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175話

オリビアとセニアが人質を乗せた馬車を捕まえていてくれたので色々と手間が省けた。

本来なら追撃部隊を編成して明日には追い付いている計算にはなっていたけど。

その手間が省けたので、色々と助かってしまった。


「おお、ラナ!」


「あなた!」


再会を喜び抱き合う夫婦。

その横では、娘が無事に帰ってきたのを見て膝を崩し泣いている老人もいた。


「・・・悪いな、軍師殿」


「ん?」


振り向くとノッカが嫁らしき人物に抱きつかれながら、ばつが悪そうに頭を掻いていた。

良かった、そっちも無事だったみたいだ。


「あんなこと言っちまって、あんたのお陰で村は助かったよ」


「礼ならリルフェア様に。

 僕は命令されてここまで来ただけだから」


「・・・でも礼は言わせてくれ。ありがとう」


そう言われると、照れくさくなる。

こちらもばつが悪くなって目線を逸らした。


「軍師殿、先ほど敵の伝令を放ちました」


「え?ああ・・・ありがとう」


先ほどまで捕えていた伝令は無傷のまま返した。

後は彼が、情報を届けてくれればこちらの思惑通りになる。

全面的な戦争の幕開けに。


――――――――――――――――――――


それから数日後、西側と僕達の動きはほとんど無かった。

そろそろ、伝令が僕らの事を報告に行ってるはずだけど。


戦争において宣戦布告という行為は非常に重要なもの。

それだけで戦争終了後の処理も変わってくる程に影響力がある。


だから僕達は真正面から喧嘩を売って戦い、潰す。

戦力比があるからと姑息な手段で殲滅するようなら国民からの支持を得られないだろう。

それに力が健在だということを示して、

隣国のバルクとヘルザードの侵攻を抑えるという別の目的もある。


「王道・・・か」


僕の考えを聞いていたトーマさんは複雑な表情を見せていた。


「確かに正々堂々、真正面から相手を倒せばそれだけの行為として支持は得られる。

 リルフェアとアルフォンによる王政復興もすんなりと行くだろう」


「逆に戦力差を考えれば無謀で、勝ち目が無いように見える・・・かな?」


「・・・まあな」


一般的に見ればそうだろう。

戦力差だけで言えば数倍以上、10倍近い戦力比が付いている。

通常なら絶望的とも言えよう・・・補給線もこちらが貧弱だ。


「一枚岩じゃない軍隊は脆いよ、トーマさん」


「利権で動く貴族の部隊は貧弱だとでもいうのか八霧?

 戦争ってもんはそう甘いもんじゃないと思うんだが」


「時世はこちらに有利に動いている、ほら」


トーマさんに、僕はとっておきの情報を見せた。

この書類は・・・少し前に手に入れたもので国を動かすほどの報告書だった。


その書類に目を通すトーマさん。


「おいおい・・・こいつは」


「どう?少ない部隊でもなんとかなると思わない?」


その書類に書かれていたのは。

東側貴族の血判状と、リルフェアに忠誠を尽くし命を捧げるという誓いだった。


――――――――――――――――――――


村を救った戦いは戦力が大きく劣るこちら側の圧勝で終わった。

しかも非正規軍に近い冒険者を中心とした部隊。

この情報自体が、東側の貴族に光の速さで伝搬していったらしい。


「中立を貫いていた奴らがこちらにつくと言い出したか」


多少心に引っかかる部分がある。

仲間になってくれたことは嬉しいが・・・傍観を選んだ奴らだ。


「まあ・・・トーマさんの気持ちは分かるよ?

