表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/381

145話

王城を正面から抜け出し、トーマは国王を抱えて首都の外れまで走っていた。

その後に続くティアマとリーゼニア。


人気のない道を狙い、路地裏をくぐり。

気づいた時には首都近郊、住宅がほとんどない寂れた場所まで走っていた。


「こ、ここまでくれば・・・追ってこないわよね!?」


リーゼニアは肩で息をしながらそう言い放つ。

そう言われ、後ろに振り返る。

・・・確かに追ってくる気配は無い。


「はぁ・・・ふう、久しぶりの全力疾走、よ」


よくそのドレス姿で後ろについてこれたと感心する。

やはり、そこいらの姫さまよりも鍛えているだけの事はあるな。


「む、むう。そろそろ下ろしてくれないか?」


「ああ悪い」


下ろすタイミングを逃して、ずっと小脇に抱えたままの国王を下ろした。


「ふう、生きた心地がしなかったな」


「あのままの方が不味い状況になったわよ、お父様」


捕まっていた時のことを話しているのだろう。


「うむ」


リーゼニアの言葉に、国王は頷いた。


「迷惑を掛けたな、トーマ殿」


「いや・・・あのまま放っておくわけにもいかなかったからな」


「そうか、何か褒美を取らせたいところだが。

 全て奪われてしまってな」


そう言いながら、国王は肩を落とした。


「リルフェア様もラティリーズ様も失い。

 国王の座まで奪われるとは、何たる失態か」


「裏切り者のせいです、お父様。

 それよりも今は国をあいつらに好きにさせないように動くべきです」


「そうは言うけど、どうするのよ?」


ティアマがそう聞くと、国王はぎょっとした顔でティアマを見た。


「ティ、ティアマ殿!?何故ここに居るのだ!?」


・・・気づいてなかったのか。


――――――――――――――――――――


「う、うむ・・・信じられん話だが」


俺の言葉を聞き、半信半疑の様子でティアマを見る国王アルフォン。

まあ、信じられないものも無理はないか。

俺だって、目の前であんな事が無ければ信用してなかっただろう。


「信じる信じないは勝手だけど。

 私の偽物は、今か今かとゼロームを襲う算段をしているわ。

 今のゼロームなら簡単に食い破られる、そうじゃない?」


それを聞いて、リーゼニアは顔を伏せた。


「そうね、簡単に突破されるわ」


「だからこそお姉ちゃんを見つけないと」


お姉ちゃん、と聞いてリーゼニアとアルフォンが顔を見合わせる。

そして、ああと気づいた。


「ティアマ、お前リルフェアの気配を探るとかできないか?」


「無理よ、力を奪われてるし・・・実際使えたとしても、

 そこまで効果の強いものじゃないわ」


言うには、微かな匂いを感じる程度の能力らしい。

他人よりは見つけやすい、その程度だという。


「そうか、じゃあ別の方法で見つけないとな」


「その事なんだけど、トーマ。

 兵達にある程度探りを入れさせてたんだけど」


「?」


「アーセ村近郊に、妙な建物が急に現れたんですって。

 それとカテドラルの一部が綺麗に無くなっていた・・・何か気にならない?」


「確かに、それは気になる情報だな」


神威の事だ、拠点を改造して転移させた可能性もある。

第一その構想自体は少し前に聞いていた。

が、材料が足らないと嘆いていたが。


「行ってみる?」


ティアマのその提案に、俺は一度頷く。

そしてアルフォンとリーゼニアを見た。


「俺は向かってみようと思うが。

 二人はどうする?」


「そうね、私はついて行くわ」


「わしも王座を剥奪された身。

 すがるものがあるのなら、それに掛けたい」


・・・二人共付いてくるという事で良さそうだな。

さて、馬車か何かを用意しておかなければな。


――――――――――――――――――――


その頃、王城。

貴族の私兵たちが慌てた様子で国王とリーゼニアを探していた。

城に残った正規兵たちは涼しい顔で持ち場を守っていた。


「貴様!国王は何処に消えたのだ!?」


「知りません、私は巡回兵ですよ?

