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2話

ピコン、と独特なSEが流れる。

コンソール横のログに「エリサAZ」さんが拠点に戻りましたとの履歴が残る。

・・・俺に依頼した人物だ。


「来たか・・・」


外していた兜を付け直し、出迎えようと立ち上がる。

そして、目線を上に戻すと、目の前には少女がいた。


「す、すみませんトーマさん!手伝って貰っちゃって」


目の前の、つばの広い帽子を被り、ボロボロの魔法衣を来ている少女。

金髪赤眼、髪は三つ編みで後ろに束ねている彼女こそ、俺に依頼をした張本人だ。


プレイヤーネームは「エリサAZ」、Lv28の死霊術師(ネクロマンサー)だ。

ギルドメンバーからはエリサと呼ばれている。


EOSを始めてまだ、10日・・・ダイブ型MMOも初めてという事で、

手取り足取り、教えている。

サブのアカウントも作らずにこのキャラだけを育てたせいで、

魔法使い系のステ振りはさっぱりなのだが。

そこはネットの力で何とかしようとは思っている。


『黄金色のG』さんが残っていれば、その辺詳しく聞けたんだが。

あの人は魔力最強職の枢機卿(カーディナル)まで上り詰めていたし。

魔法に関する造詣なら、このギルド一番だっただろう。


ちなみに彼の名のGはあのG・・・黒くカサカサしているあれ。

当人談だと

「魔法使いは攻撃を受けたくない。だから、カサカサ逃げ回って、

 適宜攻撃を当てていく嫌らしさがあれに似ている。放っておけない所も似てる」

とのことだ。

実際黒い装備を好んで装備してたし、敵にも煙たがられていたな。



「ほら、材料だ」


蛇の目(スネークアイ)を手渡す。

それをエリサが受け取ると、

右のログに蛇の目(スネークアイ)の数と二人の名前が書かれる。


「あ、ありがとうございます!」


深く頭を下げるエリサ。


「す、すみません・・・トーマさんに頼むような事じゃないんですけど」


「いいって、暇だからな」


大規模PVPかGVGが起きない限りは俺に出番はない。


それでも、職業が珍しいからという理由で、個人的に戦いを挑まれることはある。

今の所は勝率9割だ・・・18年という年季の差とも言えるが。


前の職、聖騎士(パラディン)の時の勝率は5割を切っていた。

竜騎士になる際に、1対1の戦いを徹底的に研究したということもあって、

今の勝率をキープしている。


まあ、それでも負けることがあるのは面白いところだ。

研究できる余地もあると、知らされるという事でもある。


「トーマさんっていい人ですよね」


エリサはそう言うが、いい人?


