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192話


「はぁ!?囲まれてるの!?」


エマのその一言が周りに響く。

いつの間にかゴブリンの軍勢が集落の周りに集まり、こちらを取り囲んでいたのだ。


「仕方ないだろう地の利はそこに生きる者にある。

 ・・・私もここの出身ではないし彼らの動きはかなり迅速だった」


「ええ」


グスタフのその言葉にテネスは頷いて返す。


「貴方、その余裕の反応は気づいていたってこと?」


「気づいた時には囲まれていた、と言った方が正しいですがね」


――――――――――――――――――――


集落の外れにある小高い丘に建てられた物見櫓から相手を見る。

こちらを取り囲む様にゴブリンの軍勢は広く浅く布陣していた。

軍勢に対して包囲する集落の大きさはやや大き過ぎるのか、

各々の兵隊の壁は薄い状態になっているように見える。


「・・・随分な愚策ですね、兵数が割に合っていない」


高台から双眼鏡を使ってテネスはその軍勢の様子を見ていた。


「部隊の数と包囲の網が合っていません、突破は簡単かと」


下で待機しているゼフィラスにそう声を掛ける。


「・・・テネス殿、一応聞いておくが。

 貴方が指揮を執れば勝てるのか?」


「ふむ」


櫓の下からそう声を掛けたゼフィラスに対して、

テネスは何度か縦に顔を振った。


「ええ、無傷では難しいですが・・・それに近い状態で勝つ算段はありますよ」


そう言うとテネスは櫓から飛び降りた。

足元に付いた土汚れを払うと、立ち上がりゼフィラスを見る。


「相手の出方次第ではもっと楽に勝てるかも知れません」


――――――――――――――――――――


ゴブリン達は集落を包囲しゆっくりと集落への距離を縮め始める。

それを見た集落の非戦闘員、つまり子供や老人が避難用の頑丈なテントに入り始めた。


「やれやれ、こうも焦るとは」


「族長さん」


「強硬派は焦っておるのだ。

 小さな種火でも今のヘルザードは大爆発を起こすからな」


「種火」


「君達の事だ・・・ヘルザードはそれだけ内部に抱える爆弾が大きいのだよ」


族長はそう言うと、自身のテントの中へと入っていった。

その瞬間を見ていたかのように雨のように矢が降り始めた。


「・・・狙いを定めない矢は、当たりませんよ」


数本の矢がテネスの足元近くに刺さるが、肝心の命中は一発も無い。

相手も狙って撃ったのではないだろうし、あくまで威嚇程度の行為か。


「終わったか」


盾を構えていたゼフィラスは盾を下ろすと空を見上げた。

外れた矢は大量に地面に突き刺さっていたが、

一部は盾に命中したようで兵士たちの盾に何本かが刺さっていた。。


騎士や勇士達も軽い怪我をする者はいたが、死者はいない。

やはり威嚇程度の攻撃だったとそう実感する。


「威嚇ね」


エマがそう言うと、ゼフィラスが頷く。


「テネス殿、どうするのだ?

