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20話

この図書館の規模を考えると、まずは寝る場所を掃除する方が先決だ。

現在の時間は夕方を過ぎ始めている、夜まで時間がほとんどない。

まずは個室からの掃除を始めた方がいい。

広間は、明日からでもいいだろう。


大図書館入り口から奥の広間を抜けた先には、10の個室がある。

1階に5つ、壁際に作られた階段から上がれる2階に5つ。


元は司書の私室だったり、研究をしていた者が泊まるための場所だったみたいだ。

全ての部屋にベッドと机、椅子が置いてあった。

放っておかれていたせいかベッドも埃まみれ、毛布もシーツも傷んでいる。


「これじゃ、寝れないな」


シーツをつまむが・・・かび臭い。

寝られる状態じゃないな、これは。


個室から出て二人を呼ぶ。

・・・どうやら、状況はあっちも同じようだ。


「どうしよう、道具に毛布なんてないよね?」


「ああ、代わりになりそうなものは・・・」


道具袋を探る。

何かあったか・・・?

ギルド建築の際に買った家具があったはず。

余った分は、俺が預かっていたのだが。


「・・・お、寝具一式があるな。ちょっと待ってろ」


下に敷くクッションと、カバー。

毛布と掛布団、あと枕。

結構な量がある。


一式を二人に渡す。

これで、後は掃除すれば寝られるだろう。


しかし、結構家具が入っていたことに気づいた。

これだけの量があれば、この拠点も華やかになる・・・か?


――――――――――――――――――――


掃き掃除をして、机と椅子を雑巾で拭き。

その後でベッドを整えた。

これで最低限、寝られるようにはした。


そのまま横になろうとも考えたが・・・止めた。

二人の様子を見てから寝ることにした。



八霧(やぎり)の部屋のドアを叩く。


「あ、どうぞ」


声が聞こえたので、ドアを開ける。

部屋の中は、綺麗になっていた。

脇に置かれた錬金台と錬金釜。

八霧の仕事道具だ、綺麗に磨かれている。

既に火を入れているみたいで、フラスコの中の緑色の液体が踊っている。


だが、気になったのは・・・机の上の大量の本。

山のように積んである本は、床にも置いてあった。


椅子に座って、一冊一冊丁寧に直している八霧。

本当に本が好きだな。


「何、トーマさん?」


「いや、掃除が終わったか確認しに来ただけだ」


「ああ、そうなんだ」


フラスコが気になったのか、錬金台の前に立つと、フラスコを振っていた。

様になっているな、さすが錬金術師だ。


「うん、こっちの世界でもちゃんと作れるみたいだね」


「・・・それは?」


「ポーションだよ。初級ポーションだけどね」


そう言うと、フラスコの中の液体を少し手の甲に出し、舐める。

少し味わうように口を動かすと、ちり紙にペッと吐いた。


「うん・・・ちゃんとできたみたいだけど、苦いね」


「苦い?」


EOSだと、味覚なんて無かった。

そうか、グリーンポーションは苦かったのか・・・。


「まあ、何となく予想は出来てたけど。

 材料は雑草に近いものだし、それを抽出してるだけなんだから」


「効果は?」


「そのままかな。他のポーションも試してみるつもりだけど」


そういうと、今度は青色の草をすりつぶし始めた。

徹夜する気じゃないだろうな・・・?


