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148話


「へぇ、なるほどね」


カリューラという冒険者の女性に話を聞いて貰っていた。

頭の回転が速い人みたいで、言った事をすぐに理解してくれているようだ。


そのカリューラが何度か頷くと、こう聞き返してきた。


「嘘じゃないだろうね?」


「真実しか話してないよ」


僕の顔をじっと見るカリューラ。

そして、ふっと笑った。


「そうか、分かったよ。

 冒険者を戦力として雇いたい、そういう話でいいんだね?」


「うん」


そう頷いて返すと、カリューラは一息ついた。


「冒険者は戦争には加担しないのが定石だけどさ。

 今回の件で西側の冒険者達に被害が出てるし、こっちも動く予定だったからね。

 丁度いい機会だよ」


「被害?」


ああ、とカリューラは答えた。


「あっちを拠点として活動している冒険者たちが一斉に追い出され始めてる。

 貴族は冒険者嫌いも多いから、当然の結果と言えばそうだけどさ」


なるほど。

確かにこちらに来てから冒険者というものをある程度は調べていた。


元々、冒険者というものはゼロームや隣国に発生する魔物を討伐するために、

組織された傭兵団が拡大し、多種多様な仕事を引き受けるようになったのが元。

要するに、何でも屋気質が強く、それを貴族は下品、下劣と感じるらしい。

・・・まあ、当の冒険者もこうやって貴族を毛嫌いしているが。


「おかげで、西側の治安は悪化する一方だよ。

 私ら冒険者が魔物の数を減らさないと道だって安全に歩けないってのに」


「自警団では手が回らなそうな話だね」


「そりゃそうだよ、じゃなきゃ、私達の仕事が無くなるからね」


カリューラのいう事ももっともだ。

需要があるから供給がある。

冒険者という戦力が必要だから街には冒険者がいるのだ。


「・・・しかし、大胆なことを考えるね。

 冒険者を戦力として組み込もうなんて。

 さっきも見たでしょ、ああいう血の気の多い奴は扱いづらいわよ?」


「だからといって、えり好みが出来るほど余裕がない。

 そう言う訳もあるんだよ」


「なるほどね」


納得したように頷くカリューラ。

そして一つ強く頷くと。


「戦力の件は任せな、私が説得すれば半数は手伝うだろうから。

 ただし、ちゃんと報酬は貰うからね」


「どれくらい?」


八霧がそう聞くと、カリューラは指を唇に当て、うーんと唸る。


「一人頭、3」


そう言って、指を3本立てる。

3?


「金貨3枚?」


「そんな大金払えるのかい?」


大金、か。

こちらも結構な要求をしているのだ、それくらいは吹っ掛けられると思ったけど。

違ったようだ。


「銀貨3枚で十分、あいつらは帰って酒を浴びるくらい飲める、

 それだけの報酬があればそれでいいのさ」


「だけど、それだと割に合わないんじゃない?

