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193話

ゴブリンの軍勢の壊滅。

その知らせは軍勢を送った黒幕の元にも届いていた。


「・・・何も出来ずに壊滅した?」


「は、先行していた偵察がそう報告しております」


「ふむぅ、やはりゴブリン族だけでは歯が立たぬか。

 武力ではそこそこ名のある奴らだたが」


小太りの男はそう呟くとニタニタ笑い出した。

彼はオーク族の族長『ヒルハン』。

小太りで、豪華に着飾ったその姿だけは貴族に見える。


実際は小汚い方法で荒稼ぎした小悪党。

その財力を生かし、ヘルザード東方地方で幅を利かせていたのだが。


「シャルード陛下からの命令とは言えせっかく用意した部隊が壊滅したか。

 やだやだ、無駄遣いは」


そう言いながらやれやれといったようなそぶりを見せる。


「・・・ヒルハン様、一応は彼らも身を賭して任務に当たりました。

 彼らの栄誉を傷つけるような事は、余り」


「だから?役立たずは役立たずだ。

 私が融資しなければ彼らの部族などあっという間に無くなっていたんだぞ?

 金を出した私に従うのは当然のことで、命を投げ出すのも当然だ」


「そう、ですか」


残念そうにそう呟くお付きのエルフ。

彼はイルマ、ヒルハンに奴隷として買われたが。

その頭の良さを見込まれて、こうしてお付きとして傍にいる。


「イルマ、次の用意だ。

 損を受けたんだからそれだけのお返しをしないと」


「・・・了解しました、次は『黒の一族』を向かわせます」


「ああー、いいねぇ。奴らの驚く顔が目に浮かぶ」


ククク、とヒルハンが笑う。

対してイルマは複雑な顔で彼の様子を見ていた。


――――――――――――――――――――


黒の一族。

全身の装備を黒一色で纏めたダークエルフの部隊。

個体数の少なさから部族的には不遇な部分が多く、

その戦闘力と反するように国からは見捨てられている状態になっていた。


しかし、ヒルハンが彼らに多額の金額を投資した。

そのおかげで武器、防具などは上質なものを。

物資も用意できるようになり彼の懐刀として働いていた。


その族長である『ルナ』は女性であり、

ヒルハンのお気に入りとして唾を付けられているのだが。

当の本人は嫌う態度を面に出して対応していた。


「・・・え?」


「出撃命令です、ルナさん」


出撃命令と聞き、嫌な顔を隠すことなく晒すルナ。


「またあの豚の為に働くの?」


「投資をして貰っている以上断れないとは思いますが聞きます。

 出撃しますね?」


イルマは顔には出さないが威圧感のある声でルナにそう聞く。

その声に驚きもせずルナはこう返した。


「ええ、そうね。スポンサーの為にも戦ってあげないとね」


そう言うとルナは座っていた椅子から立ち上がると、

壁に立てかけていた双剣を持った。


「イルマ、アンタも苦労するわね」


「・・・それは言わないで下さい、姉さん」


イルマはそう言うと、少し嫌な顔をして俯いた。


それからしばらく。

黒の一族の編成も終わり、ルナ達は夜陰の中を走っていた。


「標的はリーダー」


「ゼフィラスとグスタフ」


走りながらも部下とそう会話するルナ。

部下は頷くと、ルナから離れて行った。


「強敵になりそうね・・・久しぶりにワクワクしそう」


夜の月に照らされながら黒ずくめの一団は森を抜けて行った。


――――――――――――――――――――


ゴブリン達との戦いの後、ゼフィラス達は西進。

荒野を歩きながら首都方面へと目指していた。

その途中で夜に差し掛かり、野営することになったのだが。


一言で言えばテネスがいて助かった。

何もない場所にテントや簡易的な柵が一瞬で現れたのだ。


大きなかがり火を一つ中央に焚き、その火の番を交代で行っている。


「・・・異常無し」


「だな」


傭兵騎士の二人がそう言いあう。


「俺等も遠いところにきたもんだな。

