189話
西側貴族の反乱はその中心部である首都奪還と指導者ケレルの死により終息。
残った西側の面々は次々に投降、反乱は完全に終焉の方向へと向かっていった。
捕まえたゴルムも色々と吐くのは時間の問題だろう。
・・・恐らくカテドラル襲撃に何かしら関わっているはずだ、
厳罰程度で済むはずはないだろう。
だが問題は色々と残っている。
まずは国境沿いを踏み抜いて侵攻しようとするバルクへの対処。
国境自体に進軍はしていないが、絶対に動くとみられるヘルザードへの対処もある。
「・・・」
それに防壁の上にいた偽物のティアマ。
あいつとの・・・災竜との戦いも決さなければ。
城内の大会議室にて主要人物が集まり会議を始める。
「まずはバルクの対処だけど。
東側貴族の一人である『モナード』卿が今の所抑えていてくれている。
ただし戦線は時間を置くごとに悪くなっているとの報告が来ているね」
「どれくらいだ?」
「物資の不足と兵数の差、地の利を生かして戦うにも限界の状態だと報告が」
若い伝令がそう言う。
彼は東側貴族との連絡役、首都制圧の翌日に合流した。
「それに・・・反乱が鎮圧されたことでバルクはより一層攻勢を強めるかと」
「何故だ?反乱が収まればこちらの戦力をそっちに割くことだってできる。
・・・普通に考えれば撤退するのが上策だと思うのだが」
王族らしい衣装に着替え直したアルフォンがそう言う。
その言葉にアルフォンの隣にいたリーゼニアも頷いていた。
「むしろ、今の状況の方が相手にとってはチャンスですよ。
国内の内乱によってゼロームは混乱状態。
今勢力圏を広げればそれだけバルクの領土を広くできます」
国境沿いの領土をかっさらうには今を持って他にないだろう。
対応が遅れればそれだけ領地を失う事にもなりかねない。
「それにティアマの奴が本格的に前線に立つだろう。
・・・今まではこっちにいたんだからな」
こっちにいた、という言葉に一同は俺の顔を見た。
その顔には驚きの表情が見て取れた。
「いたのか・・・!?」
「ああ、俺達を監視するように遠くから見ていた」
奴が本国に帰ったとすると。
次に現れるのは国境沿いだ。
「むう・・・そうなればバルクの攻勢は一層強くなる。
こちらからも援軍を送らなければ」
「ですが、そうなればヘルザード側が手薄になるのでは?」
東側貴族の一人がそう言う。
そう言えばヘルザードの状況ってどうなってるんだ?
今回の内乱には一切手を出してこなかったが・・・何か企んでるのか?
「ああ、それなら大丈夫ですよ。
ゼフィラスさんを含めた国境防衛部隊がヘルザードの首都に攻め入ったらしいですから」
「は?」
その言葉に唖然とする面々。
・・・ん?
首都に攻め入った?