 通常とは違う命令、任務がある訳だし。

 だとすれば報酬を高くするのは当然で、モチベーションも上がると思うけど」


普通に生活しているうえで働くとは違う仕事だ。

危険も隣り合わせだし、なにより。

冒険者として、戦うわけじゃない。


「まあ、それはあいつらとの交渉次第だよ。

 安心しな、安くなるように行ってみるからさ」


・・・ちょっと不安だけど。

カリューラは信頼できそうな女性だ。

信頼して、任せてみよう。


――――――――――――――――――――


八霧がギルドを訪れている時と同じ時間。

傭兵騎士団の一つの拠点を訪れる人影があった。


セラエーノとカロ、そして。

今まで裏方で偵察や拠点内に残る重傷者を手当てしてくれていたイグニスがいた。


「ここよ」


コンドアの街の外れ、小さな農場が点在する中に、大きな建物があった。

歴史を感じさせる趣のある・・・廃墟に近い屋敷。


「ここが、傭兵騎士の拠点なの?」


「ええ」


イグニスがその庭先に一歩足を踏み入れると。

屋敷の2階の扉が開き、その扉から男が顔を出した。


「傭兵騎士団のアジトに何か用か?」


傷ついたヘルメットを被った男が、そう叫ぶ。

武器は構えていないところを見ると、敵対している様子ではない。


「ええ!責任者に合わせて頂戴」


イグニスがそう返すと、男はイグニスをじっと見た。


「おお、あんたは・・・そうかわかった。

 すぐに開けるよ」


男が窓から消えた。

ドタドタドタ、と音が聞こえると、ガチャリと音が響く。

そして、屋敷の扉が開いた。


「どうぞ、聖槍騎士団のイグニスさん」


「・・・昔の話よ」


「俺等からすれば、そう言う認識だよ」


――――――――――――――――――――


すんなりと通され、応接間に連れて行かれた。

安い紅茶を出されてイグニスは顔をしかめる。


「お客様に出す紅茶かしら、これ」


「どうだろうね」


何も気にせず、紅茶を飲むセラエーノ。


「飲んじゃえばなんでも同じ、もてなす心の方が大事だよ」


出さないよりははるかにましと語るセラエーノ。

確かにとイグニスは頷くと、残る紅茶に口を付ける。


「安くて悪いな、イグニス」


「?」


応接間に入ってくる多少大柄な男。

顔には傷、着ている鎧にも無数の傷が残る。


「エイデン!まだ生きてたのね」


「勝手に殺すな、こう見えて悪運は強い方だ」


ドカリ、と対面のソファーに座るエイデン。

安物のソファーなので、軋む音が部屋に響いた。


「知り合い?」


「元聖槍騎士団の団長筆頭だった人よ。

 膝をやられて引退したって聞いたけど」


「膝をやられたのは本当だ、引退は嘘だがな」


セラエーノがエイデンの膝を見る。

確かに、先ほど歩いていた時引きずっているような印象を受けた。


「それで、用件は何だ?

 聖堂騎士になったお前が、コンドアの街に一体何の用があるんだ」


「・・・そうね、それは」


エイデンの顔を見ながら、イグニスが口を開く。


一言、二言、とイグニスが口を開く度、

エイデンは深く頷いていた。


「なるほどなぁ、なるほど」


うんうんと首を縦に振るエイデン。

納得しているのか、イグニスを見る目は優しい。


「傭兵騎士を聖堂騎士に編入する、という事でいいのか?」


その一言に、周りにいた傭兵騎士がどよめく。


「た、隊長!いくら何でも暴論が過ぎますよ!

 我々が聖堂騎士になれるはずが無いでしょう!?」


「全くだ、栄誉ある聖堂騎士にはそれなりの家格と実力が必要なもの。

 汚れた我々がなれるとは思えませんがね?」


それを聞いたイグニスが口を開く。


「今や聖堂騎士など、名ばかりの存在。

 戦力確保が急務の今、プライドなんか何の役にも立たないわ」


「言うねぇ、さすがイグニス。

 聖槍騎士団でも屈指のはねっかえりなだけはあるな」


「む、昔の話よ!今更蒸し返さないでよ」


「はは・・・まあ、お前がそう出るのなら。

 俺達傭兵騎士も協力せにゃならん。

 任せとけ、集められるだけの騎士を集めて参上してやるよ」


そう言うと、エイデンは胸を叩いた。


「腐っても傭兵でも、騎士は騎士だ。

 リルフェア様の為戦力をかき集めて来よう」


そう言ってにかっと笑うエイデン。


「・・・助かるわ、エイデン」


「おう」


こうして、冒険者と傭兵騎士。

コンドアに集結している半数の兵力がリルフェアの傘下につくことになった。

兵力から見れば、西側と対等に戦える数・・・にはまだ遠いが。


その分、質の良い兵力が集まりつつあった。


読んで下さり、ありがとうございました。

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