 国境沿いで防衛線を張るはずが、今じゃ敵国のど真ん中だ」


「言うなって、成功すれば歴史に名が残るんだぜ?」


「歴史に残るより、明日食える飯の方が気になるけどな」


「違いない」


二人がそう言うと、不意に後ろから気配がする。


「お前達、異常は無いか?」


「ゼフィラス様」


「問題無しです」


軽く敬礼する二人。

その様子を見てゼフィラスは頷いた。


「火を付けている以上、あちらからは丸見えだ。

 だからこそ警備の任務は重要だからな」


「分かってますって」


火の傍にある椅子に座るゼフィラス。

懐から短剣を取り出すと磨きだした。


「寝ないんですかい?」


「少し目が冴えてしまってな・・・」


二人の様子を見るだけのつもりだったゼフィラスだったが。

火にあたったせいか、多少眠気が取れてしまっていた。


「俺も、研いどくかな」


ゼフィラスの隣に座って自身の武器を研ぎだす傭兵騎士。


「俺もしておくか」


背負っていた槍を取り出すと、その先端を砥石で磨き始めていた。


「・・・」


やはり、口には出さないが二人共不安を感じているようだ。

それはそうか、こんな場所まで連れてこられたのだからな。


(勝って帰らねばいけないな・・・彼らの覚悟を無駄にしないためにも)


そう1人思うゼフィラスだった。


――――――――――――――――――――


朝方、まだ日が上がらない時刻。

ゼフィラス達は既に起き行動する準備を始めていた。


「寝れたか、エマ?」


「全然・・・埃っぽくて余り寝つきがね」


そう言いながらも、エマは朝の体操をしていた。

多少寝不足そうに感じるが健康には問題なさそうだ。


「皆さん、早いですね」


「テネス殿、プリラ殿」


多少寝癖の付いているテネスと、ニコニコ顔のプリラ。

二人共、寝不足や寝つきが悪いという事は無さそうだ。


「そちらも早いのだな、この時間に起きろといった覚えは無かったが」


「早起きは三文の徳、何て私の国では言われてますからね」


そう言いながらテネスは体を大きく伸ばした。


「さて、朝の会議と行きましょうか」


「会議?それよりも早く首都へと向かった方がいいのでは?」


「巧遅より拙速、確かにその通りですが。

 今回の場合は一歩間違えれば敵の罠にかかる状態です。

 多少ゆっくりでも、考えて進軍した方がいいでしょう」


「・・・」


確かに、ここは敵地。

裏切りこちらにつく者もいるが。

大半は敵なのだ、それらすべてを押し切れるような戦力でもない。


「グスタフさん、この辺りには詳しいですか?」


「ああ」


そうですか、とテネスは呟くと。

懐から地図を取り出した。


地図をテーブルの上に広げると、いくつかグスタフに質問をするテネス。

その答えを聞きながらテネスは地図上に幾つかの線を描いていく。


「首都への侵攻ルートは3つ、と言ったところでしょう」


地図の上には、敵拠点の場所や防衛網などが簡易的に描かれていた。

そして3本の線が、それぞれの軌道を描きながら首都へと伸びている。


「一つは直進ルート、簡単かつ最も早いルートですね。

 その代わりほぼ全ての拠点を中央突破する形になります」


「ほぼ全て・・・って、無理じゃない」


エマがそう言うと、テネスは苦笑した。


「ええ、あくまで可能性の一つとして考えておいてください。

 次は迂回ルートです。

 山沿いに迂回し敵防衛網の間隙をくぐりながら侵攻します」


「ふむ」


グスタフが地図をじっと見る。


「・・・面白い動き方だ、これなら確かに見つからずに行けるかもな」


「だが時間が掛かる、物資の問題も表面化しそうだ」


「なるほど・・・確かにな」


「ですから、私は第3案をおすすめします」


テネスはそう言うと、最後の案の説明を始めた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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