151話
強盗行為はゼロームにとって重罪。
人の生き死にに関わらず、厳罰が下されることが多い。
部下を置いて逃げたバンドックは更に重罪を課せられることになる。
捕まり次第処刑もあり得るだろう。
・・・その前に、賞金首として狙われるかもしれないけど。
そう思いながら、八霧はアーセ村へと向かう馬車の横で並走していた。
シスとフィナが何かを見つけて向かっていったのを見送り、
その後に続くように後を追えば・・・誰かが襲われている最中だった。
話を聞けば、その人はフォークス卿の夫人。
・・・大貴族の妻という事だった。
「襲撃のせいで、到着予定が大分狂いました。
先ほどガイゼン卿に伝令を飛ばしましたので」
「ええ、あっちにも迷惑を掛けるわね」
その言葉に頷いて返すフレイア。
「八霧君、だったかしら?この度はお世話になったわ」
馬車から顔を覗かせてフレイアはそう言った。
八霧はそのフレイアの顔を見ると。
「僕は何も、シスとフィナの活躍ですよ」
「それでも、あなたの部下に助けられたのだから。
あなたにお礼を言って当然、そうでしょ?」
そう言いながらフレイアは微笑む。
・・・なるほど、人となりは何となくわかった。
優しい人みたいだ。
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アーセ村とコンドアの街を結ぶ街道の途中。
そこに、骨のように痩せた・・・いや、骨が歩いていた。
ボロボロのローブを纏ったその姿。
ブロギンその人だった。
「日光がきついのぉ・・・まったく」
そう愚痴りながら忌々し気に太陽を見る。
スケルトンは日光に弱い、そんなことはないのだが。
さすがに歳を重ねるとその強い日光が忌々し気に感じられる。
街道だというのに、人気は少なく。
歩くにはいい日和なのだが。
人を探しての旅なので、そんな呑気に事を構えている余裕も無かった。
「まったく、何処に行ったんじゃ八霧。
研究成果をほっぽりだすとは」
そう言うと、懐から瓶を取り出す。
青白く光るそれは、八霧とブロギンが共同で作ったもの。
その成果が時間をかけて現れたので、ブロギンは報告にカテドラルにいったが。
しかし、その時には既に襲撃された後だった。
元々隠居に近い状態でブロギンは森の中の研究所に籠っていた。
そのため、襲撃の噂も聞いてはいなかった。
「噂だとこの辺に拠点が飛んできたと聞いたんじゃが」
コンドアの街を経由して、アーセ村へと向かう最中であった。
丁度アーセ村が眼前に迫るまで、ブロギンは歩いていた。
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病み術士は嫌われ者というイメージが強い。
しかしブロギンに関しては、例外な部分が多い。
彼は諸国行脚し、その知名度も多少なりとも高い。
そのため全国に友人や知人がいるし、
その人柄で嫌われることは少ない。
アーセ村もまた、訪ねた事がある場所であった。
「おお、久しぶりですな、ブロギン殿」
「また太ったのか、ギルド長」
冒険者ギルドに顔を出すと、ギルド長が出迎えてくれた。
以前あった時よりも丸くなっている、確実に太ったな。
「ははは・・・まあ、現役を退けば誰でも太りますよ」
「わしは太らんが?」
「そりゃ、骨だけですから」
「違いない、はっはっは」
そう言って笑うブロギン。
「あら、ブロギンさんいらっしゃい」
「おお、クラミーちゃんもいたか。
元気そうで何よりじゃ」
クラミーは大きな荷物を抱えて外から帰ってきていた。
大量の書類が入ったと思わしき箱を、大事そうにテーブルに置いた。
「なんじゃ、書庫整理でもするのか?」
「いえ、只の調べものですよ」
そう言うと、クラミーは箱の中から何枚かの紙を取り出して調べ始める。
どうやら、魔物の生態調査記録らしい。
唸りながらクラミーは一枚一枚丁寧に調べている。
「なんかあったのか?」
「まあ、最近はほんと色々あって・・・今回のは見た事も無い魔物の目撃情報が」
「ほう?」
興味深そうにブロギンは調べものをするクラミーを見る。
ブロギンの目線にも気を向けず、一心不乱に調べものをしている。
「どういう魔物じゃ?」
「ワーウルフのお嬢さんという話だが。
毛並みは金色、伝説の狼じゃないかって話が出てる」
「ほうほう、それは珍しいな。
普通、ワーウルフというものの毛並みは黒か灰色。
全身が白色のアルビノを抜かせば、ほぼそうじゃろうな」
「ああ、だからこうやって昔の依頼書なんかを調べて貰ってるんだよ。
このギルドが出来たのは比較的新しいが、依頼自体は昔からあったからね」
二人が離している間も、クラミーはものすごい勢いで依頼書、文献に目を通す。
「ほえー・・・色々な依頼があるんですね」
「ここいらは昔からの自然が残っているからね。
絶滅を危惧されているような魔物も存在していると言われている」
「それならばその金色のワーウルフというのも、おるかもしれんの」
魔物は部族を作るか、或いは野良。
前者は知恵や知識を持ち人間や他の魔物とも交流をするが。
野良、つまり知恵を持たぬ魔物は人間にとっても魔物にとっても敵である。
その野良の分類に、その金色のワーウルフがいてもおかしくはないだろう。
「・・・ふむ、興味深いし調べたくもなるが。
わしは人を探してここに来ておるんじゃった」
「人探し?」
「錬金術師の服を来た少年じゃ、見てないか?」
錬金術師、と聞いてギルド長が首をひねる。
「そう言えば、リルフェア様の護衛に一人錬金術師の方がいたな。
護衛部隊を率いているところを見ると、お偉い方に見えたがなぁ」
「ふむ」
そう聞いてブロギンは顎をさすった。
八霧はカテドラルに勤めていた。
ならば、リルフェアの近くにいるのなら間違いなさそうだ、と。
「して、リルフェア様はこの近くにまだ居られるのか?
その話ぶりだと村の近くにいらっしゃったと見えるが」
「ああ、それなら―――」
ギルド長が最近の出来事を話し始める。
「ほう?建物が転移した?」
「こっちもびっくりだったよ、一時村が騒然としてたんだ」
「まあ、普通はそうじゃろうな。
見た事も無い建物が、急に現れるんじゃからな」
ブロギンは調べものを続けるクラミーを横目で見ると。
「どれ、わしもその建物に向かってみるとするか」
「そ、粗相のないようにお願いしますよ?
状況が状況ですし、ブロギンさんといえ・・・」
「怪しいか?」
そう言って、自分の身体を見るブロギン。
骨だけの身体に、ローブを纏った姿。
初めて見る者からは奇異の目で見られるが。
「いえいえ、そう言う訳では。
ただ・・・あっちもまだ戸惑っている部分が多いのです。
下手に刺激すると、って事ですよ」
「ならば問題はない、わしの探している奴がいるのなら大丈夫じゃ」
ブロギンはそう言うと、ギルドを後にしようとした。
その身体を慌てて制止するギルド長。
「待って下さい、ブロギンさん。
行くのでしたら、これも」
「む?」
どうやら、ここら周辺の地図のようだ。
その地図には複数の丸印が描かれていた。
「その錬金術師に頼まれて、ある調べものをしていたのですが。
その成果が出たので」
「ふむ・・・この丸印の所にその調べものが、と言ったところか」
「ええ、ブロギンさんを信じて渡しますよ」
「何が信じて、じゃ・・・小間使いしおってからに」
ぶつぶつとブロギンはそう言うと、今度こそギルドを後にした。
読んで下さり、ありがとうございました。