表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/381

164話

ティアマの語った言葉。

災竜に操られて、バルクを建国した事。


自身の意志を操作され、復讐心を増大させられ。

そして、迷惑を掛けてしまった事。

語る度に涙目になりながらも、ティアマはぽつぽつと語っていった。


「・・・そう」


分かった。

ティアマは悪くはない・・・とは一概に言えないけど。

彼女が傷ついている事は、容易に分かってしまった。


「ごめん、なさいお姉ちゃん」


俯きながら、そう呟くティアマ。


「・・・ホントよね、まったく」


溜息を一つ吐いて、私はティアマを見た。

本当に・・・もう。


「ごめん、なさい」


「操られていたとはいえあなたの罪は消えないわ。

 今後もそれについて償っていく必要もある、その気があるならね」


「ええ、もちろん。償えるのなら何でもするわ」


そういうティアマの目は少し赤く腫れぼったくもなっていた。


「でもそのことで一人で抱え込む必要もない、謝る気があるなら、私は助けるわ。

 ・・・姉ですもの、あなたのね?」


そう言って、私は笑った。

今目の前にいるのは・・・たった一人の妹なのだ。


父も母もいない今、血の繋がった娘を除けば唯一の家族。

どんなことが過去にあったとしても、それだけは変わらない。


家族は助け合うものだ、何があったとしても。


「お姉、ちゃん」


ティアマは俯いて、ボロボロと涙を溢し始めた。


「ありがとう」


目からは涙を溢しながら、ティアマは微笑んだ。

・・・過去はいくらでも精算できる、その気があるのなら。


後はティアマ次第だ。

私は・・・その手助けをするだけの事。


――――――――――――――――――――


リルフェアとティアマが和解していた頃。

バルク国首都では、軍備増強が続いていた。


玉座に座るティアマの皮を被った災竜はふんぞり返っていたが。


「・・・っち」


舌打ちをする災竜ギルファード。

元の身体から作り出した肉体のせいか、本体と若干の感覚が供用される。

そして、その感覚から姉と合流したことが分かった。


「力を吸い過ぎて追跡が出来なくなるとはな・・・誤算だったぜ。

 その力も回復しつつあるし、面倒だな」


あの時確実に止めを刺していれば。


今やバルクは俺の物になったが、それだけでは満足できない。

リルフェアかラティリーズを手に入れて、俺の身体の封印を解かなければ。


「あの、ティアマ様」


隣に立っていたセーラが俺に声を掛けてくる。

・・・なんだ、めんどくさいな。


「何?」


「・・・そろそろ、大貴族のアスモン様がいらっしゃいますので。

 ご準備をされてはいかがでしょうか?」


ああ、そうだったな。

まあいいや、適当に準備して相手をしておくか。


「わかった、用意して来るわ」


そう言って、俺は私室へと入っていった。


・・・。


「・・・やはり、ティアマ様ではないか」


そう呟いたセーラの声は災竜には聞こえていなかった。


呟いた本人のセーラは、偽物だと確信したティアマにばれない様に、

ゆっくりとその場を離れて行った。


「本当のティアマ様なら、アスモンという名前を聞いただけで顔をしかめたはず。

 ・・・やはり偽物、紛い物か」


アスモンは大貴族でありながら、ティアマ様を自分の女にしようとしている男だ。

強欲で独尊、だが精強な軍隊を持っているため政治への介入力は強い。

その横柄さから、ティアマ様は毛嫌いをしていたのだが。


「だが、偽物だと分かってどうするというのだ・・・」


たかが護衛の一人である私に出来る事は少ない。

・・・だが、私はティアマ様に忠誠を誓った身。

()()()に忠を尽くす気はこれっぽっちも無い。


ならば、本物のティアマ様の為に。

あの紛い物を止める手立てを考えなければ。


――――――――――――――――――――


「・・・しかし、八霧」


