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188話

防壁の前面を守る部隊は壊滅。

伝令の話によると、何者かによって指揮を執っていた貴族も死んでいたらしい。

・・・味方に殺されたのではないかと予想を立てていたが。


隊長クラスのゴルムはこっち側が拘束、身柄は確保されていた。

後で色々と聞きだすこともあるし今の所は生かしておくとの決定だ。


防壁は前線の様子を見て沈黙、矢の一本も飛んでこない。

こちらの勝利にも見えるが果たしてどうだろうか。


「ん?」


ふと視線に気づく。

防壁の上に存在する観測所のような場所から何かを感じた。

じっと目を凝らし、その人影のようなものを見る。


「・・・!」


あれは、ティアマ。

いや・・・偽物の方か。

こちらの視線を感じ取ったのか、ニヤリと笑うと暗闇に消えていった。


――――――――――――――――――――


防壁を突破、城下町へとなだれ込んだ俺達。

そこで見た光景は、勝鬨を上げる市民たちだった。


既に逃げようとしていた私兵たちは市民によって捕らえられ。

彼らを指揮していた貴族も簀巻きにされて地面に転がされていた。


「いやはや、逞しい市民たちだな」


「ガイゼン」


「私が来なくとも私兵に対して反旗を翻していただろうさ。

 相当鬱憤が溜まっていたようでな・・・私達が攻撃を仕掛けたのを機と見たか、

 一斉に攻撃を始めたんだ」


「そうなんだ・・・意外だね」


八霧も意外そうな顔でそう呟いた。


「国民、市民というものは国の上層部が変わってもそう変わりはしない。

 多少理不尽な法律が出来たとしても始めのうちは静かにしてるものだと思っていたけど」


「発破をかけるまでは動かない、か?」


「うん」


まあ・・・そうか。

自分達の生活を壊してまで国に反逆しようという気にはならないだろう。

数年とか長いスパンを挟まない以上はそう簡単には。


「それについては・・・まあ、訪ねた家を見て納得はしたよ」


ガイゼンがそう呟く。

その顔は多少の気まずさが混じった顔だった。


市民の家で見てきたというその惨状。

家々は荒らされ、金目の物は奪われ衣類すらほとんどが強奪されたそうだ。


「うわぁ、それは酷い」


「反逆されて当然か・・・」


どうやら西側貴族たちは私兵に好き勝手にさせることで士気を上げていたらしい。

要は勝手にしていいから戦ってくれとでも言ったのだろう。


「おかげで首都付近の店とそれに付随する倉庫街、輸送ルートまでも壊滅。

 何も残ってすらいないそうで餓死者が出始めているそうだ。

 ここまでひどいものは見た事が無いというほどにな」


荒らすだけ荒らしていきやがったって事か。

後々復興する方の身にもなって欲しいものだが。

・・・いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「八霧、貴族の指導者たちを捕まえる部隊と市民を救援する部隊に分けた方がいい。

