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195話

吸血鬼一族はヘルザードの中でもかなり排他的な種族として知られている。

同種族以外の仲間を認めず孤高を貫き通す。

故に彼らと交易や親交を持つ種族は居らず、そういう意味では浮いた存在だと言える。

シャルードに対しても同じ姿勢を貫いているため、国での立場自体は低い。


「引き込めるのか本当に?

 吸血鬼の一族が誰かに与するとは思えないのだが」


グスタフがそう言う。

それを聞いたテネスは、掛けていたメガネの位置を指で調整した。


「今までなら、ですね。

 ですが状況が状況です、彼らも動かねば種族ごと潰える可能性が高い。

 動かざるを得ない状態ならば彼らも話を聞いてくれるでしょう?」


国家に反乱軍が侵入し、内部をかき回している状態に近い。

仮に我々が全滅したとしても、後々のことを考えればじっとしているのは得策ではない。

いくら強くとも、国というまとまりの中で生き抜くにはそれなりの行動が必要なのだ。


国の一大事に何もしなければ後々の立場がなくなる。

それに・・・打算的に考えれば反乱軍が接触したというイメージをつけておきたかった。

否応にも動かなければならなくなるだろうし。


「・・・そうね確かに。

 この状況で動かないのは愚策、傍観者は飲まれるだけだからね」


先頭付近を歩いていたエマがそういう。

すると何かに気づいたように足を止めた。


「待って、あれ何?」


エマが目の前を指差す。

その指の先には、何者かが立っていた。


気だるげな眼、綺麗な金髪をたなびかせた美女。

黒と赤を基調としたドレスにマント。

見ただけで、吸血鬼だろうという感じのする女性だが・・・果たして。


「あなたは―――っと!」


テネスが上体を反らすと、彼の顔のあった場所に何かが通り過ぎた。

後ろにあった壁にぶつかり突き刺さったそれは、装飾の施された鋭いナイフだった。


「随分な挨拶ですね」


壁に刺さったナイフを抜きながらそう言うテネス。


「誰?返答によっては串刺しにさせてもらうけど」


女性の手がぶらりと下に降ろす。

すると服の裾から大量のナイフがずり落ちてきた。

それを指の間で挟むと、こちらに向けてくる。


「別に争うために来たわけでは無い、話をさせてくれないか?」


警戒しながらグスタフがそう言うが。


「吸血鬼は誰にも頭を下げない、屈さない。

 たとえ名うてのグスタフだとしても例外はない」


「だから」


話を続けようとしたグスタフに対し、ナイフを投げて言葉を返す女性。

グスタフはそのナイフを右腕の小手で弾いた。


「聞く気は無いか!どうするんだテネス」


「・・・仕方ないですね、強引にでも話を聞いて貰いましょう。

 プリラ、お願いできますか?」


「私?別にいいけど」


持っていた杖で何度か地面を突くと、プリラは女性の目の前へと歩みだした。


「お、おいおい・・・プリラ殿でどうなるというのだ?」


グスタフは焦ったようにそう言う。

確かに、この中でプリラの実力を知っているのはテネスだけ。

しかも相手は近接能力の高そうな魔物で。

こちらは支援が得意そうなプリーストだ。


だが、それは蓋を取れば直ぐに分かるだろう。

プリラの実力が。


――――――――――――――――――――


短めの杖を手に持ったプリラは女性の前で優雅に一礼した。


「プリラと申します」


そう言って頭を上げるとニコリと微笑むプリラ。


「・・・アイナよ」


その相手の丁寧な物腰に、流石の女性も自身の名を告げた。


「では、アイナさん。戦いましょうか?」


ニコニコしながらそう言うプリラ。


「聖職者、シスターは確かに吸血鬼にとっては天敵だろう。

 だが・・・それはあくまで支援として置いた場合だ。

 テネス、彼女を殺す気なのか?」


「グスタフさん、見てれば分かりますよ?

 それに最近プリラは運動してないですし」


「運動?」


グスタフの目が、目の前で杖を構えているプリラを捉える。

聖職者の服を着た長身の女性にしか見えないが。


(・・・なんだ、この威圧・・・いやプレッシャーは)


彼女の後ろ姿からは、えもいわれぬ何かを感じた。

強者の雰囲気というのだろうか。

いつもニコニコしている彼女からは信じられない空気を感じる。


それは相対するアイナも感じたようで。

冷や汗を流し、ナイフを構えていた。


雰囲気はガラリと変わったが、顔はニコニコしたままのプリラ。

アイナはその姿を見て恐怖を感じ始めていた。


(どういうこと・・・肉弾戦に弱いプリーストなのに!

