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182話

ヨハンとの戦いから数日。

足早に次の防衛ラインの場所まで迫った。

・・・のだが。


第二防衛線の戦闘は呆気なく終わった。

いや、戦闘事態が発生しなかったと言っていい。


防衛に残っていた少数の兵隊はこちらの攻撃を感じ取ると一目散に逃げ出した。

その数も少なく、まるで明け渡したかのようだった。


「足止めにもならなかったな、これは」


「いや、足止めは受けたよ」


「ん?」


「ここに来る前に作戦会議と休憩を取った。

 その分でも時間を食わされたって事」


「なるほど」


そう考えればそうだな。

だとすれば、彼らの行動も無駄ではなかったということか。


「休んでいられないね」


「・・・先を急ぐか」


軍団は足を止めずに首都へと向かっていった。

多少の不安感を残しながら。


――――――――――――――――――――


第二防衛線を呆気なく突破した。

この事について騎士も冒険者も何故?という空気が流れていたが。

撤退命令という書類が拠点から出てきたことによって全員が納得していた。

・・・どうやら首都、つまり決戦に注力するつもりのようだ。


その首都に攻め入るには二つの道がある。

一つは直進ルート、もう一つは農業区画を迂回して側面を叩くルートだ。


その二つの案のうちどちらを決行するかで会議をしていた。

場所は移動中の馬車内で人数はそれほど多くない。


「どちらにせよ首都を守る防壁を叩くことには変わりないけど」


「ここまでくれば速度は関係ない、後は敵陣を叩くだけでしょう?」


聖堂騎士の代表で来ていた騎士がそう言う。

彼のいう事ももっともで、残るは首都を守る防壁のみ。

途中俺達を止められるほどの要塞も拠点もない。


「目と鼻の先だけど、だからって遅く行動すれば相手に準備させる時間を取らせる。

 偵察班が戻り次第行動を開始するからそれまでに案を纏めないと」


「二面作戦は駄目なのか?本体で直進、分隊で側面から叩くっていうのはどうだ?」


俺の案に、八霧の顔が曇る。


「状況次第だね・・・出来れば戦力を割きたくは無いし。

 だけど相手の配備次第ではそれも視野に入るよ」


相手がどんな策を用意しているのかが分からない以上、下手には攻められないか。

とはいえまごまごしていれば状況はこちらに不利になる。

何とも行かない状況だなこれは。


「ヨハンさんは何か聞いてない?」


「私か・・・いや、すまない。外縁部を守れとだけ命令されたからな」


情報なしか。

彼が何か隠しているということはないだろう、

今は嘘をつく必要なんて無いからな。


「しかし、その時気がかりな事を聞いた。

 なんでも兵士の能力を強化する秘策があるとか呟いていたが」


「誰が?」


「すれ違った貴族だ、眉唾物だから気にも留めなかったが」


能力強化、兵士。

・・・そう言えばあの偽物のティアマ、それっぽいことを言っていた気がするな。

だとすれば。


「八霧、警戒が必要だ。俺の予想が正しければな」


「え?」


「大物の相手をする必要が出てくるかもしれん」


簡単に俺の聞いた事と覚えていたことを話す。

その話を聞いた八霧は複雑そうな顔をした。


「正体不明の魔法・・・か、厄介だね。

 対策のしようが無いし、前の決戦での決定打になったとすれば」


「とんでもない強化をされた兵士が戦場に立っている可能性があるって事だ」


純粋に兵士の能力を底上げしているのだったらこれほど厄介なものは無い。

今までは私兵の練度の低さの能力の低さに助けられた部分も多いのだ。


「とはいえ、こいつはあくまで可能性の話だ。

 そうならないことを祈っておいた方がいいな」


「そうだね・・・」


だが、大抵。

こういう場合は悪い方の予想が当たるものだ。


――――――――――――――――――――


その頃、ゼローム首都。

敵兵が接近との話が既に市民にまで広がっていた。

私兵は緊張気味で全員が城壁付近まで走っていき、

市民はその敵というのがリルフェア率いる正規軍だという事を聞いて歓喜していた。


