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174話

村に攻め入った私兵たちは、もぬけの殻の村に騒然としていた。

人影一つもないその村に兵士たちは何かの奇妙さを感じながら探索していた。。


「冒険者がいたのではないのか?」


「は・・・確かに報告ではそう聞きましたが」


村には火の一つも見えず、暗闇が広がり。

耳を澄ませても聞こえるのはこちらの立てる音ばかりだ。


「これでは、何も―――」


どうするかと指揮官が悩んだ時。

遥か後方から爆発音が響いた。

かなり遠い場所らしく、音が聞こえてから地面が振動していた。


「なんだ!?」


「あっちは本隊の方向ですが・・・」


よく見れば、火の手が上がり始め煙も見える。


「奇襲か・・・!?反転しろ!本隊を援護に行くぞ!」


馬の手綱を引き、方向を転換しようとするが。

転換を終えると同時に村とその周りを隔てる柵に火の手が回り始めた。

それは一瞬の事で、気づいた時には村は火で囲まれていた。


「な・・・!?」


反転と聞いて先を急ごうと柵に触れていた兵士たちの身体が燃える。


「ええい!!奇襲だ、全員構えろぉ!!」


――――――――――――――――――――


こちらの被害を減らし、相手の戦力に出来得る限りの打撃を与える事が軍師の役目。

故に、相手の戦力の分散、各個撃破はもちろん。

罠に捕らえて殲滅する方法を考えるのも軍師の役目だ。


「綺麗にかかりましたね、八霧殿」


「そうだね・・・自分たちは圧倒的、負けはしない。

 相手は軍という集団でこっちは村人に毛が生えた程度の戦力だって考えたんだからね」


「しかし違った・・・と?」


「油断大敵、そういうことだね」


僕達は燃え盛る柵を外から眺めながら内部にいる彼らを見ていた。


今頃洞窟の方も火計を行っている事だろう。

洞窟内に逃げ込まれると厄介だから、入口を塞いでおく計略を仕掛けたけど。

ついでに分断したらどうだとラクリアさんに言われたのでそれを取り入れた。


(・・・冒険者のために、か)


