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157話

明朝。

アルフォンの様子を見に行き調子が良さそうなのを確認した。

これなら今からでも移動が出来るな。


早速馬車を手配し、2台の馬車が宿の前まで走ってくる。

御者は前と一緒、片方の御者はラクリア達が雇った御者らしい。


「では、行くか」


アルフォンが馬車に足を掛けて乗り込んでいく。

しかし、行商人の服が板についてるな。

じろじろ見られない限りはばれなさそうだ。


アルフォンの次にリーゼニアが乗り、ティアマ、俺と乗っていく。

後ろの馬車にはラクリア、ライ、キーナ。

そしてルアとその妹が乗り込んだ。


「では、アーセ村でよろしいですね?」


「ああ」


俺がそう返すと、御者は頷いて馬車を発進させた。


宿を後にして数時間。

道は舗装された道から畦道に変わりつつあった。


「近道通りますんで、揺れますよ!」


ガタガタと音を立てながら前進する馬車。


「うぉぉぉ!?」


アルフォンが長椅子から転げ落ちそうになるが、何とか辛抱した。


「は、ははは・・・なるほど、まだこの国にも舗装が終わっていない道路があるのか」


「当たり前ですよ、父上。

 全部を全部舗装したら、国家予算じゃ足りないくらい掛かりますよ?」


「う、うむ」


歯切れ悪くそう答えるアルフォン。

・・・やっぱり、リーゼニアの方がしっかりしてるな。

アルフォンも悪い国王ではないが、な。


しばらく馬車が揺れると、急に馬車が止まった。

すると御者は辺りを見渡し。


「・・・風が吹いてきたな」


そう呟いていた。

風?


「天候が悪くなる前触れですよ、少々急ぎますよ!」


急に馬車が加速し、山道を突き進んでいった。


夕方近くになり、夕日が赤く辺りを照らす頃。

御者が言ったように、雲行きが徐々に怪しくなってきていた。

馬車は既に山道を越え平坦な道にまで進んでおり、

目の前には、草むらが広がっていた。


「うぷ・・・さすがに、揺れがきつかったな」


吐きそうになっているアルフォン。

リーゼニアはそのアルフォンの背中をさすっていた。

確かに舗装されていない山道をあの速度で走ったのだ。

揺れは酷いし、何度か馬車が飛び跳ねることもあった。


「御者、今どのへんだ?」


「アーセ村まであと少しですよ。

 と言っても数日かかりますが」


「数日?」


1週間程度かかると思っていたのだが。

・・・なるほど、御者の言う近道というのは本当に近道だったようだ。


「現地人しか知らない近道なんで、揺れもひどいですし迷いやすいんです。

 それに、今回は天候が崩れそうだったんで急いだんですが」


気持ち悪そうにうつむいているアルフォンを申し訳なさそうに見る。


「酔いやすい人には、申し訳なかったですね」


「いや・・・大丈夫。

 し、しかし御者殿、雨が降る前にどこかに馬車を止めた方が・・・?」


「そうですね」


とはいうが、近くに村などは見えない。

夕方を過ぎていることを考えると、

ここいらでテントでも張って野宿したほうがいいが。

・・・天気が悪いなら、それも考え物だな。


「大丈夫ですよ、近くに避難用の洞窟があるんで」


「避難用?」


「ええ、行商人の間じゃ休憩に使う場所ですよ」


――――――――――――――――――――


しばらく馬車が走ると、夕日が完全に沈んでしまった。

馬車に備え付けられているカンテラの明かりだけが辺りを照らしている。


「もう少しですからね」


御者はそう言うが、それらしき場所は暗闇に覆われて見えない。

・・・迷ってないよな?

さすがに無いか、この周辺の地理には明るそうだし。


「流石に暗いわね、本も読めないわ」


ティアマはそう呟くと、手のひらに小さな光の玉を出現させた

淡い光だが、周りを照らす温かい光がその球を中心に放たれていた。


「初級の魔法だけど、こういう時は便利よね」


そう言いながら、眼鏡を掛けたティアマは本を読みだした。


「・・・ティアマさん、本当にあなたはあのバルクの国王なんですよね?」


「ええ」


本からは目線を外さず、リーゼニアのその問いに答える。


「未だに信じられないわ、直接会うのは今回が初めてじゃないけど。

 ・・・それでも、前にあった時のような黒いものが見えないの」


「前に説明した通り、ティアマは操られていた。

 そう言って納得したんじゃないのか?」


俺がそう言うと、リーゼニアは頷き。


「前見た人が次に会ってガラリを変わっていたら誰だって驚くでしょ?

 そりゃ、今のティアマさんを信じないかと言われれば、信じるけど」


「あら、ありがとう」


目線をリーゼニアに向けると、ティアマは微笑んだ。

少しうれしそうだな。


「うむ・・・だが、ティアマ殿。

 バルクを乗っ取られているのだろう?

 ・・・その、偽物とやらに」


「厄介よね、見た目は完全に私なんだから。

 今戻っても私が偽物扱いだろうし」


本を閉じると、ため息を一つつくティアマ。

確かに今のティアマの立場はかなり悪い。

下手をすればその場で殺されかねない状況だな。


「ゼロームを攻撃するか、可能性はあるのか?」


多少、緊張しながらアルフォンはそう聞く。

ティアマは考えるようなそぶりを見せると。


「半々、と言うところね。

 ヘルザードが本気でゼロームを攻撃するのなら便乗して侵攻するでしょう。

 それまでは様子見・・・或いは」


「あ、或いは?」


「お姉ちゃんか、私を狙って刺客を差し向ける可能性はある、かもね」


少なくとも、大規模な軍事行動は見せないはずだ。

ヘルザードが動くまでは。

バルクは外面から見れば盛況な軍隊をそろえているように見えるが。

実情、まとまりが希薄で一部の精鋭を覗けば烏合の衆。


張子の虎で戦争を仕掛けるほど災竜は頭が悪いとは思えないし、

ヘルザードの軍事行動と足並みを合わせて行動するはずだ。


もしくは、ゼロームの内乱勃発を期に仕掛ける可能性もある。

どちらにせよ、後手に回って行動するはずだ。


「今の所は動かないから大丈夫よ。

 ・・・予想通りならね」


そう言いながら、ティアマは再び本に目を落とした。

アルフォンは多少の不安が残る顔をしつつ、馬車の窓に目線を移した。


「し、しかし暗いな。

 本当にこの周りには集落も何もないのか」


「ええ、ここら一帯は開発が進んでないんですよ。

 これといった産業も無いですし、鉱山も無い。

 あるとすれば良質な薬草ぐらいですが、それも他で取れますしね」


「ううむ・・・こんな空白地帯があったとは」


殆どを王城で過ごすアルフォンは、そう言う事には疎そうだ。

・・・隣に座るリーゼニアは詳しそうだが。


「リーゼニア、位置的にアーセ村は近いのか?」


「遠くは無いわ、山道は越えたしもうすぐって感じかしら?」


なるほど。

俺の場合は首都からアーセ村へは一度しか通っていない。

この辺の地理もあまり詳しくない、リーゼニアがいてくれて助かるな。


「ああ、ありましたお客さん。

 ほら、あの洞窟ですよ」


暗闇を指差す御者。

目を凝らすと、確かにそこには大きな岩場があった。

そして、その下にはくりぬかれたような大穴が空いていた。


馬車を停車させると、御者は大穴の中央部にある篝火の後のような場所に火を入れ始めた。

・・・ここで一泊することになりそうだな。



読んで下さり、ありがとうございました。

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