156話
ラクリア達に話を通し、国王であるアルフォンにも会って貰うことにした。
最初は戸惑いつつも、ラクリア達は理解してくれたようだ。
「話がかなりデカくなったな、おい」
そう言いながら、ラクリアは苦笑していた。
確かにデカい話だ。
王族を奪還して、リルフェアの元に連れて行こうというのだからな。
「ライ、お前はどう思うよ?」
「話を聞いた以上、無視は出来ない。
いいじゃないか道中楽しくなりそうだ」
そう言いながら、ライは不敵に笑っている。
「はぁー・・・そうかい。
じゃあ、俺も腹を括るよ」
そう言うと、ラクリアは小さくため息をついた。
するとパッと表情が明るくなる。
「よし、吹っ切った。
トーマさん、それで計画はどうなってんだ?」
「え、あ、ああ・・・」
切り替えの早い奴だな。
まあ、ポジティブと言えばそうなのだろうが。
「二人を連れて、アーセ村に行こうと思っている」
「へぇ・・・ここからだと馬車で数日の距離か」
確かに、ラクリアの言う通りそのくらいかかるだろう。
他に移動手段が無い・・・って、待てよ。
ある事を思い出す。
そうだ、移動手段は他にもあるじゃないか。
道具袋に手を突っ込み、あるものを取り出す。
転移石だ、こいつがあった。
アーセ村にはいった事もあるし、これで一瞬で移動できるはず。
「・・・トーマ、それ何?」
「転移石だ、言った事のある場所なら一瞬で移動できる」
後は、握って砕くだけ。
グッと手に力を籠めた時だ。
「待って、トーマ」
「ん?」
「それ、魔法で転移するのよね?」
「魔法・・・か、どうだろうか」
確かに、転移石の説明文には魔法の力を記述があった気がするが。
それがどうしたというのだろうか。
「いい、貴族は私達の事を探しているはず。
つまり、魔法の痕跡も調べている可能性が高いの。
いえ・・・それ以前に転移妨害の魔法を仕掛けているかも」
「妨害?そんなことが出来るのか?」
俺がそう聞き返すと、ティアマは手に握った転移石に触れてきた。
「・・・ちょっと待って」
目を瞑り集中しているティアマ。
「やっぱり、妨害されてるわ。
使えはするだろうけど、何処に飛ばされるか・・・」
分からない、か。
厄介だな、それだと敵のど真ん中に吹っ飛ばされても可笑しくないって事か。
更に使えばこちらの位置がばれる、非常にまずい状態になるか。
「使わない方がいいか?」
「ええ・・・出来れば」
最終手段、くらいには考えておくか。
追い詰められた時の最後の手段、くらいには使えるだろう。
――――――――――――――――――――
その日の夜。
次の朝には出立する予定で、荷物を整理していた。
アルフォンの調子も良さそうだったし、特に問題は無いはずだ。
ちなみにラクリア達のうち男は俺の部屋に。
先ほどの魔法使いの子とルア達はティアマの部屋に泊めることにした。
宿の主人にも事前に話を通しておいたので問題は無い。
「しかし、広い部屋だな。
俺ら二人が泊ってもまだ余裕があるじゃないか」
ラクリアはそう言いながら、ベッドの用意を始めていた。
この部屋、元々一人用というよりは複数人で使用することが前提だったらしく、
ベッド自体は3つあった。
「高級宿の一等部屋だ、当たり前だろう?」
ライがラクリアに対してそう返す。
「まあ、お陰で野宿せずに済んだんだから万々歳だけどな」
そう言いながら、ラクリアはベッドに転がった。
勢いが良かったため埃が多少立つ。
「・・・ところでトーマ殿。
明日出立するとの話だったが、早朝に立つのか?」
「そのつもりだ。アルフォンもリーゼニアも変装はしてくれているが。
それがいつばれるかも分からないし、出来れば人の目は避けたいからな」
