表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/381

177話

ヨハンは貴族の中でも稀有な武人肌の人間。

故に他の貴族からは疎まれるとこも多く直属の部下以外の兵には煙たがられている。

現状にため息をつくことも多い、が。


武人として一度仕えたからには最後まで忠を尽くすという家の教えを守り今に至る。

たとえそれが・・・。


「リルフェア様かも知れない軍団に牙を剥くことになっても、か」


私が仕えるのは貴族はボーニャック家だ。

その家が西側に付いているのなら私の尽くす先も西側になる。

だが・・・。


「目の前の部隊はゼローム皇国そのものだ。

 それに私は牙を剥こうとしている」


一つ大きなため息をついた。

そして決意する。


「これが因果というのなら、私は身を破滅させてでも食い止めよう。

 最後まで武人として戦うのが私の家の誇りだ」


――――――――――――――――――――


要塞前面に部隊を配備した。

ずらりと並ぶ重武装の兵士と騎士達。


さっさと攻め込んだ方がいいと冒険者の何人かがせっついてはいたが。

何故かリルフェアが待機を命じてきたのだ。


「どうして止めるんですか?」


八霧はそう聞くと、リルフェアは要塞の上部を眺めた。


「あそこにいるのはヨハン・・・話の分かる人よ」


「ヨハン?・・・知り合いか?」


「西側貴族の中では屈指の武人、清廉潔白な人。

 話せばこちらについてくれるかも知れない」


リルフェアの言葉を聞いた八霧は複雑な顔をした。


「もし、リルフェアさんの評価通りなら戦う事になりそうだけど」


「え?」


「武人って言うからには・・・命令されたら戦うだろうし。

 それも、真面目なら真面目なほど」


それには俺も同感だ。

武人として優れているのなら裏切りもしない。

こちらに対して全力で攻勢に出てくるだろう。


「でも、話はさせて頂戴。もしも無理なら・・・任せるわ」


リルフェアはそう言うが、その顔は多少不安の色も混じっていた。


「・・・ああ、分かった」


話をしてみるだけしてみた方がいいだろう。

無益な争いは避けた方がいいに決まっているしな。


――――――――――――――――――――


要塞前にリルフェアが立つ。

その横には俺と八霧が立ち警備をする。

一応攻撃は全て俺の方に飛ぶようにスキルは使っているが。

不安なので、リルフェアにはセラエーノ特製のバリアを張れる指輪をして貰っている。


まあ・・・リルフェアの話す通りの男ならそんな姑息な真似はしないとは思うが。


「ヨハン、久しぶりね」


「・・・リルフェア様」


要塞上部のバルコニーから身を乗り出してリルフェアの事を確認するヨハン。

本物を見たからか、その目には多少の焦りが見えた。


「あなたほどの男なら、私が言わんとすることは分かるはず。

 その答えを聞かせて頂戴」


「それは・・・」


ヨハンは顔を伏せ、何かを思案するように目を瞑る。

しばらくし、意を決したように目を開くと。


「出来ませぬ、武人ゆえに主を裏切ることは」


「そう」


少し残念そうにリルフェアは顔を歪めた。

まあ・・・こうなることは元から―――


「!」


リルフェアの前に立ち、飛んできた無数の矢を盾ではたき落とした。

その射線を辿ると私兵たちが次の弓を引き絞っているのが見える。


「これが答えか、お前の言う武人っていうのは何なんだ?」


「それは、部下が―――」


ヨハンが言いかけると、第二射が射かけられた。


「八霧、下がるぞ」


「うん」


リルフェアを庇いながら陣の後方へと下がった。


――――――――――――――――――――


「交戦の決意は固い、か」


残念そうに息を吐くリルフェア。

その様子に周りにも多少困惑の色が見え始めた。


「いいわ、戦いましょう。

 あれが彼なりのけじめなら・・・私もそれに答えるわ」


リルフェアはそう言うと八霧と俺の顔を見た。


「落としなさい、この要塞を」


「ああ・・・わかった」


「最善を尽くすよ、出来るだけ被害を出さないように」


こうして、戦火の火蓋は切って落とされた。


まず初めに行われたのは睨み合い。

砦に籠る私兵とこちらの兵がある一定の距離を保ちながらお互いの様子を睨みあう。


そして誰が始めるでもなく。

兵士が番えた一本の矢が、戦いの合図となった。


この要塞の侵入口は2つ。

正門と正門よりも小さい裏門だ。

これは事前の調べて分かっており、俺達のいる場所は正門。

そして裏門には、セラエーノが率いる別動隊が攻撃を仕掛ける手はずだ。


――――――――――――――――――――


要塞の正面から攻めるのは愚策。

こちらの被害が増えるだけで、得られる戦果は少ない。

馬鹿正直にまっすぐ進めば弓矢によって矢玉にされるだろう。


だがそれは軽戦士や身を守る者を持たない兵士の場合だ。


「重装騎士を前に、大盾を構えながら死角まで進攻するんだ!」


八霧は馬上で軍配に似た棒を振りながら兵達に合図を送る。

その言葉を聞いた伝令が各部隊へと旗を振る。


目の前に並んでいた重武装の騎士隊が前へと歩いていく。


「・・・なあ、トーマさんよ」


「どうしたラクリア」


「どうやってあんな重武装、持ってきたんだよ?

 俺達は軽装で出立したはずだろ?」


確かにその通り。

電撃戦は足の速さが最も求められる。

故にアーマーや大型の武器は持ち込める猶予はない。

だが・・・俺達の場合は違う。


「何でも入る袋があるんだよ、それも重さの感じない便利なものがな?」


そう言って、腰に下げた道具袋を叩いた。


八霧の考えた策。

機動戦を展開するのなら一番の問題は物資の輸送だ。

武器もしかり防具もしかり。

食料だって問題の一つになる。

だが・・・その物資を無限に保管できる物があるのならそれは一気に解決する。


俺達の下げている道具袋は何でも入る。

量も、大きさも関係なく。

つまりその特性を利用して俺達は電撃戦を仕掛けたのだった。


唯一の欠点があるとすれば取り出すのに時間が掛かることくらいだが。

物があるという事実はそれ以上の効果を生んでくれていた。


「?」


道具袋を不思議そうに眺めるラクリア。


「まぁいいか・・・勝てるのなら何でもいいさ」


楽天家で助かる。

説明しろと言われたら色々と面倒だったところだ。


号令を受けた重騎士達が相手方の要塞前面まで迫る。

放たれる矢は全て大型の盾に防がれ、折れるかそのまま地面へと転がった。


初めの方は要塞の門前に余裕の顔をして構えていた兵士たちも次第に焦り始める。

やがて一人が逃げるように要塞へと入ると、それを見た兵士が次々と要塞に退避し始めた。


「戦わずに総崩れ、か」


八霧がそう呟くと同時に、要塞の観音開きの大扉が閉ざされた。


「籠城か」


「無駄だけどね」


八霧は軍配を上に掲げると2度回転させた。

すると、陣の後方に構えていた魔法部隊の詠唱が聞こえてくる。


「一か所に固まってくれて、逆にやりやすくなったよ」


軍配を振り下ろすと同時に、多種多様な魔法が放物線を描きながら要塞へと向かっていった。


読んで下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