「まあ、ほどほどにな。明日も早いから、寝るんだぞ」


「分かってるよ」


・・・まあ、夜更かしするのはしょっちゅうの奴だ。

よく、深夜まで一緒に材料採取のクエストとか受けてたもんだ。



八霧の部屋を出ると、今度は神威の部屋の扉を叩く。


「・・・どうぞ」


神威の小さい声が聞こえたので、扉を開く。


部屋は・・・人形だらけになっていた。

神威によく似た小さい人形が10体、壁際の棚の上に並んでいる。

そして、コピードールと呼ばれる粘土で出来た人形が壁に並んでいる。

後は、小型のゴーレムが一体、部屋の端で立っていた。


「7号は・・・そこか」


左から7番目の人形だけショートヘアだ。

10体並んだうちの一つが動く。


「トーマ様、どうかしたんですか?」


7号が首を傾げる。


「姉妹の調子はどうだ、7号?」


7号が周りに座っている自分の姉妹を見る。


7号のみ、感情を持ったが。

逆を言えば他の子も、その可能性があるという事だろう。

感情を持ち、自分で行動をする可能性が。


「うーん・・・蓋をされている感じ、ですね」


「蓋?」


「はい、何か・・・蓋のようなもので抑え込まれているというか」


7号の場合は、その蓋が恐怖というもので開いた、という事か?

その話に俺は興味を持ったが・・・それ以上に興味を持っていたのは神威だった。


「・・・蓋」


そう言うとベッドに座っていた神威が立ち上がり、左端の人形を持った。


前に神威に聞いたことがある。

ドール10号までは細かい設定をしてある。

それ以上のドールを作ろうとはしたが、材料が足りなかったらしい。

だから、コピードールを使って操作できるドールの数を増やしていた。


コピードールはその名の通り、誰かをコピーする人形の事だ。

その気なら、俺も複製できるらしい。

が・・・俺と神威のLv差のせいで、暴走するという話だ。

その為、自分以上のLvを持つ人物の複製は作れないという。


追手から逃げる時に偵察で何十人もばら撒いて貰ったが、

そのほとんどが今周りにあるコピードールという事だ。


つまり・・・7号含め10体までは設定と装備がある。

人形師(ドールマスター)はその設定と装備で戦う職だ。


「1号は戦闘指揮型。

 2号から4号は遠距離型。

 5号から7号は近接型。

 8号から10号は・・・偵察型」


「じゃあ、7号は近接特化なのか」


「はい、そうですよ」


そういうと、両手を武器に変えた。

小さい人形の腕が鞭と槍に代わる。


「7号のコンセプトは・・・近距離と中距離戦の両立」


「だから、鞭が一番得意ですよ」


「この鞭も、セラエーノ製」


セラエーノ・・・本当に何でも作るな。


「だが、あいつの事だ。その鞭にも何か仕込んでるんじゃないのか?」


普通の武器は作らない女だ。

当人もそう豪語している。

普通の武器を作って何が面白いのか、と。


「その鞭・・・振ると剣みたいに細くなる」


試しに、7号が鞭を振ると。

彼女の先にあった、蝋燭がすっぱりと斜めに斬れた。


「なるほど、ウルミに似たような武器か」


刀身を細くして鞭のようにしなるという、あの武器に似ている。


「扱いが難しいと聞いたが・・・。

 普段は鞭のように使える武器って事か」


鞭を振った後、一定以上の速度になると変形するように設定してあるのだろう。

そして、先端が戻ってくる時には速度が落ちて鞭に戻る。

相手からすれば、非常に長い剣が襲い掛かってくるのと同じだ。


「あいつも、いろんな武器を作ってたからな」


今は、何処にいるのやら。

・・・無事だといいんだが。


他のギルドメンバーの事も、ギルダーとあいつの友人。

『白銀の大剣』の奴らも気がかりだが。

今は、とにかく情報が欲しい。


「・・・トーマ?」


「ん?ああ、なんだ?」


「何か、考えてた?」


険しい顔をしていたのだろうか。

神威と7号が心配そうな顔でこちらを見ていた。


「いや、何でもない」


首を振り、そう答える。

余計な心配はさせない方がいいだろう。


「それじゃ、明日も早いからな。お休み」


「・・・おやすみ」


「おやすみなさい、トーマ様」


二人に見送られて、部屋を後にした。


・・・とにかく、明日からは仕事をこなすことになる。

早めに寝て、備えておこう。





読んで下さり、ありがとうございました。

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