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146話

時系列はカテドラル襲撃直後のヘルザード側の話になります。

シャルードはイラついていた。

編成した襲撃部隊、もといラティリーズ確保するために編成された部隊は。

バルクの行動によってほぼ意味のないものになった。


「・・・」


不機嫌そうに、玉座の肘掛けをコツコツと指で叩くシャルード。


バルクの襲撃部隊がカテドラルを襲ったという情報が入ったのは、

彼らが襲撃した直後。

つまり・・・ヘルザードの襲撃部隊は一切動いていなかった。


「何故だ、何故!」


「落ち着いて下され、陛下。

 よかったではありませんか、これでゼロームの国土は我々のものに。

 痛手も負わずに、漁夫の利を―――」


「ラティリーズが死んだのだぞ!なにがよかったのだ!!」


「行方不明、という状態でございます。

 聖堂騎士も無能ではありませぬ、逃がした可能性も高いかと」


側近のその言葉にシャルードは怒気をはらんだ声を収めようと、

一つ息をついた。


「う、うむ・・・そうだな」


「・・・とにかく、ラティリーズ様の安否は調査中でありますので。

 陛下はどうか、お気を確かに」


側近はそう言うと、玉座の間を後にした。


「ラティリーズ、一体どこへ行ってしまったのだ」


――――――――――――――――――――


ヘルザード帝国首都。

その中央部に位置する城。

シャルードが玉座を構えるこの城こそ、ヘルザードの中心である。


その大会議室には、ヘルザードの各部族の長が集まっていた。


「陛下の様子は?」


腕を組み、偉そうにふんぞり返っているミノタウロス族の長『ゴズ』。

通常のミノタウロスとは違う、青の混じった毛。

歴戦の戦士を思わせる体中の傷跡が彼の生涯を語っている。


「落ち着かれた、が・・・皇帝とは言えまだ若造。

 意中の相手が行方不明だからと、焦るのは王族としてどうなのだろうか」


そう言いながら、先ほどの側近はため息をついた。

彼の名はローダン、ヘルザードの重臣の一人で穏健派に入る人物。


「ローダン殿、それで我々を集めた理由は?」


ゴズの隣に座るエルフ族の長『ハイネ』。

長身で細身、エルフらしい金髪碧眼の美男子。

そのハイネがローダンにそう尋ねた。


「うむ・・・実は国境沿いでルダが勝手に動いたとの報告がだな」


「何?グスタフが負けたのか?」


ゴズが意外そうな声を出す。

同じ武闘派として、彼が負けたという情報が信じられないという表情だ。


「いや、情報によると勝手に殺そうと動いたとの事だ。

 結果負けたみたいだが」


・・・負けたと聞いて、会議場がざわつく。

ルダは一体で軍団と渡り合うような巨人。

扱いは難しいが、倒すのはそれ以上に難しいと認知されている。


「はっはっは!こりゃ傑作だな!

 強硬派共、今頃煮え湯を飲んでるんじゃないか?」


「はぁ・・・ゴズ、嬉しいのは分かりますが。

 少しは周りを気にしたらどうですか?」


「別にいいじゃないか、ハイネ。

 これで強硬派の勢いも収まるってもんだ」


ルダを差し向けたのは、強硬派と呼ばれる部族の集まり。

昔ながらのヘルザードの気概と教えを守る、保守派とも取れる集団だ。


「一応、我々は穏健派に当たるんですから。

 下手に騒ぐと立場が悪くなりますよ?

 ここ、城の中なんですからね」


ハイネがそう諫めると、笑っていたゴズの顔が引き締まる。


「おお、そうだな」


「・・・とにかく、ルダが敗北したというのは本当だ。

 それで貴殿らに集まって貰ったのは他でもない・・・これからの事だ」


ローダンがそう言うと、会議室に集まっている全員が静まる。

喋る主催者をじっと、各々の目が捉えていた。


「ヘルザードは既に近代化を図るべきだと私は常々申し上げてきたが。

 シャルード陛下はその言葉に一切耳を貸してはくれなかった」


「昔ながらの風習、ゼロームとの争い・・・強いものこそ正義。

 では弱小の部族はどうなるのか、それは私の部族を見てくれればわかるでしょう」


ハイネがそう言うと、各々が頷く。

彼はハイエルフの一派であるニルン族の長。


ニルン族自体魔法に長けるものが多く、知略に富む。

だが絶対数が少なく、兵として抽出できる数も少ない。

故に有能だが兵を抽出できないと長年軽視されていた。


「ハイネはまだいいぜ、俺等の部族なんか試し斬り同然に使われてるぞ?」


ゴブリン族長『ゾッガ』がそう言う。


「そうなんですか?」


「ああ、村の若い者を連れて行っては、新品の武器の刃の的だ。

 確かにゴブリンは繁殖力が高いけどよぉ」


そう言いながらゾッガは顔をしかめた。

まあ、気に食わない話で当然だ。


「ゴブリン内でも部族によって扱いがピンキリ。

 このままでは、他部族国家であるヘルザードの行く末は・・・」


はぁ、とため息を一つ吐くローダン。


「故に私は武力を持ってシャルード陛下を説得するつもりだ」


その言葉に、一同の目が一斉に向く。

驚く者もいたが、大抵の者は表情を変えていなかった。


「遂に、か」


ゴズがそう呟く。


「しかし時期尚早では?ルダが倒れただけでは、その」


ハイネが困惑の表情でそう問うてくる。


「ああ、確かにルダが倒れただけでは私も動かなかった。

 だが・・・私の偵察が聞いた情報では、な」


グスタフの無事、ゼローム側の将軍との話。

そして、ルダを倒した者はたった一人の人間だったという事を告げる。


「おお、そいつぁ凄い奴がいるな」


ゴズは面白そうにケラケラと笑っていた。


「凄い奴、ではないですよゴズ。

 その人間さんが味方になってくれるとは限らないんですから」


「違いねぇ」


自身の太もも付近を叩くと、ゴズは笑うのを止めた。


「では、グスタフ将軍とその人を仲間に?」


「ああ・・・そのための使者は既に送っている。

 あちらも、そろそろ物資が不足するだろうからな」


ローダンはそう言うと、各々の部族の長の顔を見た。


「これからヘルザード建国史上最大の反乱を始める。

 皆、私に命を預けろとは言わん。

 各部族長は自分の部族を守るために全力で戦ってくれ」


その声が響くと、会議室はしん、と静まり返った。


「・・・俺は先に行くぜ、グスタフとその人間とやらが気になるからな」


「私もついて行きましょう、ゴズだけでは力比べと称して襲いそうですし」


ゴズとハイネが立ち上がる。


「んじゃ、俺は物資をかき集めてくらぁ。

 小間使いはゴブリンにお任せ、ってな?」


ゾッガはそう言うと、近くに座っていたドワーフの族長と何やら話し出した。


「・・・我々も準備をしてこよう。

 ローダン殿、貴殿の幸運を祈る」


各々の族長も、一言二言残してその場を後にしていった。


「グスタフ、お前は私達の希望だ。

 そしてこの国の希望、明日の未来を切り開く存在なのだ・・・死ぬなよ」


ローダンはそう呟く。

その呟きは広い会議室に吸収され、消えて行った。



読んで下さり、ありがとうございました。

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