「・・・いい歳したおっさんなだけだ」


兜を触る。

いい人と言われたのが久しぶりで、少し恥ずかしくなった。


「・・・今のギルド長はトーマさんの事、目の敵にしてますよね?」


・・・そうだな。

俺が気に食わないらしい。


「それはそうだが・・・いきなりどうした?」


「だ、だって・・・トーマさんのこと、老害だ、おっさんはいらないとか。

 散々、言ってますよね?」


「ああ」


現ギルド長「ギルダー」のことだ。

Lvは201、今現在のギルド内では3番目に高い。

職は魔騎士(マジックナイト)、攻撃と素早さに秀でるアタッカー。

スキルも攻撃に特化しているみたいだが。

・・・俺から言わせれば、攻撃のタイミングがバレバレだ。

パリィでもされると防御の低さも相まって、一撃死もあり得る。


「まあ、若いうちは皆そうだ。年食った奴が自分のグループに一人いると、

 噛みついちまうもんだ。特に、今の若者はな?」


「そう、なんですか?」


「ああ、それに・・・俺は説教臭いらしいからな」


マナーが悪いと、つい口を出してしまう。

それも気に食わないのだろう。


「・・・」


「ゲームの中だけでも自由にしたい。それは分かるが・・・。

 ここはオンラインだ、言いたいことだけ言ってると相手も傷つくだろ?」


それを聞いたエリサは、頷いた。


「だから、ノーマナーが嫌いなんですね?」


「まあ、な・・・このギルド(ヘルフレイム)の名がこれ以上堕ちないといいんだが・・・」


それも難しい。

古参勢は俺を含めて少数、残ったプレイヤーのほとんどは今のギルダーが集めた友人達だ。

半分、あいつに乗っ取られた状態ともいえるだろう。

残る古参勢は俺の下についている感じになっている。


いや・・・正確には初期のヘルフレイムを知る奴らが。

初期メンバーである俺を中心にして集まった・・・というところだろうか。



この世界での狩場・・・要するに経験値稼ぎの場所を独占するのは禁止。

希少なドロップ品を落とすモンスターのリスポーン狩りも原則禁止。

広場を独占してのバカ騒ぎも当然禁止だ。

要は、他人に迷惑を掛けるな、という事なんだが。

・・・それを破るのがノーマナーと呼ばれているプレイヤーだ。



「じゃあ、なんで・・・ギルド長にならなかったんですか?

 トーマさんがなっていれば・・・今のようには」


その疑問をぶつけてくる。

・・・何故、ならなかった、か。

そうだな・・・。

あの二人が引退して、このギルドを守ろうという意志が弱くなったのが主な原因だろう。

だから、ギルド長にはならずに、俺は端役としてこのギルドに在籍していた。


「俺はあの二人が引退した時点で俺は・・・守っていく気力が薄れたのかもな」


そう言って、エリサを見る。


「・・・まあ、こうなっちまった以上、どうすることも出来ないさ。

 いっそ、解散してしまった方がいいかもな」


半分冗談でそう言う。


「わ、私は嫌です!せっかく、勇気を出してギルドに入ったんですから!」


「そうか・・・」


「それに!八霧(やぎり)だって、悲しむと思います!」


「八霧か」


ヘルフレイムに所属する中では、比較的古くからいる奴だ。

現メンバーでは唯一、宵闇さんを見た数少ないメンバーの一人だろう。


「だが、最近ログインしてないんだよな、あいつ」


今日は珍しくログインしているみたいだが。

一週間ぶりくらいじゃないか?


「あ、家の事情で忙しかったみたいですよ?」


「・・・なんでそんなことを知ってるんだ?」


「あ、その、リアルの知り合いなので」


そういって、顔を赤らめていた。

なんだ、八霧の事が好きなのか・・・?

・・・しかし、気になった事は悲しむという話だ。


「・・・あいつが悲しむって?」


「昔のヘルフレイムの事、すごく気に入ってたんですよ?

 だから、私も始めた時は・・・このギルドに入ろうって」


「ああ・・・そうだったのか」


「はい、本当の家族みたいに・・・馬鹿なことにも付き合ってくれて、

 まるで、もう一つ家族ができたみたいだって・・・」



あの頃が本当に懐かしい。

宵闇さんが中心になって、行動して。

問題ごとはGさんが解決して。

俺は二人がそれに集中できるよう、他の行動をしていたっけ。


「だから、新しくギルド作りましょう!トーマさんをギルド長にして!」


「・・・おいおい、ギルダーに恨まれるぞ・・・」


だが、それも悪い話ではないかもしれないな。

・・・そう考えていたら、ログに何か流れてくる。


赤い文字のそれは、次の通りに書かれていた。


『ギルド 白銀の大剣 さんとのGVGが決定しました』


・・・何?


「・・・あ、あの・・・これは・・・?」


エリサの方にも流れているはずだ。

GVG決定の知らせはギルドメンバー全員に知らされる。

知らなくて当然だ、最近していなかったからな。


「GVG・・・つまり、ギルドとギルドの決闘の事だ。

 複数のメンバー同士が戦う・・・一種の戦争だな」


それぞれが自分の役割を果たす。

火力役、タンク役、ヒーラー役。

それぞれがかみ合えば、完勝することも容易いだろう。


「あ、あの・・・私、どうすれば?」


エリサは慌てているようだ。

・・・正直、エリサは戦いには出せない。

レベルが足りないというのが一番。

それと、PVPの実戦も無い。


「今回は見学でいい、後ろで見ていろ」


「え?あの・・・見ているだけですか?」


「ああ、見て学ぶんだ。相手の動きと、こっちの動き、両方な」


初めてじゃ、戦う間もなく倒されるだろう。

それなら、外側から見学させた方がいい。

いい経験になるだろう。


「はい、わかりました」


そう答えるエリサ。

目はやる気だが、まさか、勝手に参加なんてことはないだろうな・・・?


「・・・しかし、白銀の大剣か」


嫌な予感を感じつつ、流れてくるログを確認した。



読んで下さり、ありがとうございます。

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