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179話

私は武人、だから死ぬ場所は戦場とそう決めていた。

その覚悟し生きてきて数十年。

遂にその死に場所がここに出来た。


親衛隊の中でも最精鋭の者達で中央を突破。

差し迫る兵をなぎ倒して敵陣へと斬り込んだ。

一人、また一人と兵士を減らしながら遂に。

敵の陣幕が見える場所まで迫る。


「あの先に敵の大将が!」


血気にはやったか、或いは血を見て興奮していたのか。

一人の親衛隊が命令も聞かずに敵の陣へと向かっていく。


「おい!」


呼び止める声も空しく目の前に張られた陣幕を剣で切り裂く親衛隊員。

はらり、と布製の幕が地面へと落ちる。


その先には一人の男が椅子に座ってこちらを待っていた。


――――――――――――――――――――


「来たか」


俺はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

その動作を見て目の前のヨハンは持っていた武器を構えた。


「本陣ではなかったか」


「残念だな、ここから後方にあるのが本陣だ。

 ちなみにここは最前線の指令所に当たるな」


「ヨハン様、この男・・・それに白銀の鎧。

 まさか例の」


親衛隊の一人がヨハンに対してそう言う。

ヨハンは俺と部下を交互に見ると、首を振った。


「まさか・・・敵方の総大将がこんな場所にいるはずが無いだろう」


「しかし!竜騎士は白銀の鎧を来た大男だと!」


「白銀の鎧を着るのは何も彼だけではないだろう?

 ・・・だが、その竜騎士の影武者という可能性もあるか」


ヨハンはそう言うと、構えていた剣をこちらに向けてきた。


「偽物だろうが本物だろうが、貴様を討ち取ればこちらの士気も上がる。

 覚悟してもらおうか」


「・・・とりあえず降伏する気は無いという事でいいか?

 戦局はこちらが優位、陥落も時間の問題だぞ」


既に大勢が付いたとみていい。

敵主力は既に壊滅状態、要塞も防衛部隊の士気はダダ下がり。

総大将も今、俺の目の前にいるわけだ。


「こちらにも意地というものがある・・・。

 例え負けが確定していたとしても、私は最後まで戦う」


――――――――――――――――――――


こちら側の負けはほぼ確定。

総大将である私が打って出た時点でこの戦闘は敗北が決定したも同じだろう。


だが、このまま負けを認めて降伏するのは敗北以上に許せなかった。

だからこそ・・・私は最後のあがきとしてこうして打って出たのだ。


「行くぞ・・・!」


この数十年、常に握り続けた剣。

前の領主様より授かった名剣の一本。

この剣に私は最後まで戦い、身が朽ち果てるまで尽くすと決めたのだ。


相手は片手の小手に備え付けてある盾を構えた。

なるほど、重騎士・・・あるいは重戦士か。


剣を振り上げ、持ち手を短く持ち軽く初撃を入れる。


「むぅ!」


その初撃が盾に防がれ火花を上げて剣が戻されるように弾かれる。

反動で腕に痛みを覚えた。


(何という固さだ、まるで岩に打ち付けたような感触だな)


