィラスは苦笑していた。

確かに、敵に回すと最も怖い一人ではある。


・・・味方でよかったと改めて思い返した。


読んで下さり、ありがとうございました。

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