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178話

要塞は基本石造りの、切り出した石塊や岩を積み上げた中規模の拠点。

内部には兵士の宿舎や司令部など戦うために必要なものは全て内包している。

だがその構造上魔法にはあまり強くないため、外壁には魔法防御用の術札を張っていた。


その術札が、要塞が攻撃を受ける度に焼け落ちることを繰り返す事数回。

兵士達の士気も要塞が揺れる度に低くなっている。


更に悪いことに退却してきた集団の中に敵方の兵が紛れ込んでいたらしく。

食糧庫に火を付けられたという報告が先ほど上がってきた。


「・・・やるな」


そのつもりならば、前面に兵士を置いた段階で魔法による攻撃を仕掛けるはず。

攻撃をしてこなかったのは敢えて兵士たちを内部へと逃がしたのだろう。

・・・恐らく、スパイを紛れ込ませるためにも。


また、食いぶちが増えれば要塞の維持もそれだけ困難になる。

燃やされた分と兵士の数を考えれば・・・数日と持たない。


「まずいですね、本国から供給される物資自体もそこまで多くないのに」


ヨハンの付き人にして軍師のラッカがそう呟く。

若いが頭の切れる青年でそこらにいる私兵よりもよっぽど有能だ。


「言うな、ある物で戦わなければならないのだからな」


そもそも、この要塞自体攻撃されることを予想していたわけでは無い。

故に蓄えも存分ではなく、籠れて1週間と言うところだ。


・・・いや、その前に瓦解するかもしれん。

スパイは見つかっておらず、更に食料を焼かれたという話が早い速度で伝搬している。


「防御に回ったつもりが、攻勢に出なければ負けは必須・・・ですね」


「ああ」


「足の速い軍隊がここまで厄介だとは。

 あちら側の軍師はかなりの策士かと」


ラッカは顎に手を置き何かを考えている。


「だが、こちらも降伏するわけにはいかん。

 武人として最後まであいつらには徹底抗戦する」


「・・・ヨハン様」


不安そうな目でこちらを見てくるラッカ。


「大丈夫だラッカ。私が死んでも妻も息子も分かってくれるだろう。

 お前達の助命も、私の命次第で何とかなるだろう・・・な」


ヨハンはそう言うと意を決したように立ち上がった。


――――――――――――――――――――


「・・・」


八霧はじっと要塞を見ていた。

様々な魔法が放物線を描いて要塞へと衝突しているその状況をじっと。


俺はその横で事の次第を見守っていた。

既に敵は外に出る気は無いようで、攻勢の気配がほとんどしない。


「冒険者たちはうまくやってくれたみたいだね、既に脱出してるし。

 それにしても、あの司令官どう動くんだろう」


要塞から数名の兵士が逃げ出している。

あれは私兵に変装した冒険者達だ、任務を全うして脱出したのだろう。


「どう動く、か」


「この要塞がここまでの攻勢を受けるとは思ってなかったはずだよ。

 僕達はあっという間に包囲したし、備蓄も内部に入った人が燃やした。

 第一・・・この要塞は攻撃用の橋頭保のために作られているみたいだし」


「攻撃用か、つまり補給線を繋ぐための要塞・・・ってことか?」


「うん、籠る作りになっているとしたら、色々とお粗末だしね」


そう言うと八霧は要塞の全体を見た。

確かに、堀は浅いし外壁もそこまで厚くはない。

守ろうと思えば守りづらい場所にも立っている。


「でも魔法を防御するために術札を用意してるのはいい判断だね。

 あれが無ければ今頃陥落寸前だよ」


「それも敵方の指揮官の采配という奴だろう。

 どうする?一気に外壁を壊して勝負を決めるか?」


戦闘する最後の場所はここじゃない。

早期に決着をつけるのもまた被害を食い止める一つの方法だ。

それに食料を焼かれたという事実が広がっているとすれば、

突入するだけで降伏させることが出来る可能性はある。


「まだ早いよ」


八霧がそう言うと同時に城壁付近が急に騒がしくなり始める。

見れば、要塞の至る所から兵士が外へと飛び出していた。


「逃げる気か?」


「いや、あれは」


――――――――――――――――――――


囲まれた以上血路を開くには血を流す他ない。

そう考えたのは私だけではなかった。


「親衛隊一同、この命を賭してヨハン様に勝利を!」