構える側にも技量というものがいる。

盾の持ち方、角度。

受け止めた際の身体の捌き。

そういう点で言えば、目の前のこの男は・・・。


「ふふ・・・最後の相手に相応しいという事か!」


剣を構え直し私は思わず笑う。

満足にも感じ、少しさびしくも感じる不思議な感覚だ。

死地に選ぶには最適の相手だというのに。


「聞いておくが、家族はいるのか?」


目の前の男がそう聞いてくる。

思わず浮かぶ二人の笑顔と姿。


「ああ、妻と子が一人な」


「そうか・・・死ぬ気で来るのはいいが、残される家族はどうするんだ?」


その言葉を聞き、私は握っていた剣を深く握りしめた。

ぐっと、手に力が入る。


「それは、貴様には関係の無いことだ!」


再び走りだす。

それに続くように親衛隊員もその行動に続いてきた。


「・・・やりづらいよな、こういうのは」


目の前の男がそう呟いた。


――――――――――――――――――――


相手は己の信念に従って行動する一本気な男だ。

他の奴らと違い、リルフェアに逆らおうとして戦っているわけでは無い。

ただ・・・時勢が彼をそうさせているのだろう。


「むん!」


ヨハンの振り下ろした剣を盾で弾いて彼の身体ごと後ろに仰け反らせる。


「ぐぅ!?」


「ヨハン様!」


彼の隙を埋めようと、親衛隊員が俺に斬りかかってくる。


「なるほど」


いいコンビプレイ、いや連携と言ったところか。

相手の隙を埋めてこちらに波状攻撃を掛けるのは戦場では上策。

だが。


「!」


斬りかかってきた親衛隊員の身体にタックルを食らわせて吹き飛ばす。

その後ろに続いてくる隊員に目掛けて。


「うわ!?」


タックルで吹き飛んだ隊員の身体が他の隊員を押しつぶすように巻き込んだ。


「同じ方向からの攻撃はそうなるぞ」


「教官気取りかよ・・・この!」


地面に倒れていた隊員がそう言いながら体勢を立て直す。


「大丈夫か、ハル」


「え、ええ」


いい奴なんだな、ヨハン。

ますます戦う行為自体に気が引けてきた。


どうにか仲間に出来ないだろうか。

このまま貴族の尖兵として朽ち果てるにはもったいなさすぎる男だ。


「何故だ」


「む?」


何故と聞かれて反射的に言葉が漏れた。


「何故殺さない、お前ほどの実力ならあのタイミングで私もこいつも殺せたはず。

 なのに・・・何故だ?」


「何故って、そりゃ」


殺すのが惜しいというのが一番だろう。

後はリルフェアに報告するのが、な。

出来れば死んだなんて言う報告はしたくはない。


何より殺して後味が悪い人物は出来れば手に掛けたくはない。

それに、時勢によっては彼は仲間になっていたかもしれないしな。


「惜しいから、といったところか」


「惜しい・・・ふ、買われたものだな」


多少嬉しそうに口だけを笑わせるヨハン。


それから何度か近づいては打ち合い、離れるを繰り返す。

こちらもある程度は反撃するが小康状態で時間が流れていく。


疲れさせて捕縛しようかとも考えた始めたその時。

遠方から魔法が飛んでくるのが目に入った。


(あの方角は・・・こっちの攻撃じゃないな)


こちらを狙って放物線を描いて落ちてくる青い何か。

バックステップで回避すると、巨大な氷塊が地面に突き刺さった。


「ぬわぁ!?」


「がふっ」


親衛隊員数名が複数落ちてきた氷塊の一つに押しつぶされる。


「・・・!?これは!」


ヨハンが魔法の飛んできた方向に振り向く。

その先には小高い丘があり、何人かのローブ姿の人間が立っていた。


「おい、ヨハン。あれはお前の仲間じゃないのか?」


少なくともこちらの味方ではない。

味方のいる場所に魔法をけしかける行為を八霧がするはずが無いし。


「ああ、あのローブの色・・・隣接する他の領主の魔法部隊だ」


「おいおい、じゃあ」


氷塊を掴み持ち上げる。

潰された親衛隊員は気絶しているようで、怪我はそこまでひどくはないようだ。


「味方ごと俺を倒そうって、そう言う事か?」


喋りながら、次々と氷塊を掴み魔法部隊に対して投げ返した。

投げ返されるとは思っていなかったのか、

回避に遅れた数名が氷塊に潰されるのが遠目で見える。


「・・・おいおい、何て馬鹿力だ」


「言ってないで親衛隊員を治療してやれ。

 こうなればお互いに戦ってる場合じゃないだろ」


少なくとも、ヨハンと戦っている場合ではないだろう。

助かったと心のどこかでも思っていたが。


――――――――――――――――――――


「敵の援軍かな」


展開が早いところを見ると、元から近くで待機していた部隊のようだ。

・・・いや、ヨハンの事を監視していたのかもしれない。

ああいう武人タイプが裏切ることだって今の状況だとあり得るし。


「どうしましょうか?」


「別動隊を編成して当たろう。人員を厳選しておいて」


「は」


伝令が陣から出て行く。

多少厄介だけど、この援軍を潰せば戦いは決着したも同然だろう。

これ以上の戦力は敵には存在しないだろうし。


「後はトーマさん次第だけど」


まあ、大丈夫だろう。

何があったとしても何とかできるだろうし。

読んで下さり、ありがとうございました。

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