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167話

本当の意味での軍団の総大将はリルフェアだ。

実際の指揮権はその下に付いている誰かに付随させるというところまでは予想していたが。


「・・・だからってなぁ、こうなるとは」


俺は頭を掻く。

一度引き受けたとはいえ、流石に気が重い。


何より全員が俺を信じてくれるかが問題だ。

聖堂騎士達はともかく、傭兵騎士や冒険者がどう俺を見るか・・・。


――――――――――――――――――――


総大将に任命されたので、顔見せの為にも彼らを外に集めた。

ずらりと見えるだけでも1000人以上が俺の行動をつぶさに観察していた。

その目線は・・・。


「トーマさん?」


「あまり歓迎ムードではないな」


好意的な目、というわけではない。

どちらかと言うと訝し気だ。

そりゃそうだろう、聖堂騎士からすれば俺の事は理解しているし知っているが。

目の前の彼らはそうではない、傍目から見ればパッと出た奴が総大将に任命されたに近い。


そう思っていると、冒険者の数名がこちらに歩いてくる。

見るからにガラが悪い奴らだ、装備も蛮族と言っても差し支えない。


「おう、あんたが竜騎士様か」


「良い体してんな、だが・・・強いのかは関係ないよなぁ?」


野太い声が辺りに響く。

これは、力試しをする事になりそうだ。


そう直感した・・・それと同時にそれは現実になった。


――――――――――――――――――――


昼下がりの午後。


私は姉と共に紅茶を飲んでいた。

ゆったりとした時間なんて、久しぶり。

そう思い、ふと目線を外に向けると。

武装した男達と、見慣れた男性が向かい合って構えていた。


「何やってるの、あれ」


「腕試しでしょ?血気盛んね」


姉は興味無さそうにそう言う。

・・・腕試しか。

そう聞いて自分の手を見る。


力も戻りつつある。

そろそろ、私も試してみてもいいかもしれない。


そう思いながら彼らの動向を見守る。

・・・と言っても、勝負なんて一瞬だった。


大男が近づいてくる男達を片っ端から薙ぎ払っていく。

盾で殴り、得物を奪ってその柄で殴り、投げ飛ばしたりもして。

あっという間にのされていった。


「・・・使い物になると思う?あの戦士たち」


姉が傍に控えていたシスとフィナに尋ねる。

シスとフィナはお互いの顔を見ると。


「鍛えれば」


「そこそこ」


「・・・鍛えればね」


姉が苦笑する。

その、外の様子を見ていた私は身体を動かしたくなってきた。


「私も、身体を動かしてくるわ」


「ティアマ?」


「魔力も戻りつつあるし、私も戦えるかどうか試してみたいの」


「貴方・・・いえ、役に立ちたい気持ちは分かるけど。

 無理をする必要はないわよ、役に立ちたいからって無理する方が・・・」


邪魔になる、とでも言いたかったのだろう。

だけど私は。

力がある存在なのだ、それに罪滅ぼしの為にも戦っていたい。


「お姉ちゃん、私は・・・力があるの。

 だから役に立たせて」


「ティアマ・・・」


姉は少し横に首を振ると。

私を見てこういった。


「分かったわ、だけど無理は駄目。

 私の前で肉親が死ぬ姿だけは見せないで」


「・・・ええ」


私はその言葉に頷くと、外に出た。

どれだけ自分の魔力が回復しているか、それを試すために。


――――――――――――――――――――


「うへぇ・・・いってぇなぁ」


男達が地面に寝転んでいる。

手加減したので怪我はしてないはずだが。


「これでいいか?」


「あ、ああ十分だぜ。

 あんた、強いな・・・こっちは10人がかりだってのに」


「即席で編成した10人なんて、バラバラに動くに決まってるだろ。

 お前達が連携をするようなら俺だって苦戦したかもな?」


「・・・それは無ぇよ、連携したってアンタには勝てないだろうさ。

 戦った俺達が言うんだから正しいだろ?」


寝転がっていた男達が立ち上がり始めた。


「こんだけ強いなら異論はねえ。

 あんたに命掛けるぜ」


「ああ、やってくれよ大将」


男達はそう言って笑った。

親指を上に突き立ててニカっと笑う者もいた。