「・・・っち、これじゃ不味いぞ」


「?」


走っている私兵の一人がそう呟く。

隣で並走する私兵はその言葉に足を止めた。


「相手は精強な軍隊だし、まとまってやがる。

 対するこっちはそれぞれの貴族様の利権が混じってバラバラだ」


「ああ・・・そう言う事か」


「それに市民が暴動を起こせば俺達は挟み撃ちだ。

 この戦いどうなるんだよ」


悲観的にそう言う私兵。

そして何かを閃いたように顔を上げた。


「そうだ!今逃げれば」


「おいおい・・・督戦隊が既に編成されてるんだぜ?

 逃げたら殺されるぞ」


「市民に紛れて逃げるんだよ、戦いが始まったらな?」


うまく行けば死なずに済む。

こんな無謀な戦い誰もしたくはないだろう。


「そううまく行くもんか?」


「死を待ってるよりはよっぽどましだろ!」


「まあ、そうか・・・そうだな」


首都を防衛する私兵の数は数万に上るが。

その中でも好戦的に構えているのが半数という状態だった。


そのため防壁を守る守備隊の気力も低く、戦いもしないのに厭戦ムードが漂っていた。

しかし・・・。


その日の夜にそのムードは一新されることになる。

どちらかと言えば悪い方向へ。


――――――――――――――――――――


その頃、首都に立つ豪邸のある一室。

西側貴族たちはあまりにも早い進撃に困惑していた。

その証拠に戦闘に関する会議の場でも意見が一致せず、迷走の一歩を辿っていた。


「・・・どうしましょうか?」


「面白いではないか、数にものを言わせて潰せばよい。

 それに・・・バルクの姫君の援助もあるのだろう?」


「で、ですが・・・しかし、あの兵の様子は尋常じゃ―――」


目の前に整列しているその兵士達。

サンプルとしてこの場に置いていったティアマの姿を思い出す。

まるで悪女・・・いや、どす黒い何かを含んだ笑みでこちらを見ていた。


そして彼女の用意したその兵士達は。

まるでこの世の者とは思えない程生気のない顔でこちらを見ている。

死者が立っていると言われてもだれも疑わない程に。


「だが強いのだろう?現に先ほど力を示したではないか」


そう言ってちらりと脇を見る貴族。

そこには真っ二つになった屈強な兵士が倒れていた。


彼は私兵の中でも腕自慢の男。

だが強化されたゾンビのような兵士の前にはなすすべも無く撫で斬りにされた。

見た目はあれだが、強さは確かと示したのだった。


「見た目などどうでも良い、使えれば何でも良いのだ。

 さっさと防壁に配備して来い」


「しかし、何かあった場合どうなさるのですか?

 暴走でもされたらこちらも壊滅的な被害が」


「構わん、奴らを止められるのなら毒でもなんでも使いこなさなければいかん」


そう言って立ち上がる貴族、ノーラン・ケレル。

握り拳を作ると、持っていた杖で何度か床を小突く。


「行け!命令だぞ」


「は・・・はは!」


――――――――――――――――――――


「・・・」


防壁が眼前に迫る。

こうしてみるとゼローム首都の防壁も立派な物だ。


外敵を今まで防いできただけの事はある重厚なつくり。

基本は切り出して磨いた岩を積んで鉄で補強してあるが。

その補強に使われている鉄には魔法防御力を高めるための細工がしてある。


「正攻法だと真正面からの突破だね」


「そうだな・・・」


別動隊として農業区画から少数の部隊を迂回させているが。

それはあくまで相手への牽制の意味が強い。

奇襲だとか二面作戦という意味合いでの部隊ではなく、偵察と行った方が近いか。


「ここで待機しよう、まずは民間人を遠ざけないとね」


数自体は少なかったが防壁周りには商人や旅行者が歩いていた。

それはそうか、ここで戦争を始めるなんて彼らはまだ知らないのだから。


「民間人を巻き込むわけにはいかないからな」


「うん」


ここで勝てば内乱にとどめを刺せる。

・・・負けるわけにはいかないな。


読んで下さり、ありがとうございました。

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