見る人間が増えるという事はそれだけばれる確率が高くなるというもの。
気づいた人間がこちらの味方をしてくれるとも限らないからな。
「では、早めに寝た方がいいか」
「ああ、そうだな」
明日は早くなる。
――――――――――――――――――――
その頃、ティアマの部屋。
ルアは用意された自分のベッドに先に妹を寝かせていた。
疲れていたようで、横になるなりすぐに寝息を立て始めた。
「大分疲れてたようね?」
ティアマがそう聞くと、ルアは妹の頭を撫でながら言葉を返す。
「はい、色々あったので」
「そうね色々あり過ぎて私も疲れたわ・・・本当に」
魔法使いの女性、キーナはそう呟きながらベッドに腰かけていた。
彼女の顔にも疲れの色が見える。
「特に、こんな場所で王族に会うとは思わなかったわよ」
「あら、それは私の事かしら?」
「・・・それもあるけど、アルフォン様とリーゼニア様に会うとは思わなかったから。
自国の王様よ?会う機会なんて滅多にないんだから」
「それを言えば、私に会う機会の方が無いと思うんだけど?」
自身を指差してティアマはそう言う。
「そう言われればそうね」
そう言いながら、苦笑するキーナ。
「あの、ティアマさん」
「何?」
「そ、その。バルク国はいいんですか?
女王であるあなたがここにいたら、その」
まずいのではないか、とルアは聞きたいのだろう。
しかしティアマはその言葉に微笑んで返す。
「大丈夫よ、私もバルクの為にここにいるんだから」
「?」
首を傾げるルア。
「バルクを取り戻す為に。
いいえ、バルクとゼロームの未来の為にも、お姉ちゃんに会わないといけない」
「お姉ちゃん・・・あ、リルフェア様ですね」
そう言いながら、ルアは自分の妹を見た。
そのルアの様子を優しい目で見るティアマ。
「姉妹仲良くしないといけないわよ、ルア」
「え?」
「一度でも、敵対すると次に会うのが怖くなるの。
私も、お姉ちゃんに会うのがとても怖いわ」
過去にしたことは未だに頭の中に記憶している。
それが操られていたとしても、行為を行ったのは自分自身なのだ。
もう一度あった時に、突き放されはしないだろうか。
拒絶されて話も聞いて貰えないだろうか。
そう思うと、多少気が重くなる。
「だから、いつまでも仲良くね?
血を分けた唯一の姉妹なんだから」
「は、はい・・・それはもちろんです」
戸惑いながらも、ルアはそう返す。
「・・・って、ちょっと待って。
もしかして、ゼロームとバルクが和解するって話になるの?」
話を横で聞いていたキーナが急にそう声を上げる。
確かに隣国の女王がこんな形でゼロームの代表者でもあるリルフェアに、
会いに行こうとしている。
そう思われてもおかしくは無いだろう。
「そうね、一般的に見ればそれが一番近い形になるかも知れないわ」
「うわ・・・これは、とんでもない現場に立ち会っちゃったかも。
歴史に名が残る様な大きな出来事じゃない!」
そう言いながらも、キーナの目は輝いていた。
「こんな場に立ち会えるなんて、冒険者もやってみるものね」
「・・・普通なら、少しは怖気づくものだと思うけど?」
「歴史を作る人が目の前にいるの、興奮しない方がおかしいわ!」
そう言いながら、キーナはふんすと鼻で息を鳴らした。
「あ、ああ・・・そうなの」
流石のティアマも戸惑い気味にそう返していた。
「明日も早いわ、今日はもう寝ましょう?」
「はい」
「ええ」
それぞれ、自分のベッドに横になる3人。
ティアマが近くのランプの灯を消すと、部屋は真っ暗になった。
(・・・明日には動く、お姉ちゃんに会うのが近づく。
緊張してきたわね、ちょっとだけど)
ティアマはそう思いながら目を瞑った。
読んで下さり、ありがとうございました。