 この女まるで隙が無い!)


先ほどから何度も仕掛けようと距離を詰めようとするが。

その度に頭に嫌な予感がよぎり前に出ようとする足が止められる。

何処から攻めても、恐らく反撃を食らうというイメージが頭から離れないのだ。


「・・・!」


だが、いずれは痺れが切れる。

特にアイナの場合はじっとしているのが性に合わないタイプだったようで。


「はあああ!!」


勇気、というよりは蛮勇を振りかざして一気に間合いを詰めてきた。


「ふふ・・・好きよ、そう言う勇敢な子は」


半歩後ろに下がるだけで、最初のナイフの一撃をかわすプリラ。

鼻先を掠めたナイフはプリラの金髪を数本宙に舞わせただけだった。


「まだまだ!」


更にその体勢から回し蹴りを見舞うアイナ。


「元気ねぇ」


杖で飛んでくる足を叩き、払いのける。

アイナは体勢を崩しながらも今度は足払いを仕掛けた。

地面すれすれのその足払いをプリラは相手のつま先を踏んで止めた。


「!」


「体勢を崩した状態での二の手は、力が入らないわよ?

 遅いし見切られやすい」


そう言うと、プリラは踏んでいた足を開放した。

アイナはすぐさま間合いを取った。


「っく、本当にシスターなのか・・・!」


体勢を整えつつ、アイナは立ち上がる。

目の前のプリラは先ほどと変わらずニコニコ顔だ。


恐ろしい。

相手は全力のぜの字も出していない。

余裕だけが、こちらに伝わってくる。


「ほら、怯んでいる場合じゃないでしょう?

 敵はまだ元気なのよ?」


「く・・・!!」


駄目とはわかっているが。

その誘いに乗るようにアイナは再び攻め始めた。


――――――――――――――――――――


「一方的だな、これは」


グスタフは驚くようにそう呟いた。

本来前衛職ではないシスターが、国でも強者に入る吸血鬼相手に殴り合っている。


「だから言ったでしょう?プリラは強いんですよ、私よりも」


目の前で起きている戦い・・・いや、戦いにすらなっていない何か。

アイナは何度も何度も攻勢を仕掛けるが、その度にプリラの杖に弾かれて仰け反る。


対するプリラはニコニコ顔を崩さずにアイナの動向に任せていた。

・・・その姿ははたから見ると恐ろしいの一言に尽きる。


「はぁ・・・はぁ・・・!」


疲れ果てて肩で息を切らすアイナ。

気力は落ちていないようでその目にはまだ力が宿っているが。

肉体の方は既に限界に達しているようだった。


「くぅ」


スタミナ切れを起こし、遂にアイナは片膝を地面についた。

顔を伏せて大きく息を吸い込んでは吐き出している。


「終わり?ちょっと早いわね」


多少残念そうに見える顔でそう言ってのける聖職者。

・・・やはり恐ろしい、その一言に尽きる態度だ。


「くそ・・・!情けをかけるな!一思いに殺せ!」


「あなた方に危害を加えに来たわけでは無いの、殺すなんて」


杖を下ろし、プリラはうずくまるアイナに近づいていく。

そして手を差し伸べていた。


「何を・・・?」


「あなた達とお友達になりたいの」


――――――――――――――――――――


プリラに対し、負けを認めたアイナは割と素直に一族の長の場所を教えてくれた。

そしてその場所というのは・・・。


「・・・ここ?」


何の変哲もない一軒家。

話によればこの家の地下に長がいるとの事だが。


扉に手を掛けてゆっくりと開くプリラ。

中を確認しながら恐る恐る中へと歩みを進める。


「何もないわね・・・ただの廃墟かしら?」


「地下が本体なのでしょう、ほら」


テネスが床に生えていた取っ手を掴むとそのまま引き上げた。

被っていた埃を巻き上げながら地下へと続く階段が眼下に広がった。


「・・・ふむ、奥から光が見えますね」


「テネス殿、ここは俺が先行しよう」


グスタフはそう言うと足早に階段に向かった。

それに続くようにリザードマンの兵士が後に続く。


・・・さて、吸血鬼からの色よい返事を貰えるといいのだが。


読んで下さり、ありがとうございました。

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