 いくらあてずっぽうでも何度も射られればこちらが消耗するだけ。

 やはり、こちらから攻めるのか?」


「いえ」


テネスはそれを否定すると、地面を触る。


「彼らには自滅してもらいます」


「自滅?」


「ええ」


ニッコリと笑うテネス。

地面に付けたテネスの手のひらが怪しく光り始めていた。


――――――――――――――――――――


「ヨシ、ツギヲ」


隊長がそう言うと、ゴブリンが角笛を拭く。

弓を構えたゴブリンの部隊が一斉に矢を番えて引き絞り始める。


そのタイミングを見据え、一斉掃射を掛けようと号令を掛けようとしたその時。

ゴブリン達の立っていた平野に異変が起き始めた。


「!?」


弓を引き絞っていたゴブリン達は揺れる大地で転び。

前衛を張っていた者たちも、何事かと慌てふためいている。


「ナ・・・!?」


彼らの目の前、集落と自分たちの間に。

轟音を立てて壁のようなものがせり上がってきた。


ぐるりと集落を囲む様に現れた白い壁。


「ナンダト!?」


何かの仕掛けかと、隊長がその壁に近寄るが。

その足は次の揺れでその場に止まってしまった。


気づけばゴブリン達は閉鎖された空間に立たされていた。

四方は壁で乗り越えられそうにない高さがある白い壁。

まるで迷路のように入り組んでいる通路が目線には広がる。


隊長含め彼の親衛隊は唖然としていた。

気づけば自分たちは迷路の中、周りにいた仲間も見当たらない。


「ギギ!」


「アワテルナ!ナニカノテジナニチガイナイ!」


そう言って、持っていた棍棒を壁に振るが。

棍棒は弾かれ、逆に損傷してしまった。


「グゥ・・・」


破壊は不可能と見た隊長は、壁に手を当てながら迷路を歩き始めた。


――――――――――――――――――――


「凄いな、これは」


白い壁の上に立つゼフィラスとグスタフ。

遥か下には、慌てふためくゴブリン達が迷路をさまよっていた。


「出口の無い迷路、更に仕掛けだらけ。

 さて・・・彼らは無事に脱出できるでしょうか?」


「・・・お前、意地が悪いな」


「戦争ですよ?こちらが傷を負いたくなければ策を弄して敵を倒す他ないでしょう?」


下にいるゴブリンの一匹が何かを仕掛けを踏む。

その瞬間、地面から槍が飛び出して串刺しになった。


その周りにいたゴブリンは更に慌てふためき、恐慌状態になって逃げ惑う。


「さて、もう少し早めましょう。

 彼らの全滅する時間を」


テネスは淡々とそう言うと、ゴブリンのいる方向を見た。


――――――――――――――――――――


何匹かのゴブリンが、出口を探して走り回る。

そのうちの一匹が急に立ち止まった。


「?」


仲間達がそれを見て心配そうに駆け寄る。

目は血走り、口からは涎を垂らし。

息は切れ切れで辺りを見渡し始めていた。


更に仲間が近づくと、何を血迷ったのかその仲間を棍棒で殴り倒した。

倒れた仲間を何度も棍棒で打ち据えるゴブリン。


「恐慌状態からの錯乱、自らの死が眼前に迫るもそれがいつ来るか分からない。

 そこから来る極限の恐怖状態は近づく全てを敵だと思ってしまう」


暴れだしたのは彼だけではない、同時多発的に狂乱状態に陥ったゴブリン達。


その状態が続いて数分、次の策を弄することにした。

傭兵と勇士、騎士達を一斉に迷路内へと進入させた。


「だ、大丈夫だよな?」


恐る恐る迷路に入っていく傭兵たち。

ゴブリンの惨状を見ると、自分達も罠を踏まないように意識してしまう。

事前に味方には発動しないようになっていると聞かされていたが半信半疑だ。


だが、実際目の前にあるとついたじろいでしまう。

ゆっくり、足先でトラップが発動する少し浮いた石を踏んでみる。

・・・。


何も起きない。


「は、はは・・・大丈夫だな」


安堵した顔をした傭兵は、すぐさま顔を引き締めた。


「行くぞ!」


――――――――――――――――――――


敵に反応し、味方には反応しないトラップ。

敵は行動に制限が掛かるが味方はその逆。

相手をトラップに押し込む様に戦えばそれだけ有利になる。


更に内乱状態になったゴブリン軍団にはこの攻勢はなすすべも無く。

こちらが突入すると同時に総崩れとなった。


ゼフィラスやグスタフが手を出すまでもなくゴブリン軍団は壊滅した。

あっという間、まさに一方的な戦闘だった。


「あっけないものだな」


傭兵騎士の一人が呟く。

このゴブリンの軍勢も、我々を襲うために編成された大部隊だったはず。

数にものを言わせればこちらにも相応の被害が出たはずだ。


なのにこうもあっさりと壊滅してしまった。

こちら側の戦死者は0、負傷者は数人出たがその程度だ。


「各員、武器の整備と怪我の確認を忘れないで下さい。

 多少の怪我でも命取りになる場合があるので」


テネスがそう声を掛けながら歩いている。


「いちいち言われなくてもするって」


傭兵騎士の一人がそう言う。

実際彼は自身の武器である剣を研ぎ直していた。


「皆、貴方のようにしっかりしている人ばかりではないんです。

 それに声掛けで意識する人も多いですから・・・ですよね?」


周りにそう声を掛けるようにテネスがそこそこの大声をだす。

先ほどまで談笑していた兵士達も、

その声に気づくとおずおずと武器の手入れを始めていた。

それに釣られるように聖堂騎士、勇士も武器の手入れを始めている。


「ふ、軍師に適任だな」


「?」


グスタフとゼフィラスはその様子を遠巻きに見ていた。


「口が上手いのも軍師の素質というものだ、自発的に彼らを動かしただろう?」


「・・・そうだな」


ゼフィラスもその言葉には同意していた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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