・・・まあ、少しは信頼して貰えたようだ。


それから少し経ち。

各々のグループの視察兼顔見せを済ませた。

先ほどの騒ぎを見ていたお陰か、割とすんなりと受け入れて貰えた。


ほっとしながら、最後の顔見せを済ませて戻ろうとした、その直後の事だ。


「?」


魔法使い達が集まっている方面で物音が響いた。

爆発音や、魔法を詠唱する声が小さく聞こえてくる。


「なんだろう」


八霧がそちらをじっと見る。

俺もそれにつられて目線の先を見ると。


一人のローブ姿の男が吹っ飛んできた。

そして、目の前の地面に転がった。

土煙を上げながら、ゴロゴロと足元まで転がってくる。


「・・・何があったの?」


「う、ぐぐ・・・いや、ティアマ殿がな」


「ティアマが?」


テントが途中で立っているのでそれが障害物になって見えないが。

あの先で何かが起きているのだろうか?


「いや、久しぶりに身体を動かすからと我々と模擬戦を所望して」


腰をさすりながら、ローブ姿の男が立ち上がる。

怪我はないようで苦笑しながら事の経緯を話してくれていた。


「それで、吹っ飛ばされたと?」


「流石はリルフェア様の妹・・・凡人では勝てなさそうだ」


力が戻りつつあるのか?

・・・味方としては頼もしいが、な。

あまり無理して欲しくないという気持ちもある。


そう思っているとまた一人吹っ飛んできた。

目の前のテントを巻き込みながら、こちらに身体が吹っ飛んできた。

ぶつかったテントが崩れその先が見えるようになる。


テントが崩れて砂煙が立った先には、杖を片手に優雅に立つティアマがいた。

紫色の魔力を纏い、複数の冒険者+傭兵騎士の魔法使いと睨みあっていた。

確か、紫色の魔力は・・・。


目の前で小型の爆発が数度起こると、

ティアマと睨みあっていた集団が吹き飛んだ。

手加減はしているようで、吹っ飛んだ奴らは気絶しているだけのようだ。


ああ・・・そうだ、紫色の魔力は破壊系の魔法が得意だったはずだ。

EOSでの知識はこちらでも正しいようだな・・・うむ。


「あら、トーマ」


こちらに気づいたティアマは、出していた魔力を空中へと霧散させた。

同時に構えていた杖をその場に突き刺した。


「結構派手にやったね・・・」


壊れたテントを見て八霧がそう言った。


「あ、ご、ごめんなさい。夢中で気づかなかったわ」


「ああ、うん、いいよ。

 何も入ってなかったし撤去するつもりだったから」


「元々何が入ってたんだ?」


「物資だよ、整理前の」


なるほどな。

乱雑に物資を置くわけにもいかないし納得だ。


「でも、最近の冒険者達はだらしないわね。

 私だって本調子じゃないのに、大丈夫なの?」


「・・・一応、ティアマさんは強力な魔法使いだって自分で認識してる?」


「え?ええ、でも全力じゃないわよ?」


「・・・」


八霧の顔が曇る。

そして俺を見てきた。

・・・ああ、いいたいことは分かる。

強い奴ほど、自分の強さを推し量りづらい。


本調子じゃないティアマでも並大抵の冒険者や傭兵では太刀打ちできない。

それが分かったのはいい事だが。

・・・当人自身、自分がどれだけ強い魔法使いなのかは理解できていないようだ。


「少なくとも、自分が強い魔法使いだとは理解してると思うけど」


「どれだけ強いのかは、把握できていないって所か・・・」


自分よりも強い相手とほとんど戦った事が無いのだろう。

力量を測る機会が少なければそれだけ自身の力がどれだけなのか分からないものだ。

・・・俺達がこの世界に来たばかりの頃のように。


「それで、身体を動かしてみてどうだ?」


「ええ・・・やっぱり本調子じゃないけど。

 少なくとも、戦える身体であることは確認できた、と言うところかしら?」


それは心強い一言だ。

今後は戦力として換算できるという訳か。


まあ・・・リルフェアの妹という立場もあるから、

下手に最前線には出しづらいが。

それでも、やる気があるのはこちらとしても助かる。


現状、使える戦力はどんなものでも使いたいからな。



読んで下さり、ありがとうございました。

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