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191話

ゴブリンを締め上げていたプリラの手に徐々に力が籠る。

しばらく悶えていたゴブリンは、その行為に観念したのかある紙をテネスに手渡した。

それは何かの指令書のようだったが。


「・・・ゴブリンの文字ですか?」


読めなかった。

一応自白したと見なして、プリラはゴブリンを開放したのだが。


「!!」


仕返しとばかりに、プリラの脛を蹴って逃げて行くゴブリン。

当のプリラには痛そうなそぶりも無かったが。


「やれやれ、とんだ無駄を踏みましたね」


「そうね」


蹴られた部分の埃を払うプリラ。

だれか、この文字を読める人物がいればいいのだが。


――――――――――――――――――――


「ゴブリン文字?」


グスタフとゼフィラスが丁度木陰にいたので聞いてみた。


「・・・どれ」


グスタフが手を伸ばしてきたので、その指令書を手渡した。


「これは読みにくいな。

 書いた者は教養が無いのだろう、文法がめちゃめちゃだ」


「読めるんですか?」


「まあ、一応はな・・・部下にゴブリンを持つこともあるし必要な教養だ」


そう言うとグスタフはその場に座り、膝に紙を置く。

そして単語ごとに解読しだした。


「何々、命令・・・グスタフ、殺せ、ほう。

 私、ガムガーズが依頼する・・・ほうほう」


グスタフを殺せというのは合っていたようだ。

まあ、暗殺用の武器も持っていたのだ、そう考えてしかるべきだが。


「ガムガーズ・・・確かゴブリン族『グロー』の長だな。

 戦争強硬派の一人で、実働部隊の一端だったはず」


「要は敵か?」


ゼフィラスがそう聞く。


「分かり合えない、という意味ではそうだな。

 しかし厄介だな・・・こんな辺境まで刺客を差し向けてくるとは」


グズグズしていられないということでもある。


「補給を済ませたら急いで出立しよう。

 先を打たれる前に、こちらが動かねば」


「その提案には同意します。

 こちらの動きが分かられている以上、長居をするのも」


テネスのその言葉を遮るように、大きな足音が複数こちらへと向かって来る。


「・・・敵か?」


動きが早い、とグスタフが振り向くと。

そこには完全武装をしたゴブリン軍団が整列して待っていた。


「グスタフ様に敬礼!」


隊長らしき飾りのついた兜を身に付けたゴブリンが敬礼をすると。

それに倣うように後ろに整列していたゴブリン達が一斉に敬礼をする。


「お前達は・・・?」


「族長に言われ、戦力として合流する運びとなった先遣隊です。

 どうか、存分にお使い潰し下さい」


「族長?・・・そうか」


嬉しそうに頬を緩めるグスタフ。


「使い潰すといいましたが、あなた方も大事な戦力。

 潰すなどと言わず、死ぬ気で生き残って下さい」


テネスがそう言うと、隊長のゴブリンはそう言った本人を睨んだ。


「人間が偉そうに、軍師でもあるまいに」


「・・・」


軍師、と聞いて顎に手を置くグスタフ。


「そうだ、軍師を決めていなかったな」


――――――――――――――――――――


軍師は軍団にとっても少数規模のパーティーにしても重要な役回り。

ただ賢いだけではなく、現状の戦力の判断や状況。

相手の情報を加味し、冷静に判断できるものが軍師を任せられる。


そういう意味ではテネスは軍師に向いているタイプではあるが。

この軍団にとって新参者のテネスが軍師に選ばれるとは考えづらい。


とは言え軍団には軍師役が必要だ・・・特に我々には時間がない。

ゆっくりと決めている時間すら惜しい状況なのだ。


「皆の意見を聞きたいのだが」


軍師を決めるとの事で、グスタフ、ゼフィラス、エマ。

ドノヴァとジーラスが呼ばれたが、肝心のテネスとプリラは呼ばれなかった。


「軍師か・・・時間がないこの時だからこそ早めに決めておくべきか」


ゼフィラスはそう呟くと遠くでゴブリン達と何やら話しているテネスを見た。


「やはり、お前は彼が適任だと思うのか?」


「・・・現状ではそうだ。少なくともエマよりは軍師に向いているだろう」


「あら、失礼ね」


エマはそう言いつつも、その言葉に納得はしているようだ。


「どこの馬の骨かも分からないけど、一般人がルダを倒せるわけがない。

 実力は相当なものだろうし、あの冷静さは買えるから」


エマはそう言う。

用心深い方のエマだが、テネスの事は買っているらしい。


「では、彼を?」


「いいえ、そう簡単な話じゃないわ。

 軍師というものは部隊から信頼される人物でなきゃいけない。

 ・・・つまり、ぱっと出の彼を軍師にするのは士気にかかわるわ」


エマの言いたいことももっともだ。

素性の知れない男に、自分の命を掛けることになる。

信頼しろという方が無理だ。


「だが、他に適任者はいないだろ」


ゼフィラスのその言葉に各々は頷いた。


「実績があれば、それも変わるんだけどね」


「実績か」


そうだな。

彼が軍師になって勝てば、皆の信頼を得ることは容易いだろう。

論より証拠、そう言う事だ。


――――――――――――――――――――


その頃、集落の外れ。

暗殺者を放ったゴブリンのリーダー『ガイオ』は苛立っていた。

放ったはずの暗殺者がおめおめと逃げ帰ってきたのだ。


「・・・バカガ、ケイカイサレルダケデカエッテクルトハ」


「ギギ」


申し訳なさそうに頭を下げるゴブリン。

その頭が、真横に吹き飛んだ。

ガイオの棍棒で、彼の胴体と頭は泣き別れになったのだった。


地面に転がるゴブリンの頭。


「ハイシャニハシヲ」


血の付いた棍棒を拭う。

その行動に、周りのゴブリンは恐れおののいていた。


「コウナッタイジョウ、セメルホカナイ。

 アトハナイゾキサマラ」


ガイオはそう言うと、棍棒を振り上げた。

それに呼応するように、数百というゴブリンが藪の中から現れる。

完全武装、武器も良く研ぎ澄まされている物を持っている。


「ユクゾ」


ガイオが先頭を切り、歩き出す。

それに続き、ゴブリン軍団も後を追っていった。


――――――――――――――――――――


「ふむ」


地面に手を置いていたテネスが納得したように頷く。


「やはり、奇襲するつもりで兵を伏せていたんでしょうね」


「?」


その言葉にプリラは首を傾げた。


「行進が起こす、僅かな揺れを感じたんですよ。

 ・・・規則正しい、数百の足音がね」


刺客がグスタフを襲い、怪我・・・もしくは殺害したら。

その混乱に乗じてこちらを襲う気だったのだろう。


「刺客の行動が完全に失敗した以上、彼らの取る行動は一つ。

 残る戦力を全投入しての強襲です」


「どうしてそう言えるの?後退することだってできるじゃない?」


「敗者には死を、それがヘルザードの考え方の根幹らしいですよ?

 任務に失敗した以上、彼らに帰る場所などないでしょう」


そうなればとる行動は一つだ。

力に任せて正面から打ち破る。

その一辺倒だ。


「ですが、それは自棄になったも同じ。

 策を弄すれば多少の労力で打ち破ることは可能です」


テネスはそう言うと、再び地面を触りだした。


「力押しには頭を使う、昔からの合理的な考えですね」


読んで下さり、ありがとうございました。

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