「ん?」


菓子を食べながら、八霧は何かの書類に目を通していた。

口に食べかすが付いてるぞ・・・。


「久しぶりだが、再会を喜んでもいられない状況だなぁ・・・」


「そうだね、うん」


目の前には大量の書類の山。

冒険者や傭兵騎士を軍隊として編入するための許可や委任状が積まれていた。

他にも細かい奴が多々あり、それが大量の書類の山となっていた。

比喩じゃないぞ、山そのものだ。


「今日中に終わる量・・・か?」


「でも、終わらせれば正式に軍隊として稼働できるからね」


「・・・そうか」


横目で隣にいる神威とエリサ、セラエーノを見る。

現在いる古参勢全員と、ドールメイド達。

それと事務方に強そうな聖堂騎士とその従者達が総出で書類整理を行っている。


「これだけの量になるって事は、法律の整備が不十分だからだね。

 一つの契約にしたって複数の書類が必要になるし」


「徴発、という形で強引に軍隊に出来ないのか?」


「それをしたら後々面倒になるし問題にもなるよ?

 なら、最初から正規の軍隊として編成した方がいいよ」


「・・・」


しかし、国が真っ二つになっている状況だというのに、

法律という問題が前に立ちふさがるのだから、因果なものだ。

国としての体を為していない状況に近いというのに・・・な。


「八霧、一ついいか?」


「?」


俺をじっと見る八霧。


「今の状況で法律を順守する必要があるのか?

 内乱が起きてこちらは亡命政府に近い状態だろ?」


追い出されたのはこちら、というのが周りの常識の状態になっているだろう。

なら元の法律を順守して行動する必要はないと思うのだが。

臨時政府として、新たな法律を作ってしまった方が早いんじゃないか?


「まあ、そうなんだけどね。

 でもこちらが正統なゼロームの後継者であると言い張る為には、

 法律を簡単に変えるのはどうかと思うんだ」


「・・・なるほど、法律も国の一部か」


法律は国の基盤の一つだ。

それをおいそれと変えるわけにはいかない、か。


「だけど・・・この書類に関してはある程度見直した方がいいね。

 今回は総出で片付けるけど、これが終わって落ち着いたら本格的に弄った方がいい」


「だな」


それには同意だ。

・・・これだけの人数掛けて、一日で終わるかどうかも怪しいんだからな。


――――――――――――――――――――


夜も更けて。


事務処理関係の仕事なんか久しぶりだった。

社会人になってからというものの、現場一本で働いていたからな。


「ふぅ・・・」


朝方に見た書類は7割程片付いていた。

周りの状況は死屍累々、セラエーノに至ってはぐったりして船を漕いでいる。


「はい、トーマさん」


「おぅ」


八霧から手渡された栄養剤のようなものを受け取った。

少し体を伸ばして、次の書類に手を付けた。


「・・・ほとんどの人、寝ちゃったね」


「夜も遅いからな・・・っと」


俺にもたれ掛かって寝ていたシスとフィナ。

ずり落ちそうになったので身体の位置を調整した。


「はは・・・あ、そう言えば神威は?」


「風呂に入るとか言ってたぞ、流石に疲れている様子だったが」


あれで結構体力がある方だ。

その神威もさすがに疲れているようだな・・・。


机の上の蝋燭を見る。

既に交換されて5本目だ。

一本当たり一時間と考えても、そろそろ深夜に近い時間帯。

流石にギブアップの連中も増えてきた。


「せめて、オリビアとセニアがいてくれればもっと早かったんだけど」


「偵察中だろ?仕方ないさ」


八霧は俺に声を掛けながら、机に突っ伏して寝ているエリサに毛布を掛けていた。


「八霧も先に寝ていいぞ、どうせ今日中には終わらなさそうだからな」


「明日に引っ張らないように、ある程度までは頑張るよ」


「そうか」


残業はまだ終わらなさそうだった。


読んで下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