149話
炎の剣の会。
たった一人の男に壊滅に近い打撃を受け、プライドもへし折られたその騎士団。
その団長であるバンドックも自身の父から勘当に近い処分を受け・・・。
団としての存続も出来ずに解散。
現在はコンドアの街の傍らで自身の元に残った元騎士達と一緒に、
盗賊、強盗行為を及んで生計を立てていた。
「成果は?」
「上々ですぜ、団長」
夜の路地裏。
その一つの扉の先に、バンドック達の拠点があった。
元は炎の剣の会の予備の拠点の一つ。
使う事がほとんどなく、荒れ放題だったが。
機会が出来た今では、ある程度整頓されるようになった。
男達が手に持ってきた袋の中には、銀貨と銅貨が入っていた。
他の袋にはアクセサリーなどが入っている。
「上々、だな」
バンドックはそのお宝を手に持ってニヤリと笑う。
「しかし団長・・・そろそろ警備が厳しくなってきています。
これ以上ここを拠点に盗みを働くのは危険かと」
「そうなのか?」
「はい、前までなら深夜には警備の巡回はほとんど無かったはずですが。
今では毎日のように警備の巡回を見ます」
派手に動きすぎたようだ。
そろそろ、拠点を変えた方がいいだろうな。
「最後に大きな仕事をしてからにしようぜ?」
「大きな、仕事?」
提案をした男がそう聞き返す。
バンドックは頭を掻いて男の顔を見た。
「引っ越すにも金がかかるだろ?
俺達の場合信用させることの方が少ないんだぜ?
口止め料も込めて、そこそこの金を払わないと場所を貸してくれないだろ」
「なるほど、確かに・・・」
現在の持ち金でも移るには移れるが。
それでも、余計な金はあった方がいい。
「では、情報を収集してきます」
「頼むぜ、出来るだけ大口の相手を見つけてくれよ?」
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「しかし、本当に久しぶりだなイグニス」
昔語り、というわけではないがイグニスとエイデンは応接間で話をしていた。
「本当にね」
「俺が最後に見た時は、まだ20歳だったよな?
そんな小娘が今じゃ聖堂騎士様だ」
「・・・こんな状況で聖堂騎士も何もないわ」
「ははは、そうか。
おっと、茶が切れたな・・・おい」
「はい、持ってきます」
傍に控えていた小間使いらしき少年が部屋を出て行く。
その出て行く様子を見たセラエーノは、エイデンの顔に向き直り。
「傭兵騎士にも従者がいるの?」
「傭兵騎士に憧れる少年もいるって事だ。
外側から見れば、自由を愛する騎士に見えるらしいからな」
それを聞いたセラエーノはなるほど、と呟いた。
「さて・・・ちょっと重要な話をしておくか」
「?」
少年が戻ってこない事を確認すると、エイデンは真剣な顔をする。
「俺達からそちらに戦力を抽出するのは確定として。
他に戦力になり得る奴らを紹介しておこうと思ってな」
「本当?」
イグニスは願ってもない話と食いついているが。
隣に座っているセラエーノは、多少訝し気にエイデンを見ていた。
「その話さ、裏があるんじゃないの?」
「裏?」
イグニスが聞き返す。
「ただの紹介だったら、彼を話の席から外す必要はないでしょ?
