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171話

村長宅に集まっていた全員の目線が扉に向いた。

この時間は集会をすると村民には言っていたので来るはずが無い。

来るとすれば・・・攻め入ってきたという緊急の報告か、或いは。


屈強な体つきの村人が扉の傍の壁に背を付け、扉の様子を探る。

他の村人も同様に警戒しながら扉の先の人物の反応を待っている。


「ええと、誰かいませんか?」


もう一度ノック音が響く。


「・・・おい、村長。若い男の声だぞ?」


少年の声のように若い。

村に住む人間の声では無いことは確かだ。

聞いた事もない声であり、それにこの村には若者は少ない。


「開けてくれ、ノッカ」


「へいへい」


ノッカと呼ばれた屈強な男が扉に手を伸ばすとそのまま鍵を開けた。

その扉の先には、冒険者らしき男達と一人の少年が立っていた。


「救援って、冒険者かよ・・・おい」


――――――――――――――――――――


「まあまあ、ノッカ。

 救援を送ってもらえただけ有難いではないか」


村長宅に上げてもらい、その場で話し出した僕達。


「そう言って貰えると助かります」


僕はそう言うと、深く頭を一つ下げた。


村の様子は思ったよりもひどい。

私兵が攻め入るまでの時間を稼ぐために渡せるものは全て渡していたようだ。

・・・残っている物の方が少ない状況のようだ。


「来るのが遅いんだよ!何やってやがった!!」


ノッカと呼ばれた男が僕の胸ぐらを掴む。

力任せにそのまま身体が宙ぶらりんになる。


「八霧殿!」


護衛として連れてきていた冒険者たちが剣を引き抜こうと構える。


「駄目だよ、村人に武器を向けるのは」


そう言いながら、僕は手でその行いを制止した。

ノックさんの目を見ながら、僕は言葉を続ける。


「遅れた事は謝ります。

 しかし、こちらにも事情があって」


「その事情とやらのせいで、俺の嫁まで奴らに渡したんだぞ・・・!」


ギリギリ、と首を締め付けてくる。

苦しくは無いが彼の無念さはそれで伝わってきた。


「いい加減にせんかノッカ!」


「だが、村長!」


「彼らとて無駄に時間が掛かったわけでは無かろうに。

 それに状況や事情というものは誰にでもある。

 ・・・わしらとて、な?」


「・・・っち」


ノッカは舌打ちをすると、僕を放して不機嫌そうに村長の隣まで歩いていった。


「八霧殿、ご無事で?」


「大丈夫だよ、それより。

 時間も無いからお互いの情報を共有したほうがいい」


そう言うと村長は頷いた。

・・・さて、どうなるかな。


――――――――――――――――――――


村に冒険者の集団が入ったという情報は私兵たちにも通達されていた。

村から離れた場所に陣幕を張っていた私兵のリーダーはその報告を聞いていた。

すると、途中から報告を遮るように口を開いた。


「それが何なんだ?冒険者は冒険者、村は村だろ?」


「しかし、襲うとなれば冒険者も反撃してきますよ?

 ここは出て行くのを待ってからでも遅くないのでは?」


ローブ姿の男がそう言う。

このローブ姿の男は、この軍団の軍師の一人。

冷静で慎重だが、行動が遅いとよく言われる人物だった。


「だからお前は駄目なんだ、フィー。

 よく考えてみろ、冒険者ごと始末すれば彼らの武器や防具も頂ける。

 得ではないか?」


「・・・罪のない村人を襲い、たまたま通りかかった冒険者からも略奪すると?」


「言葉に気を付けろよフィー。

 三等軍師であるお前が俺に意見するつもりか?」


リーダーは不機嫌な顔を隠そうともせずにそう言いのける。

だが、フィーと呼ばれた軍師も毅然とした態度で。


「軍師だからこそ、指摘をするのです。

 私は―――」


「ええい、下等市民出身の分際で貴族の俺に指図するとは!