 でも自分の兵士を無茶な戦場に立たせたくないというのは誰しも考えることだし、

 こんな状況じゃ下手に動けないって考える部分も大きいと思うよ?」


「それは分かってる、が・・・な」


それでもリルフェアの事を考えるのなら早めに動いて欲しかったものだ。


「今回の戦いで東側の勢力図は完全に出来上がったとみていいよ。

 僕達の集めた兵力を合わせて、西側と十分に決戦できる数になったはず」


「決戦?短期間で戦争を済ませる気か?」


意外な言葉だ、じっくりと事を構えるとばかり思っていた。


「長引いても何もいいことはないよ?それに」


八霧は何処からか地図を取り出した。

その地図には大量の丸印が書かれており、大雑把だが矢印も引かれていた。


「相手の防衛が整う前に、電撃戦を仕掛けたいからね」


「電撃・・・?」


えーと・・・あれだよな。

素早く攻撃を仕掛け相手の陣地を迅速に奪っていく戦法、或いは戦術だ。

機動力の高い部隊で相手の防衛システムが完全に機能する前に制圧していく。

確かそんな感じだったはず。


「こっちもかなり無理をする事になるけど、うまく行けば首都まで侵攻できる」


「そうなれば貴族の中心部を叩くことになり、勝敗は決するか」


確かに、そこまで攻め入れば戦争は終結したに近いだろう。

西側の首脳部、つまり大貴族達は首都に集まっていると情報も入っている。

彼らを拿捕できればこちらの勝利ひいては内乱の終結となる。


「八霧、お前の頭の中では既に勝ちが見えてるのか?」


「どうだろうね。実際行動をしてみないと分からないし、現実はそう甘くない。

 でも・・・うん、勝ちは頭の中にあるよ」


そう言いながら八霧は自身の頭をコツコツと叩いた。

そうか・・・それは頼もしい限りだ。


「だけど気になることも多いよ。

 ヘルザード帝国かバルク国が必ず横槍を入れてくるだろうし」


「ああ、そうだな」


西側の代表者がヘルザードとバルク両方に連絡を取った事は情報として入っていた。

それに、俺がに気になるのはバルクのあの・・・ティアマの偽物だ。


(・・・そう言えば、俺の事を知っている風だったな。

 おっさんと呼ばれたし、態度も)


誰なんだあいつは。

少なくとも、こちらの世界での知り合いではないはずだが。

災竜とはいったい何者なんだ。


「それにトーマさんの話が本当なら、災竜には生物を強化する能力がある。

 もしそれを僕たちの戦いで使われたら・・・厄介だね」


厄介か・・・。

確かにそうだ、ゼロームとヘルザードの決戦ではそれが完全な勝因になっていた。

それを俺達に対して使われれば、楽に勝てはしないだろう。


「それもあって、相手の準備が整う前に大勢を決めてしまおうと思うんだ」


「なるほど、それ故の電撃戦か」


ヘルザードとバルクの援軍、援護が届く前に決着をつけるという事か。

例え電撃戦が中途半端で終わったとしても、

成果次第ではこちらが有利のまま戦争が継続することになる。


「だが八霧。電撃戦は言わば補給をおろそかにしながら強行する戦法だぞ?

 ・・・補給線の確保は出来るんだろうな?」


「もちろん、考えがあるからこそ話しているんだよ?」


そう言うと八霧はある事を俺に話した。


・・・・・・・・。

なるほどそれなら最前線でも大丈夫だな。

孤立したとしても補給を受けることが可能だ、人員さえ適切なら。


「俺達の出番って事だな」


「うん、セラエーノさんも神威もそれにエリサも。

 みんなの力を借りて、この電撃戦を成功させようと思うんだ」


「いい案だ。だが、エリサはお前の手元に置いておけ。

 普通の兵士やそこそこの冒険者には負けない実力は持っているがな・・・」


そうだとしても俺達の中では一番弱い。

無茶はさせられない、そう思ったのだが。


「トーマさん!私だって戦うよ!」


「うお!?」


八霧の部屋で話していたのだが、その扉の向こうから声が響いた。

そしてその声の主はエリサ本人だろう。


開け放たれた扉の先にはエリサが立っていた。


「私もずっと守ってばかりじゃいられない。

 それに、八霧君の役に立ちたいの」


「あ、えっと、うん・・・ありがと、エリサ」


顔を赤くしながら、八霧は俯いていた。


「無理する必要はないんだぞ、エリサ。

 確かに八霧が考えた作戦を実行するのなら、俺達は一人でも多い方がいいが」


「私だって、仲間なんだから。

 指をくわえて見ているだけなんて嫌なの。

 だから・・・何か手伝わせて」


・・・。

エリサも仲間だ、それは間違いない。

その仲間が手伝いたいと強く願っているのだ。


「分かった、エリサ。

 お前も戦列に加える、だが」


「だが?」


「無理はするなよ、危険と判断したらすぐに下がるんだ」


「う、うん、分かってるよトーマさん」


そう言ってエリサは頷いた。

・・・一応、護衛を付けておくか。

神威辺りに頼んで強力なドールを付けてもらおう。



読んで下さり、ありがとうございました。

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