彼に聞かせたくない話だから席を外させた。
つまり・・・あんまり綺麗な話じゃないんじゃないの?」
セラエーノのその言葉に、エイデンは黙った。
そして、ニヤリと笑い頷く。
「ははは、そいつは考えすぎだ。
まあ、あいつには難しい話だから外されたってのはあるが」
「ならいいけどさ」
「まあ、話ってのはフランベルジュ同盟を知ってるか?」
「・・・聖剣騎士団の貧乏騎士団の一つね。
傭兵騎士並みに装備がバラバラだって聞くけど?」
「金の無い騎士団と言うのはそう言うものだ。
傭兵騎士はバックに金持ちでもいない限りはうちのようになるが」
騎士団長エイデン以外は全員の装備に統一性は無い。
色の違う鎧同士を組み合わせて着ている者も少なくはないし、
傷だらけであることも多い。
「ロンギヌス騎士団は、そういう意味では金持ちだ。
仕事は優先的に回されるし、国民からの信頼も高い。
ある意味、勝ち組ともいえるな」
「勝ち組ね、よく言うわよ」
「辞めといて、か?」
そう言いながら、エイデンは笑っていた。
「まあ、装備の良さは必ずしも腕と比例するものじゃない。
フランベルジュ同盟のゴドウィンは信頼できる奴だ、
話をすれば仲間になってくれるだろう」
そういうと、エイデンは一筆何かをしたためていた。
どうやら、推薦状か何かのようだ。
「よし、これを持っていけ。ゴドウィンに渡してくれ」
「・・・え、ええ、ありがとう」
少し戸惑いながらも、イグニスはそれを受け取った。
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エイデン率いる傭兵騎士団の拠点を後にし、
一行はフランベルジュ同盟の拠点へと歩を進めていた。
「・・・?」
その途中の事だ。
騎士らしき風貌の男達が、集団で横を通り過ぎて行った。
それだけならばなんてことの無いことだったのだが。
彼らとすれ違った時に鼻に入ってきた臭い。
血と、金属の臭いがした。
その違和感を覚えたセラエーノが振り返る。
「どうしたんですか、セラエーノさん?」
「いや・・・あいつら、強盗かもしれないわね」
「え?」
すれ違い、そのまま過ぎ去っていく男達。
セラエーノのその言葉を聞いても、確証が無い以上彼らに問い詰める事は出来ない。
「・・・どうしてそう思うんですか?」
「血と金属の臭い、しかも金属は貴金属の臭い。
騎士団なら鉄や錆びの臭いはしても貴金属の臭いがすると思う?」
と、騎士であるイグニスに問う。
「ええ、しないはず。戦場で光物を付けるなんて不謹慎、自殺行為よ」
それに、ジンクスのようなものがあり。
騎士が戦場に出向く場合は高い物を身に纏うと死にやすいというものがある。
事実その貴金属を奪おうと他の騎士や兵士、或いは盗賊に狙われたと報告もある。
要するに、戦場で目立つものを付けるのは早死にするという事だ。
「じゃあ、私の嗅いだ臭いの違和感、分かるわね?」
「ええ」
だが、貴金属の輸送の護衛という可能性もある。
臭いがした、それだけで問い詰めるのも証拠が無さすぎる。
「セラエーノさん、とりあえず今はフランベルジュ同盟と接触しましょう」
「・・・イグニスさんがそれでいいならいいけどさ」
過ぎ去っていった男達のマントには。
炎の剣の会を表す紋様が描かれていた。
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「ここが、その拠点?」
街の外れ、その拠点を見たイグニスの顔は。
信じられないような、呆れたような顔をしていた。
目の前にあったのはボロボロになった家。
そこそこの大きさがある事から、地主か何かの屋敷だったのだろうけど。
廃墟・・・いや、倒壊寸前の家にしか見えない。
「・・・凄い場所を拠点にしてるわね」
セラエーノはそう言いながら、地面を触っていた。
足跡や痕跡を見ているようだ。
「うん、人がいることは間違いなさそうだ。
足跡も最近のものだし、金属の臭いもするから」
「鍛冶師というものは、金属の臭いをかぎ分けられるものなの?」
先ほどもそうだが、セラエーノの嗅覚は異常だ。
すれ違った一瞬で、彼らから発する臭いを見抜いたのだから。
「まあ、それが鍛冶師の最低条件。
いい金属と悪い金属の見分けは付いて当然だからね」
そう言うと、セラエーノは屋敷の扉に手を掛けた。
果たしてどのような人物が待っているのだろうか?
読んで下さり、ありがとうございました。