 身の程を弁えろと言っているのが分からないのか!?」


怒鳴り散らすように叫ぶリーダー。

フィーは唇をかみしめながら俯いていた。


「もうよい、貴様は本国に帰れ。

 そのような弱腰の男など不要だ」


「・・・」


そう言われたフィーは、陣幕を後にした。


一人野営地に戻り、自分のテントに入っていったフィー。

寝袋の上に横になる。


「部隊は冷静さが必要だ、特に理を逸する行いをした時は」


今現在がそうだ。

力無い村人から物を奪い、命まで奪おうとしているのだ。


元々、反抗的な村を調べるためにここまで来ていた。

軍隊として来たのは、圧力を掛けるという狙いがあったからだ。

だが・・・実際はその戦力を使って略奪を行った。

訓練というのも名目だけだ。


「まるでただの悪党、盗賊じゃないか」


――――――――――――――――――――


朝方、村にて。

八霧主導で村のあちこちに罠が仕掛けられていた。

村の郊外にも色々と仕掛けていたがその仕掛けを行っていた冒険者たちが、

先ほど帰ってきた。


「おかえり、どうかな?」


「言われた通り、火を付ければ作動するようにしておいたが」


「・・・一体何が起こるんだ?」


彼らは指定された場所に油をしみこませた縄を目立たないように仕掛けてきただけ。

ただそれだけのことなのだが。


「分断された兵力程脆いものはないよ。

 特に、指揮官が無能ならこれだけで壊滅する可能性もある」


「?」


続きは戦いが始まれば分かると言う八霧。

手に持った村の地図を見ると、罠の総仕上げに入っていた。


朝日が完全に上がる頃には村は罠だらけの様相を見せていた。

巧妙に隠されたトラップが至る所に仕掛けてある。


村人は全員一番頑丈な家、村長の家に避難させた。

今家々にいるのは冒険者達だ。


「そろそろ来るかな?」


「ですな」


双眼鏡を覗いていた八霧がそう呟くと、隣にいた補佐の冒険者も頷いて返す。

彼らが野営していた場所に動きが見えたのだった。


「八霧殿、本当に大丈夫なのか?」


唯一残った村人である村長は、僕らと一緒にいた。

ある作戦のために、彼の力が必要だったからだ。


「ええ、手筈通りにお願いします」


「う、うむ」


村長の手には、大きな袋が二つ握られていた。

中身は金塊、錬金術で作った紛い物の金だが。

見た目は本物の金塊にしか見えない。


「それを次に彼らが来た時に渡して欲しい。

 ・・・さっき教えた言葉と一緒に」


「あ、ああ・・・だが、そんな事をして何になるのじゃ?」


「僕の考えが正しければ、その言葉の数時間後には彼らは罠にかかるはず。

 こっちが誘わなくてもね」


手に握る金塊の入った袋を見る村長。

その顔は多少怪訝そうだった。


村長宅を後にして、宿代わりに用意して貰った古い一軒家に入る。


兵士として連れてきた冒険者たちは、

私兵に感づかれないように村の離れで野営している。

僕らは村で待機することになりそうだ。


「八霧殿、何も村長に渡させなくてもよかったのでは?」


「?」


一軒家に入るなり冒険者の一人がそう言ってきた。


「何もせずとも彼らは村に攻めいるはず。

 それを待った方がいいのでは?」


「そうだね、それも一つの手だよ。

 だけど、何の価値もないあんな屑金塊で相手を引っ張り出せるなら、

 得だと思わない?」


「得・・・ですか。しかし、あの金塊、そこそこの価値があると思うのですが」


・・・あんな屑と同じ金塊、そこら辺の石でいくらでも作れる。

それで彼らをおびき出せるのなら安いものだ。


それに、想像通りなら今日中にも決着がつく。

分断され、更に各個撃破される軍隊ほど脆いものは無いからね。


読んで下さり、ありがとうございました。

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