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180話


「まさか、投げ返されるとは」


魔法部隊の隊員はそう呟きながら、押しつぶされた同僚を助けていた。

ここから魔法が着弾した場所まではかなりの距離がある。

長弓を引き絞って撃ったとしても届かないようなロングレンジ。

それをいとも簡単に、あんな大きな氷塊を投げて返してよこした。


「うむ・・・次弾は炎で行く、炎ならば投げ返せまい」


白ひげの生やした隊長がそう言うと、救助に回っている者以外が準備を始める。

杖をかざすと丸い火球が上空に現れる。


「3・・・2・・・今じゃ!」


無数の火球が一か所へと向かっていく。

互いに距離を取りながら、火球はその標的へと飛んでいったのだが。


何故か着弾せずに180度反転してこちらへと返ってくる。


「何じゃと・・・?」


「盾で弾いたんですよ、隊長!」


双眼鏡らしきものを覗いていた観測手がそう叫ぶ。


「盾?魔法を盾で弾くというのか?

 い、いや原理的には可能じゃが・・・しかし、あの数を?」


「こ、こっちに来ます!」


反転した火球は目の前まで迫るが。

防御魔法が発動し、火球は目の前で消え去った。


「氷塊は物質、障壁では防げなかったが。

 魔力の塊である火球は無効化出来るぞ」


そう言いながらかっかっかと笑う隊長。


「わ、笑っている場合では―――うわぁ!」


隊長を諫めようと話しかけた魔法使いが地面に倒れる。

その身体の横に、小さな石が転がった。


「む!?」


「投石!?そんな原始的―――ぶぉ!?」


そう喋った魔法使いの顔面に石が命中する。

その一撃で男は地面に大の字に伏した。


「ば、馬鹿な!あの位置から石を正確に・・・むぅぅ!?」


すんでで身体を逸らすと、石が頭のあった場所を通過していった。

後ろに生えていた木にぶつかるとその幹を抉りながら石は勢いを失って地面に落ちる。


「小石で、木を・・・」


冷や汗が頬に垂れ、目線を飛んできた方向へと戻す隊長。


「く・・・なりふり構うな!出せるだけの魔法で一斉攻撃を仕掛けるぞ!」


――――――――――――――――――――


大小様々な魔法。

それが塊となってこちらへと飛んでくる。

互いに干渉しあい火花のように魔力を散らしながら。


「ムキになったようだな」


部下を手当てしていたヨハンがそう言う。


「お前の周りには敵が多そうだな?」


「ふ・・・意地を通すのはそれだけ敵を増やすという事だ。

 いや、私の場合は他の物に比べてもその数も多いだろうな」

「?」


「彼らは我が領主の配下ではない、他の貴族の部隊なのだ。

 故に私を殺そうとしたのだろう」


「そいつは・・・ああ、なるほどな」


何となくだが理解できた。

一枚岩ではない軍隊だからな。

様々な貴族がそれぞれの私兵を出し合って作ったような連合軍のようなものだ。


つまり彼ら魔法部隊は有能なヨハンをこの場で亡き者にする事で。

別の貴族の戦力と力を削ぎ落し、優位に立とうと考えたのだろう。

・・・そんなことして戦争に勝てるのかとも思うが。


飛んできた魔法がこちらの至近距離まで近づく。

弾き返そうとするが。


(・・・魔法が混じり過ぎて安定していないな。

 弾き返そうにも焦点が定まらないか)


なら、受け止めるだけだ。

両手を広げ魔法の目の前に立つ。


「貴様、何を」


「まあ見てろ」


身体に接触する複合した魔法の塊。

電撃の感触や肌を焼く様な熱さを感じる、が。

・・・結局身体を傷つけるほどのダメージにはならないと直感した。


そしてその魔法の塊は俺という障害物に当たった事でその場で爆散した。

爆散、と言っても魔力の残滓がそこら中に飛び散っただけだが。


「私達を庇ったのか・・・?」


「お前があいつらに殺されていいはずないだろ。

 それとも武人というのはこんな仕様もない死に方をしていいのか?」


味方の魔法部隊に撃たれ、死ぬ。

しかもそれは政治がらみ。

武人としては本懐を遂げた死とは言いづらいだろう。


「・・・そうだな」


ヨハンは立ち上がると、周りに立っていた親衛隊員達を見た。


「目標変更だ、魔法部隊を先に倒すぞ!」


ヨハンは魔法部隊の方へ剣を向け、そう叫んだ。

おお!と呼応する親衛隊。


(先に、か・・・まあいい。それより八霧も気づいているはずだ。

 あっちがどう動くやら)


――――――――――――――――――――


「魔法使い達の増援?」


「は、近くの村落に隠れていたようで」


・・・隠れてた?