私兵の中でも忠誠心を見せてくれる者たちはいる。

それが私の私設した精鋭部隊『豹の牙』だ。

彼らは自分自身を親衛隊と自負し、その命を掛けてこの決戦に臨もうとしてくれている。


「お前達」


「血路を開き、必ずしや補給線を開いて御覧に入れます」


「いい・・・そのようなことは」


私は頭を振り、血気はやる親衛隊員をなだめようとするが。


「このままではただ負けを待つだけです!」


「だからと貴様達を無駄死にさせていい訳ではない!」


死地に赴けというようなものだ。

一度要塞から足を出せば最後。

向こう側には死が待っている。


「・・・既に第一陣は城外に出ております」


「な・・・勝手な!何を!」


「このまま腐って死ぬよりは、一矢報いて死を!」


「馬鹿共が!」


私は走った。

要塞の周りが見えるバルコニーへと。


既に壁沿いギリギリの場所で戦闘は始まっていた。

この要塞には隠し小窓や隠し扉が点々と存在しており。

そこから兵士を投入、相手と交戦できるような構造になっている。


ただし敵からも侵入されるので見つかりにくく細工はしてあったのだが。

・・・どうやら、この交戦でばれたとみていいだろう。


「血気はやった結果が、要塞の陥落を早めましたね」


「言うな・・・どちらにせよ決死隊を結成するほかないとは思っていた」


籠城戦は元から時間の問題。

どちらにせよ打って出ようとは思っていたのだ。


「可能な限りの人材を集め、相手へと斬り込むぞ」


――――――――――――――――――――


「戦局の流れは、常に変わる・・・か。

 戦場は水と同じで常に同じ場所にあるはずが無いともいうけど」


八霧はそう呟きながら、返り討ちにあう敵兵の姿を見ていた。

士気は高く練度もその辺の私兵とは別格ではあったが。


そもそも戦争は個人で出来る行動、行為というものは少ない。

いくら強くとも複数人、それも訓練された兵士の前では無力に等しい。


「僕やトーマさん、セラエーノさんだったら無双も出来るかも知れないけど。

 同程度の練度同士の相手なら数が少ない方が不利だよね?」


「ああ」


その言葉に頷いて返す。

現に目の前では一方的な戦いになっているのだ。


重騎士達に果敢に挑む、赤い礼装を着た軽装備の兵士達。

親衛隊と言ったところか。

私兵に比べれば明らかに練度が違う動きをしている。


だが、その親衛隊ですら複数の重騎士の相手は無茶というもの。

それにあの重騎士の中身は傭兵騎士と聖堂騎士だ。

一方的になるのも頷けるだろう。


「軍師殿ぉ!敵将ヨハンが前線に!」


伝令が陣まで入ってくると、片膝を折って報告する。


「おいおい・・・」


早すぎる、最高指揮官がもう前線に出てきたのか?

そう思いながら八霧の顔を見ると。


「既に要塞内の士気は地に落ちていると見えるね。

 無謀な特攻、既に指揮官は勝利を捨てている・・・か」


「いかがいたしましょう、後方に控えている部隊を動かして欲しいと言っておりますが」


話によればヨハン率いる親衛隊の一部隊は鬼神の如き活躍をしているとの事。

何人かが討ち取られ、聖堂騎士でも指折りの剣士も重傷で後退している。


「手負いの獣程怖いものはない、か。

 このまま通常部隊をぶつけるのは得策じゃないな・・・トーマさん」


「ん?」


「任せられるかな?」


俺がやれと?


「八霧、俺は一応最高指揮官だぞ」


「最高指揮官同士で決着をつける、勝った側の士気は大いに上がるよ?

 それに・・・相手の指揮官には悪いけど、こちらに負ける要素なんて一つも無いし」


そう言って、八霧は人差し指だけを立てながら説明する。

買ってくれるのは嬉しいが果たして一将軍としての行動としては正しいのだろうか・・・。


「前に出る人に皆ついて行くものだよトーマさん。

 それに・・・実績を作っておかないと後々苦労するだろうしね」


「実績・・・ああ、そうだな」


それもそうだな。

実績は無いよりあった方がいい。


敵大将と戦い勝ったという事実は軍全体にとっても大きい功績になるだろうしな。

それで士気が上がるというのなら、戦おう。

読んで下さり、ありがとうございました。

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