 ほっとける状況じゃなさそうだ」


「そうだね」


――――――――――――――――――――


首都中央部、ドラクネン家が居を構えていた城。

前に見た時は美しい白亜の城壁も今や汚れて見える。


「ここに指導者たちがいるんだな?」


「はい、逃げようともせずに残っているそうで」


市民側の協力者がそう言う。

ローブから覗かせる目には、怒りが満ちていた。


「これでようやく俺達は解放される」


「・・・」


どうなるかはこれからだが。

だが・・・逃げていないというのが少し気がかりだ。


「竜騎士殿、突入部隊の用意が出来ました。

 正門、裏門、非常用の脱出口すべてに兵士を配備しました」


「ああ」


聖堂騎士はそう言うと、前線の列へと戻っていった。

既に城の前にはこちら側の兵隊が突撃の合図を待っている。


城側は兵士の姿は多少見えるが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。

城門は閉じられてはいるが防衛する気は無いのか静まり返っていた。


「敵の様子は?」


「動きは依然見られません」


「降伏の使者はどうなった?」


「・・・出迎えもされず、何の反応もないそうです」


何も無いか。

詰んでいる状態で、果たして彼らは何を考えているのやら。


――――――――――――――――――――


「ふふ・・・そうか、ここまで来たか」


城の庭を見渡せる大窓から外の様子を伺うケレル。

既に全ての道は塞がれ、逃げ場所などないに等しい。


「ど、どうするのですか!?」


「騒ぐな。敗軍の将は何も語らぬものよ」


そう言うと、ケレルはゆっくりと玉座に座り直した。


「三日天下とは言ったものだ・・・くく、天は我を選ばなかっただけとも言えよう」


「ケレル様?」


「リルフェア、ラティリーズが死んだと知らされた時は。

 この歳で国を興せると思ったものだが・・・所詮は騙りにすぎぬか。

 終わる時は呆気ないものだ」


頬杖をつくと、自嘲気味に笑う。


「わしも貴族、最後まで戦って死のう。

 既に・・・謝って済まない部分まで足を入れてしまったからな」


「け、ケレルさまぁ!私は死にたくは!」


普段から醜かった顔をさらに歪ませるカルヴァ。

嗚咽を吐き、土下座のような格好でその場に伏していた。


「貴族ならば死ぬときは潔くしろ、貴様も貴族になったのだろうが」


溜息を一つ吐き、ケレルは傍に控えていた私兵を見る。


「お前達も最後まで戦え・・・慈悲にすがって助かると思うな」


「は・・・」


私兵たちはその言葉に頷くと、その場を後にした。


「ふふ、最後の最後に諦めていた国盗りを出来ようとはな・・・面白い人生だった」


「ケレル、様?」


いつの間にか顔を上げていたカルヴァがケレルを見る。

その顔は晴れやかでもあった。


「父の跡を継ぎ、大貴族として勤めて40余年。

 近くで我々の神であるリルフェアをずっと見てきたが・・・くくく。

 民心が離れ始めてるとは言え、まだまだ神として崇められてるではないか」


何故か、嬉しそうにも見えるような表情で笑うケレル。


「所詮私はここまでの男だったという話か。

 カルヴァ、貴様も腹を括って・・・ん?」


いつの間にか立ち上がっていたカルヴァは、近くに立っていた蝋燭台を手に握っていた。


「お、俺は死ぬ気は無い!こんな所で!」


「カルヴァ・・・貴様―――」


――――――――――――――――――――


城内に突入した突撃部隊。

内部での組織的な抵抗はほとんどなく、

俺達の姿が見えると降伏してくるものが大半だった。


予想よりもあっさりと総大将であるケレルのいる謁見の間まで来ることが出来た。

今はその謁見の間に入るための大扉の前で待機している状態だ。


「・・・」


扉の左端と右端に立った聖堂騎士二人がお互いの顔を見て頷く。

ほぼ同時に観音扉型の扉を蹴破り、内部へと突入した。


のだが・・・。


「これはどういう事だ?」


俺達が取り押さえるはずのケレルが。

玉座に座りながら血を流して事切れていたのだ。


すかさず聖堂騎士の何人かが傍に寄って調べ始める。

・・・自殺か?いや、だが。

俺も近づいて調べてみる。


「燭台で刺されたようですね」


「こいつは自殺じゃない、な」


誰かに突き刺されたのだろう。

自分じゃ胸にこんな大きな燭台は突き刺せない。

足元に転がる血の付いた燭台を見ながらそう思った。


「しかし、これでこの内乱は終結する。

 ・・・俺達の勝ちでな」


「・・・なんだが、しっくりきませんね」


兵士の一人が多少困惑が混じった顔でそう言う。


「言うな、俺もそう思ってる」


ケレルの死体を担ぐ。

敵とはいえ、大貴族の一人だ。

きちんと弔ってやらないと後に関わるだろう。


「これで終わりなのでしょうか?」


「戦争という意味なら続くだろうさ。

 ・・・ヘルザードとバルクの件は一切片付いていないから、な」


問題はここからだ。

果たして隣国はどのような行動を起こすのだろうか。


読んで下さり、ありがとうございました。

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