「八霧、どういう事だ?」
「そのままの意味だよ、今やヘルザードは僕達ゼロームに手を出せない状況って事」
「ま、待て!待ってくれ!どういうことなのだ八霧殿!」
説明を求めるように詰め寄る貴族達。
・・・流石に俺も説明して欲しいところだが。
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八霧によればこうだ。
ゼフィラス達はヘルザードの侵攻部隊と交戦を開始、優性に進めていたが。
突如ヘルザードの一部の部隊が離反、仲間の部隊を襲い始めた。
それによって深刻な被害を受けたヘルザード侵攻部隊と休戦した防衛部隊。
その直後に西側貴族の反乱が発生、前のヘルザードと後ろの西側貴族という形になった。
そして生き延びるために取った方法がヘルザード侵攻部隊と協力して、
前に押し進むという手段を取ったという事だ。
「・・・それでよく首都まで行けたな」
「うん、それには僕も驚いてる」
装備、兵力からしてもとても敵陣深くへと侵攻できるほどのものじゃない。
もし話が本当なら余程の幸運に恵まれたか・・・あるいは。
「余程心強い仲間を得たか、か」
「仲間・・・」
「案外、あの二人だったりしてな」
頭によぎる二人の顔。
テネスとプリラ。
彼らがその快進撃に加担しているとすれば納得できる部分もある。
「まさかぁ」
そう言って笑う八霧。
・・・本当なら、こっちの手間も色々と省けるんだがな。
しばらく八霧と他愛のない話をしていた。
すると、リルフェアの警護をしていたはずの聖堂騎士がこちらに歩いてくるのが見えた。
「ここに居られましたか」
「何かあったか?」
「いえ・・・今後についてリルフェア様がお呼びです」
今後。
そうだな、まずはバルクをどうするかとヘルザードの事もある。
厄介な話になりそうだな。
――――――――――――――――――――
リルフェアは城内で最も警備の厳重な場所である来賓用の客間に待機していた。
カテドラルは現在アーセ村から移動中、数週間かかるという。
・・・あれだけデカいゴーレムだ足も遅いだろうさ。
俺を呼んだ当人のリルフェアはベッドに腰かけながら、
窓際のにある席で紅茶を飲んでいるティアマと何かを話しているようだった。
ドア際にいるこちらに気づいたのか、会話を止めるとこちらに身体を向けた。
「あら、トーマ」
紅茶を一口飲み、ティアマは立ち上がった。
随分話し込んでいたのかテーブルの上の御茶請けを入れておく皿は空になっていた。
「邪魔したか?」
「いいえ、丁度いいタイミング。
ティアマさっきまでの話をして頂戴」
「ええ」
リルフェアがティアマに言葉を掛けると、頷いてそれに返した。
「バルクへの対処を優先、ヘルザードへの軍・・・いえ。
ゼフィラス達への援軍も同時に行うわ」
「二面作戦か・・・大丈夫なのか?」
兵力の抽出が十分ではない。
ヘルザードはともかくバルクは戦力を最大限に送ってくる事だろう。
二手に分かれるのは愚策ともとれるが。
「大丈夫、今の所はね」
簡単にリルフェアが説明をする。
まずバルクへの戦力は8割、ヘルザードへは1割で残りは防衛。
文字通り総力戦の構えでバルク、ヘルザード両面へと作戦を展開するという。
ゼフィラス達がヘルザードへの攻撃をしたという情報の正確さは未だに不明だが。
現状ヘルザード側からの攻撃が無いことを見るとその情報は合っているとみていいだろう。
「バルクへの攻撃はトーマ、それに八霧君を中心にした本隊。
ヘルザードへの援軍・・・もとい確認のための部隊は聖堂騎士を中心に。
防衛には冒険者たちを用いる予定だけど」
「・・・本当に総力戦になりそうだな。
3国間での世界、いや大陸戦争と言ったところか」
「本来なら半年以上前のヘルザードとの決戦で負けが決まった。
だけど、紆余曲折・・・いえ、トーマ。
貴方達が来てくれてそれを盛り返すことが出来たわ」
本当に、なし崩しでそうなった感じなのだが。
助けられたのなら幸いだ。
「ゼロームはここで負ければ終わり。
それはヘルザードにもバルクにも言える。
それだけ、この戦争は大陸にとって重要で、そして負けられない争いなのよ」
「そうか」
確かに、ゼロームに二度目の負けは許されない。
内乱に勝ったとはいえ戦力は不十分で相手の総力を上げた攻撃には耐えきれない。
こちらから打って出て相手を先に叩くしかない状況なのだ。
「さあ、もうひと頑張りね」
「ああ・・・そうだといいがな」
どうにもこの戦争、何者かによって引き起こされたように感じる。
バルクやヘルザードじゃない、もっとデカい何かだ。
(偽物のティアマ・・・あいつの正体は何なんだ?
アイツが、全部の元凶なのか?)
答えは、バルクにあるのだろう。
そしてその答えを知りに行くように、俺はバルクへと戦いに赴くことになった。
読んで下さり、ありがとうございました。