147話
八霧達の話に戻ります。
ガイゼンの協力を取り付け晴れてコンドア、アーセ村周辺領域は、
リルフェアの傘下に入ることとなった。
普通に考えればリルフェアを連れて首都に戻ればいい話だと思うだろうけど。
今、リルフェアを首都に連れて行こうものなら、
貴族によって闇討ちされてもおかしくない状況だ。
だからこそリルフェアは健在であり、ラティリーズもまた健在だと示す必要があった。
要は、こっちの存在を示すためにガイゼンに協力を仰いだに近い。
健在であるという事が国中に知れ渡れば、
貴族も迂闊に手を出せなくなると考えての事だ。
「・・・けど、見方によればゼローム皇国が二つに分かれたに近い、かな」
八霧がそう呟く。
「貴族を主体としたヘルザード側ゼロームと、
リルフェアさんを中心とした本家ゼロームか」
内乱という状況じゃない。
本当に真っ二つに分断されている状態になる。
現に、ガイゼン侯爵から領土が明け渡されると同時に、
噂を聞いた周りの貴族達も一斉にこちら側への協力を申し出てきたらしい。
東側の貴族がリルフェアへの忠誠心が高いというのは本当だ。
西側貴族を快く思っていないのも同様だった。
「となれば、残る問題は・・・」
正規の軍隊。
正規兵のほとんどが貴族側に接収されているという事を考えると、
それに対抗しうる武力を持つことは急務。
とはいえ、そんなにすぐ兵を集めることは難しいだろう。
だが時間を掛ければヘルザード、ゼローム連合軍が西側から大挙して押し寄せる。
その前には何としても戦力を拡充しないと。
拠点の自室で大まかな戦略プランを書いていた八霧が立ち上がる。
「こんなものかな・・・まずは」
――――――――――――――――――――
戦力の拡充の方法は色々ある。
まずは、各地にいる冒険者や傭兵騎士の吸収。
即戦力として採用できる上、折り紙付きの戦力となる。
問題があるとすれば、規律だ。
それぞれ冒険者も傭兵騎士も小さなグループでの集まりが大多数。
それを軍隊として機能させるとすれば・・・色々小さな問題が起こるだろう。
まあ、その手間を取ったとしても十分おつりがくるほどの戦力になる。
「だとすれば、冒険者ギルドと傭兵騎士団に連絡を取った方がいいわね?」
提案を聞いたセラエーノがそう話す。
「問題があるとすれば、命令系統かな」
軍と各々でのグループの命令系統の確執が必ず出てくるだろう。
特に冒険者や傭兵騎士がリルフェアさんへ対する忠義を見せるかも分からない。
となれば、報酬でつなぎとめることになるけど・・・。
(そうなると、また別の問題が出てくるか)
金銭での関係には限界がある。
それに、いざとなったら裏切られる可能性もあるだろう。
金の切れ目は・・・という奴だ。
「八霧、何考えてるか分からないけどさ。
背に腹は代えられないっても言うし、動かないと」
セラエーノにそう言われ、八霧は頷いた。
「そうだね」
重い腰を上げて、八霧は立ち上がる。
後は、リルフェアさんに許可を取るだけだ、と。
――――――――――――――――――――
冒険者ギルド、コンドア支部。
支部と名が付いているが、この地域周辺で一番大きいギルドになる。
コンドアの街周辺に存在する中小様々なギルドも統括する大規模な支部であり、
Aランク以上の冒険者もそこそこ在中している。
酒場も宿も併設したその大型施設に足を踏み入れる少年と少女達がいた。
片方は八霧、片方は護衛役のシスとフィナだった。
護衛は要らないといったが、神威がどうしてもというのでついてこさせた。
「ふむ?」
ギルドの扉を開けると同時に全員の目が一瞬こちらに向かう。
・・・錬金術師とメイドが立っているのだ、異質に見えるだろうな。
「ここは冒険者ギルドだぞ、どこかの坊ちゃんが来る場所じゃない」
受付の痩せた中年男性が僕に向かってそう言ってきた。
なるほど、そう見えるか。
錬金術師のどこかの貴族・・・の御曹司?と、そのお供。
その言葉を無視するように、受付まで黙って歩く僕とオリビア。
「?」
嫌味や何かでそう言ったわけでは無いらしく、意外そうな顔で僕を見てくる。
「相談があってきたんだ」
「相談だと?・・・ああ、なるほど依頼をしに来たのか?
なら裏口から入ってくれ、正面は冒険者用だ」
「いやいや、依頼というわけじゃ」
小さく頭を振り、否定の意を示す。
「じゃあ、一体何の用だ?」
「実は―――」
話を切り出そうとした瞬間、横から手が伸びてきた。
その手は僕の胸ぐらを掴むと、強引に引き寄せてきた。
「おう、坊主・・・ここは冒険者用だって言っただろうが。
お前みたいな温室育ちの坊やが来る場所じゃねえんだよ」
身体が宙に浮き、目の前に男の顔が迫る。
・・・どうやら、貴族が気に食わない人みたいだ。
顔を見るに30代前半、スキンヘッドで目元には傷跡がある。
見るからに前衛職、戦士という人だ。
首から下がっている冒険者の証は、彼がBランクという事を示していた。
後ろで椅子に座っている仲間らしき男達も笑って僕を見ている。
何が楽しいんだか。
「降ろしてもらえると、助かるんだけどな」
「あ?」
刹那、シスとフィナの身体が消える。
つぎの瞬間には、男の身体はギルドの壁まで吹き飛んでいた。
「ぐぉ!?」
壁に衝突し、ぐったりと床に倒れる男。
「・・・こうなるからさ」
穏便に行きたかったが、やっぱり血の気の多い場所はこうなるか。
座っていた仲間の男達が立ち上がり、シスとフィナを睨む。
「おい、お前等。喧嘩売ってんのか?」
「私達は八霧様の護衛役」
「護衛対象を守っただけ」
と二人は言うが。
納得はしないだろう。
現に目の前の男達は得物を抜き始めていた。
「おいおい、ギルドの中で乱闘はよしてくれ」
受付はそう言うが、男達の目は血走っている。
・・・ここまで血気盛んだとはね。
仕方ない、ここは圧倒して・・・黙らせようか。
そう思い構えようとした瞬間。
奥に座っていた黒いローブを纏った女性が立ち上がった。
「・・・見苦しいわね、大の男が大勢で」
「か、カリューラの姉貴」
気だるそうにこちらまで歩いてくると、黒いローブを脱ぐ女性。
そのローブの下からは綺麗に磨かれた赤い軽装鎧と、マントが見えた。
髪も真っ赤で、全身が赤く見える。
「言いがかりつけて、勝手におっぱじめて。
小さい少女に殴られてふっとんでさ。
お陰で、私の飲んでた飲み物にゴミが入ったじゃない」
そう言いながら、ジョッキを男にぶん投げるカリューラ。
男の頭に命中すると、内容物を引っ被ってびしょぬれになった。
「そ、そんなぁ、姉貴」
「こいつらが迷惑かけたね、でも場違いな場所に来たアンタにも落ち度があるよ?」
「場違いって・・・僕は貴族じゃないんだけど?」
「メイドを連れてる一般人がどこにいるっていうのよ」
「彼女は僕の護衛で・・・ああ、もう。
とにかく説明させてくれないかな?」
どうやら、この人がここの冒険者の頭みたいだ。
皆、先ほどの雰囲気と違い彼女に従順に従っている。
彼女が今ここで一番偉い、それで間違いはなさそうだな。
読んで下さり、ありがとうございました。