冒険者は名声があればあるほどいい。

つまり、この場で活躍してリルフェアさんに顔を覚えて貰えれば。

冒険者として大成できるチャンスになるとラクリアさんは言っていた。


・・・まあ、こちらとしてはやる気を出してもらえるのならそれに越したことはないけど。

ただ怪我をしていないかが心配だな。

彼らも大事な戦力の一部なんだから。


「しかし軍師殿、これでは我々も攻撃が出来ないんじゃ?」


隣にいた冒険者にそう言われ、僕はその考えを一度中断した。

そして答える。


「大丈夫、彼らには・・・自滅してもらうから」


柵には特殊な細工を施しており。

それ以上燃え広がらないように柵だけ燃えるように弄っていた。

だが、それだと中は炙れない。


なら、檻に入った獣同士に争わせればいい。

そう思いながら、懐から紫色のポーション瓶を取り出す。


「それは、先ほど渡されたものですな?」


「うん」


これが彼らを壊滅させる糸口になる。

ポーション瓶を掴み、そのまま燃え盛る柵を越えるように瓶を中へと投げ入れた。

その先には一人の兵士が立っていた。


――――――――――――――――――――


「わぷっ」


情けない声を上げながら、ポーション瓶の直撃を食らう兵士。

瓶が割れ、内部の液体が彼の鎧を濡らす。


「なんだこりゃ・・・こいつは」


ベタベタとするそれ。

油ではなく、多少いい香りのするそれは。

嗅いでいる内に変な気分になってきそうな―――


「へ、へへへ・・・!」


奇声とも笑い声とも取れる声を漏らし、その兵士は剣を引き抜いた。

その目は血走りまるで獲物を探すようにギロギロと周りを睨みつけている。


「どうした?」


心配した隣の兵士がその兵士の肩を叩くと。

肩を叩いていたはずの腕が、空中に舞っていた。


「なぁ・・・!?」


腕を斬り飛ばされ、狼狽する兵士。

振った剣に付いた血を舐めながら、ポーションを浴びた兵士は次の獲物を見据えていた。


さっき投げたのは、狂乱剤入りのポーションだ。

浴びた者は見境なく攻撃を仕掛ける。

所謂暴走状態になる。


更にそのポーションには身体能力を底上げする能力を付加している。

要は・・・誰も止められない暴走した兵士が中で暴れる状態になる。


「八霧殿、作戦成功と言ったところですか」


彼らの襲撃直前に、僕らは既に柵の外へと避難していた。

村人達には姿が一時的に消えるポーションを飲ませて堂々と外に逃がしておいた。


つまり、あの燃え盛る柵の中には彼らしかいないのだ。


「悪趣味な光景だぜ・・・まったく」


冒険者の一人がそう呟く。

目の前では味方同士で殺し合う私兵の姿が映る。

暴走した兵士から逃げようとして浴びせ斬りで斬られる者。

外に逃げようとして柵を越えようとするが、火で炙られて地面にのたうつ者。

果敢にも挑むが、首を刎ねられる者。


「・・・この光景は覚えておかないと」


間接的とは言え、僕が全員を殺したに近い。

味方を勝利に導くための犠牲と割り切る、しかないか。


――――――――――――――――――――


たった5人の暴走した兵士に壊滅した部隊。

ポーションの効果での能力の底上げは思った以上に強力だったようだ。

最後は残った暴走した兵士同士で斬り合い、自滅した。


「・・・」


終わる頃には柵を燃やす炎は消え始め。

辺りには暗闇と静寂が包み始めた。


「損害は?」


「ラクリアの部下が何人か怪我を負ったくらいだ。

 対する相手方は逃げた兵士を含めても9割程の兵士を失ってる」


「伝令は?」


「捕まえておいたが・・・何をさせる気なんだ軍師殿?

 生け捕りで捕まえろとだけ聞いただけなんだが・・・?」


「彼には、重要な役割を持ってもらうんだよ」


ある考えを胸に、僕はその伝令の捕まっている場所へ向かった。


縄で縛られ、地面に転がされている伝令。

傷はほとんどなく、抵抗せずに降伏したように見える。

なるほど・・・これは事が簡単に行きそうだ。


「やあ、伝令さん」


「!」


地面を見ていた視線がこちらに向いた。

体勢を整え、縛られた身体の上半身を起こす伝令。


「こ、殺さないでくれ」


「殺しはしないさ。抵抗しない者を殺すほど下衆じゃない」


一人の冒険者が伝令に近づくと、彼の身体を掴んで強引に起き上がらせた。


「だけど、人質の安否次第では君を殺すことになるかもね」


「ひ、人質?」


「村から奪った女性、何処にいるのかな?」


そう言うと、伝令は焦ったような顔をした。


「な、え、あ・・・いや、その」


しどろもどろになり、要領を得ない言葉を放つ。

・・・まさか、既に手を掛けたとは言わないよね。


「おい、何処にやったんだ。

 まさか殺したんじゃないだろうな!?」


伝令を掴んでいた冒険者がそう言って彼の体を揺する。


「違う!その・・・既に我々の雇い主の献上品として馬車に」


「は?」


――――――――――――――――――――


複数の女性を乗せた馬車は、既に村を遠く離れていた。

護衛は最小限で、あくまで女性を運ぶためだけに必要な人員を乗せていただけ。


「ご子息のエルモンド様もお喜びになるだろうな」


「色欲の塊のような方だからな・・・」


夜に差し掛かっていたが、急いでいることもあり馬車を止めずに走っていた。

だが。


「!」


急に見えた人影に、馬車の手綱を強引に引いて馬を止めようとする。

ギリギリその人影の前で馬車は止まったが。


「おい!危ないだろうが!!」


人影に向かってそう叫ぶが。

意に返さないように、こちらに近づいてきた。


「な・・・?」


その人影が明かりで照らされると、その顔と身体がはっきりと見えた。


「メイド、なのか?いやいや、何でこんな時間に」


「そちらこそ、夜中だというのにその急ぎよう。

 何か良からぬ物でも運んでいるのではないですか?」


「良からぬものだと!?言いがかりを・・・!」


いきり立った男達が彼女らを囲む様に布陣する。

次の瞬間には彼らの身体は・・・地面に叩き伏せられていた。

読んで下さり、ありがとうございました。

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