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153話

少し時間があることが分かったので、情報を仕入れておくことにした。

正確にはアーセ村に関しての情報を集めようと考えたのだが。


露店が並ぶ場所から外れた広場で、タバコのようなものを吸う商人の一団がいた。

しかし、こっちでもタバコはあるんだな・・・俺も昔吸っていたが。

多少煙いその場に向かっていく。


「ん?」


キセルのような長い管でタバコを吸う太り気味の商人がにこやかにこちらを見る。


「あなたは商人ではないようだが・・・そうだな、一本どうかね?」


「いや、遠慮しておく・・・ヤニは止めたんでな」


「ヤニ?まあ、いいか。

 それで、私達に何か用ですかな?」


差し出そうとしたタバコをしまうと、商人はそう聞き返してきた。


「ああ、実はな」


アーセ村に関して何か知らないかと尋ねてみた。

商人たちはその言葉を聞くと何か考える仕草を見せた。


「アーセ村ですか、田舎だと聞きますけど」


やせ形の商人がそう言う。


「名産は野菜、穀物ですな。

 意外に安く仕入れられるので助かりますがな」


小柄な商人がそう言う。


「ほほぅ、それは興味深い」


「今度、馴染みの農家を教えますよ」


「それは助かりますな」


・・・そういう話は後にして欲しいが。

まあ、今この場で言うのも無粋だろう。

聞いてるのはこっちだしな。


「・・・何か噂みたいなものを聞いたりしてないか?

 例えば、変なものが現れたとか」


「変?そうですなぁ・・・うーむ」


やせ形の男がタバコを一服吸うと、煙を吐き出して唸る。


「おお、そうだそうだ、皆さん。

 こんな話を聞きましたか?」


「なんです?」


小柄な商人がある噂を話し始める。

その話によると。


アーセ村周辺に何かが現れて、その周りに珍しい魔物が現れ始めている。

それを狙った冒険者やハンターが集まり始めていると。


「初めて聞く話だな、それは」


「眉唾な部分も多いんですがね、実際アーセ村に結構な数の冒険者が向かっているとか」


なるほど、アーセ村に何かあったのは確からしいな。

前に行った時は、珍しい魔物なんてクイーンゴブリンのクロン位だった。

そう言えばクロンは元気だろうか?


「これは、ビジネスチャンスがあるかも知れませんな」


「うむ」


「だが、それだけでは我々も動けませんからなぁ・・・」


うんうんと、3人で頷く商人たち。

まあ・・・こちらも情報が得られた、感謝だな。


――――――――――――――――――――


アーセ村に何かあるのは確実として。

今はアルフォンとリーゼニアを守るべきだろう。


宿に帰る際に辺りを確認するが、追手の気配は無い。

怪しい人物も見えないし、今の所は大丈夫だな。


「戻ったのね、トーマ」


宿のロビーには紅茶を飲むティアマがいた。

その様子を見ると、リルフェアの妹なんだと思う。

容姿もそうだが、所々に見える動きに似ている部分があるのだ。


「?」


「あ、悪いな・・・ロビーにいるとは思わなくてな」


じっと見ていた非礼を詫びてそう言った。

ティアマはその言葉を聞くと少し口角を上げて微笑んだ。


「悪いかしら?」


「悪くはないが、表に出るようなタイプに見えなくてな」


引きこもり、というわけではないが。

普段は自室に籠っていそうな感じを受けた。

故に、ロビーにいたことに驚いたんだが。


「部屋に籠ると滅入るからね、たまには人の行き来でも見たいと思っただけよ」


そう言うと、ティアマは窓から外を眺めた。

数人の商人たちが重そうな荷物を背負って歩いていく。

それとすれ違うように冒険者たちが馬鹿話を大声でしながら過ぎ去っていく。

なるほど、色々な人間が行きかっていてこれはこれで面白いな。


「・・・貴族が諸手を上げて政府を支配すれば、この光景も一変するのかしら」


「さあな、だが」


それもあり得るだろう。

国のトップが全く違う思想を持つ人物に変わる。

それは、国の有り様が一変する可能性もあるという事だ。


「元のゼロームがいい国かどうか、それは俺にも分からんが。

 卑怯な策を使って国を乗っ取った奴を野放しには出来ないな」


危うい状態で3国状態が続いていたゼローム、ヘルザード、バルク。

その3つが今では、混戦、泥沼の戦争を広げようとしている。


「お前の姉さんの為にも、この状況を何とかしないとな?」


「・・・ええ、そうね」


テーブルの上の紅茶を飲み干し、ティアマは立ち上がった。


「戻りましょうか」


――――――――――――――――――――


「はぁ・・・はぁ・・・」


「お姉ちゃん・・・?」


ルアとその妹は追われていた。

冒険者としての仕事をこなし、貴族の館から帰ろうとした途中。

何者かに襲われ、あわや袈裟斬りで深手を負うところだった。


偶然、いや幸運にもその一撃はトーマから貰ったと砥石に当たり弾かれた。

胸ポケット近くにしまい込んでいたのが幸いした。


首都の表道、裏道を交互に走り、どんどん郊外へと向かっていく。

後ろを何度も振り向き、追手を確認する。


「あ・・・!」


目の前を通り過ぎようとする馬車を見つけた。

咄嗟に妹の手を強く握り、残る手で馬車の後ろにある取っ手にしがみついた。


ぐん、と身体が引っ張られる感覚で全身に痛みが走る。

だが・・・それが功を奏した。


馬車に強引に乗り込んだことで、追って来ていた男達の身体が小さくなっていく。

悔しそうに、唾を吐く姿が見て取れた。


「お姉ちゃん?」


「だい、じょうぶ・・・うん」


馬車はそのまま走っていく。

でも、これってただ乗り状態・・・だよね?


――――――――――――――――――――


案の定、と言うか。

御者も急に走った振動を不審に思って、

馬車が畦道を超えたあたりで止めて確認を始めた。


逃げる事も出来たが、追手から逃げられたという安堵感から力が抜けてしまっていた。

一歩もその場から離れられなかったのだ。


「困るんだよね、無賃乗車」


人の良さそうな御者がそう呟く。

乗っていた冒険者らしき男達も顔を出してこちらを見てきている。


「ふむ・・・女、しかも妹?を連れてか」


「同業者みたいだけど」


「そうね」


一人はガタイの良いいかにも戦士という男。

もう一人は腰に双剣を下げた優男。

そして最後の一人は魔法使いの女性に見える。


「御者さん何か曰くありげだし、話くらい聞きましょう?」


「しかしですね、お客さん。

 無賃乗車は犯罪ですから」


「なら、俺が彼女たちの分も払おう。

 それなら問題はないよな?」


「ですがね・・・あ、いや、そうですな。

 問題事はこちらも願い下げなんで」


そう言うと御者は男から何枚かの銅貨を受け取っていた。


「・・・いつまで突っ立っているんだ、さっさと乗れ」


「え、あの」


「話位聞かせてよ、お金払った分は面白い話・・・期待するわよ?」


魔法使いの女性は茶化すようにそう言った。


「あ・・・はい」


場に流されるように、ルアと妹は馬車の中へと乗り込んでいった。


読んで下さり、ありがとうございました。

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