どうしてだろう、別動隊にしては。

いや、別動隊じゃないだろう。


だとすれば。


(貴族の部隊を監視する他の貴族の部隊・・・かな?)


だとすると。


「攻撃は?」


「は、味方を巻き込んで無差別に攻撃しております」


「やっぱりね、だと思った」


勝てないと踏んで役立たずごと敵を倒す、とでも言いたいのだろう。

そんな行動で戦争に勝てるとは思えないけど。


利権がらみだとすれば戦争という状況で邪魔者を消すという考えでもあるのだろう。

ヨハンさんは敵が多そうだし。


「規模は?」


「数十名ですが、よく鍛錬されているのか前線部隊も迂闊に近づけません。

 近づこうとすると魔法で押し返されるとか」


「なるほど、無茶をせずに前線を保つように伝えておいて」


「は」


伝令は頭を一つ下げると陣幕から出て行った。


「こうなるとトーマさんの方も襲われているかもしれないな。

 まあ・・・問題はないだろうけど」


しかし、別の貴族の差し金か。

うーん・・・。


「そうだ」


一人二人捕虜として捕まえて貰おう。

うまく行けば周辺の敵対貴族を黙らせることが出来るかも知れない。

その事を伝令に伝えようとした時。


本陣を張っている場所に迫撃砲のように魔法が降り注いできた。


「なるほど、本陣の位置を特定してたのか」


本陣に襲い掛かるはずのその魔法の砲弾は本陣に張られた魔法防壁によって防がれた。

防壁に当たると爆音を立てて空中で霧散する魔法達。


「お、襲われることは前提だったんですか?」


怯えた様子の本陣警護兵が僕に話しかけてくる。


「奇襲は常套手段、万事備えておくことこそ戦に勝つ基本だよ。

 相手だって馬鹿ばかりじゃないだろうし奇襲くらいはしてくるだろうからね」


その言葉に感心したのか声を漏らす兵士。


「さあ、撃ってくる方向を調べないと」


こちらからも反撃を加えよう。

・・・本陣を襲ったという事は別の部隊にも同様に奇襲を仕掛けているはずだ。

足止めの為に。


――――――――――――――――――――


八霧の予想通り、足止めの為に攻撃を仕掛けていたその集団。

トーマ達に攻撃を仕掛けたのもその足止め部隊の一つだったのだが。

その一団は、攻撃開始から数分とせずに制圧されていた。


「やれやれ」


奇襲して攻撃を仕掛けてきたのは良かったが。

肝心の近接に対する護衛がいなかった。

要するに近づかれると一方的な試合というわけだ。


「本陣を奇襲するための部隊だったってわけか?ん?」


隊長の腕を掴んで持ち上げる。

強引に立たせて、腕を背中に回して拘束した。


「ぐ・・・!」


「老人に手荒な真似はしたくない、が」


周りを見る。

そこには彼を囲む様に配置した親衛隊員とヨハンがいた。


「喋らないと俺以外の奴が何をするか分からないぞ?」


「な、何を」


「こいつらにとってはお前は裏切り者に見えるわけだ。

 戦場での裏切り者の末路くらいはお前も知ってるよな?」


少なくとも五体満足で帰れはしない。

最悪その場で処刑もあり得る。


「誰の差し金だ、老人」


「・・・い、言えるわけが」


ヨハンの剣が彼の頬を掠める。

血は出ていないが、薄皮が一枚剥がれていた。


「言わないのか?」


「わ、分かった!言うから放してくれ!」


急に正直になったな。

まあ・・・命の危機を感じればそうもなるか。


読んで下さり、ありがとうございました。

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