155話
泊まる場所がない、そう困っていたら。
目の前に知り合いが現れた。
「トーマさん?」
「ルアじゃないか」
鎧姿ではなく、軽装の布の服を着ている男性。
格好は違うが顔は間違いなくトーマさんだ。
「トーマ?トーマって・・・おお!あんたか!」
「ん?お前は・・・ああ、ラクリアか、久しぶりだな」
知り合いそうな感じで二人は話し出した。
・・・あ、えっと。
確かラクリアさんは御前試合出場者だよね?
「いやー、こんな所で優勝者に会うとはね。
世間は狭いって言うか、偶然は怖いな」
「優勝・・・彼が?」
ライさんがラクリアさんとトーマさんを交互に見る。
「御前試合の優勝者か?」
「ああ、一応そうだな」
「・・・なるほど」
ライさんが中腰になる。
背中に背負った剣に手を掛けると。
「腕試しを願う」
「おいおい、こんな往来でか?」
呆れたようにトーマさんはそう返した。
「武者修行の旅に出ている、強者とは是非とも戦いたい」
「・・・そうかい」
めんどくさそうに、トーマさんは頭を掻いていた。
その様子を見て、ラクリアさんは申し訳なさそうに頭を下げていた。
「悪い、いい奴なんだけど・・・こんな感じの奴でさ」
「血の気が多いともいえるが―――」
ヒュン、とライさんの剣がトーマさんに向かう。
って、え?
向かっていったその切っ先は、トーマさんの指二本で止められていた。
「おい、いきなり何だ?」
「ふ・・・やはり優勝者だな、隙は無いか」
指二本で止められた剣を動かそうとライさんは力を籠めるが。
ピクリとも動かない。
「な、何をやってるんですかあなたたちは!」
歩いていた商人の一人がそう叫ぶ。
それはそうだ、往来で片方の男が剣を抜いて斬りかかっているのだ。
「・・・騒ぎになるな、ここは剣を収めてくれ」
「ああ、済まなかった」
ライさんはそう言うと剣を収めた。
・・・いきなり斬りかかるなんて、何と言うか。
とんでもない人と一緒に旅をしていたんだなと思う。
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やれやれ、外を散歩していたら知り合いに会うは斬りかかられるわ。
色々あって結局そいつらを泊まっている場所まで案内した。
「広いな、おい!」
「・・・他の客もいるから大声は無しだぞ」
「ああ、悪い」
ラクリアはそう言って謝った。
「それで、泊まる場所が無くて歩き回ってたのか?」
「ああ、参るよな・・・まったく」
歩きながら彼らの状況を聞いたのだが。
泊まる場所が見つからずにうろうろしていたとの事だ。
「なあ、トーマさんよ。
図々しいとは思うんだが」
「一緒に泊めてくれ、か?」
何となくだが、そう言われるとは思っていた。
話の流れ的にも。
「・・・ああ、頼む!」
そう言って、ラクリアは手を合わせて頭を下げた。
・・・。
頼まれて無碍にするのも可哀そうか。
「少し待ってろ、宿の主人と・・・もう一人の仲間と相談してくる」
「ああ」
――――――――――――――――――――
状況が状況だ。
上の階には国王アルフォンとリーゼニアがいる。
ラクリアは信頼してもいい男だとは思うが、仲間もそうとは限らないだろう。
・・・とはいえ、味方になってくれるなら有難い部分もある。
一人や二人で出来ないことも、複数になれば出来る事もあるからな。
「・・・なるほど、それで彼らをどうするかって話?」
「ああ」
「そうねぇ」
うーんと唸るティアマ。
「いいんじゃないかしら?悪い人達ではないんでしょ?」
「見た感じはな」
いきなり斬りかかられたが、話して見ると普通の男だった。
性格に難あり、という訳ではなさそうだった。
「事情を話して味方につければいいじゃない。
当てもない旅の途中なんでしょ?」
「そう聞いたが、巻き込むわけにもいかないだろ?」
「話してから判断してみれば?」
・・・そうだな、一応話を通してみるか。
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「・・・」
「・・・」
「・・・おいおい」
話を通そうとラクリア達を待たせている部屋に戻ってきたのだが。
・・・当の本人、リーゼニアが部屋にいた。
「マジかよ、リーゼニア様?」
「ええ」
頷いているリーゼニア。
ラクリアは驚いた表情を戻しながら、落ち着こうと息を吸っていた。
「誰かが王城から連れ去ったって騒ぎになってたけど。
・・・えっと、まさかあのトーマさんが?」
誘拐犯、と言いかけたが。
それを遮るように、ライが口を開く。
「助けた、ということですか?」
「え、ええ・・・そうなるわ、助けてもらったの」
「なるほど」
納得するように頷くライ。
「あのー・・・いまいち理解が出来ないんですけど」
ラクリアはそう言うと、頭を掻いていた。
その様子を呆れたように見るライ。
「察しが悪いな、貴族の魔の手からリーゼニア様を助けた。
そういうことではないのか?」
「ああ、なるほどな」
ポンと、手を打つラクリア。
「とにかく、助けてもらって、今はリルフェア様とラティリーズ様を探しているの。
貴方達も二人が行方不明な事は知ってるわよね?」
「まあ・・・噂程度には」
カテドラル襲撃以来、行方不明。
死体も見つかっていないし、消息不明というのが今の噂だ。
「アーセ村にいるとの情報が入っているの。
だから、今私たちはアーセ村に行く途中で」
「なるほど、ここにいる理由は分かりました。
・・・しかし、リーゼニア様とトーマの二人で旅を?
他に護衛はいないのですか?」
「ライ、あの美人さんも忘れるなよ」
「?」
ライがラクリアを見る。
見られたラクリアは手で仕草を取り。
「長い髪の綺麗な女の人がいただろ?」
「・・・彼女は、その」
どういっていいかと、リーゼニアは悩んでいた。
・・・俺も立ち聞きしてないで、話に混ざった方がよさそうだな。
そう思い、部屋に入ろうとすると。
「あら?」
俺より先に、ティアマが部屋に入っいった。
「おお、噂をすれば美人さん」
「?」
何のことかとラクリアを見ているティアマ。
「って、ちょっと待てよ。
この美人さん・・・どっかで見た事があるぞ」
そう言って、ラクリアは腕を組んで唸る。
「・・・すこし、リルフェア様に似ているわね」
「リルフェア様に?いや、しかし」
ライがティアマの顔をじっと見る。
そして、有ることに気づいた。
「リルフェア様には妹がいた・・・が、その人はバルクの国王。
こんな所にいるはずが無いだろう」
「でも、リーゼニア様もいる位だし・・・もしかしたら」
「ええ、私がそのバルクの女王、ティアマよ?」
ティアマがそう言うと、場が凍り付いた。
信じられない、と言う顔で3人の目線がティアマに向かう。
「え、ええ!?」
「・・・やれやれ、リーゼニアといいティアマといい。
少しは素性を隠そうとしてくれ・・・」
この先の冒険、先が思いやられる・・・。
読んで下さり、ありがとうございました。