 それも城の一階が担当、知るはずが無いでしょう」


国王が監禁されていたのは二階。

一階の兵が知るはずないと答える。


「くそ、何処に消えた!!」


貴族の私兵がその場から走り去っていく。


「もう逃げたよ、とっくに」


そう小声でつぶやき、巡回の兵は任務へと戻っていった。


城の動乱は更に加速し。

次の朝には逃げた国王の捜索隊が編成される始末となった。


――――――――――――――――――――


次の日の朝日が上がる前。

何とか馬車を調達し、トーマ達は乗り込んでいた。

アルフォンは着ていた王族っぽい服を脱ぎ、俺の出した替えの服を着ている。


何処からどう見ても、商人のおっさんにしか見えない格好だ。

蓄えた白い髭は一時的に染色し、茶色にしておいた。

まあ、ぱっと見でばれる気配がない変装だ。


リーゼニアの方は、フード付きのローブを被って貰っている。

さすがに俺の持ち物に女用の装備品は無かった。

ティアマにも相談したが、他人用の装備を出せるほどの魔力は無いという。

仕方が無いので、ローブで我慢して貰った。


「・・・意外に触り心地がいいのね、これ」


リーゼニアはローブを触りながらそう漏らした。


「ミスリル製のローブだ、余り上質じゃないがな」


「嘘、これミスリルなの!?」


「?」


「ミスリルと言えば希少な金属。

 それをこんな薄く、布のように加工できるとは」


なるほど。

ゼロームではミスリルは希少な物なのか。

・・・まあ、今はそんなことはいい。


「防御力に優れてるからな、いざという時も守ってくれる」


「・・・そう、ありがとう」


馬車が揺れる。


「お客さん!すみませんが、馬車のチェックが入りそうですよ」


長い鼻の御者がそう言う。

・・・チェック?

この馬車を調べるという事か?


「まさか、もう手を回したの?」


「・・・いや、多分違うだろう」


馬車が泊まり、馬車の扉を叩く音が響く。


「臨時検査だ、素直に従ってもらいたい」


「ああ」


特に抵抗もなく、そのまま扉を開けた。

開いた扉の先には、複数名の兵士が立っていた。


「早朝に急ぐ馬車を見つけ、不審に思ってな。

 何か怪しいものでも持っているのではないか?」


全員が首を横に振った。


「ふむ・・・荷物を調べさせてもらうぞ」


馬車の後ろに積んであった荷物を調べ始める兵士。

といっても、大したものは入っていない。

行商人を装うために、簡易テントや非常食は積んどいたが。

ついでに、馬車屋を騙すための物資ともいえる。

・・・行商人でも装わないと、夜中近くの移動は許可して貰えないだろうからな。


「隊長、これと言って特には」


「そうか」


「あのー、兵士さん。

 何もないのなら、言ってもよろしいですかね?

 こっちも商売で、急いで行かないと」


御者はへこへこと頭を下げながら兵士に言う。


「仕方ない・・・行け」


兵士がそう言うと、御者は一礼して馬車に戻った。


「む?」


一瞬、隊長とリーゼニアの目が合う。


「・・・気のせいか。悪かったな、疑って」


隊長は一言そう謝ると、扉を閉めた。

それから一呼吸おいて走りだす馬車。


「ふぅー・・・ばれたかと思ったわ」


「仮にばれても、強行突破したのでしょうトーマ?」


「説得するだけだ、正規兵なら今の状況・・・許せないだろうしな」


事情を話して仲間に引き入れるのも手だったが。

今は馬車も満杯だし、真実を知った方が彼も苦労するだろう。


・・・とにかく、今はアーセ村に行かないとな。


読んで下さり、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