140話
「西側の貴族が反旗を翻し始めているのは事実。
だからこそ、こっちも大きく動く必要がある」
そう話す八霧。
「大きく動く・・・か。
なるほどこちらのアクションを見せて、相手方の様子を見る、
そうだな八霧君?」
ガイゼンが納得したように頷いた。
そう、派手に動けば相手が敵かどうか炙り出せる。
こちらに牙を剥けるなら敵、静観するなら中立。
こちらに付くなら味方になるという事だ。
・・・一応は、だが。
「こちらが大きくアクションを取れば、仲間になってくれる人も現れるはず。
ゼロームの神が健在だと示せるしね」
「・・・しかし、そうなるとこっちの位置を知らせるようなものだと思うのだが?」
「それも狙いだよ、こっちの頭を潰される前に動くんだ」
「頭?」
「リルフェア、ラティリーズは死んだと全国的に流される前に、
先んじてこちらが動いて相手の動きを封じる。
じゃないと、後手に回るからね」
今の状況は半信半疑、死んだかどうか疑わしい状況にある。
要は神が死んだか生きているのかはふわふわしている状態だ。
要するに、先手を打たれればこっちの状況が不味くなる一方になる。
最悪偽物か何かと決めつけられ、味方になるはずの人物を失う可能性も大だ。
「・・・それで、俺の場所で旗揚げを行うのか」
ガイゼンはソファーに座り直し、腕を組んで目を瞑った。
「・・・こちらは戦闘部隊は少ないし、領地も小さい。
実質戦力となり得るかは首を傾げるところがあるが」
「・・・」
リルフェアの目が、じっとガイゼンを見た。
「それでもよければ、リルフェア様、ラティリーズ様。
この地を存分にお使いください」
「いいの?」
「あなた方に牙を剥くつもりは毛頭ありませんから。
フォークス卿も、理解してくれるでしょう」
ガイゼンはそう言うとソファーから立ち上がった。
そして拳を握る。
「襲撃され、今度は反乱の危機。
本当に貴族という奴は・・・まったく。
フォークス卿が憂いていたのが分かるな」
呆れるように一つため息をつくと、ガイゼンはその場を後にした。
「・・・後の事は、私が手続きを行いますので。
リルフェア様、ラティリーズ様はコンドアの街に」
「いえ、拠点に戻るわ。
あっちの方が強固で安全だからね。
・・・それと、その拠点についての相談があるんだけど」
「は、はぁ?」
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なんとかガイゼンさんには協力をこぎつけれた。
これでゼローム全体にリルフェア、ラティリーズが健在だとアピールできる。
とはいえ、それでもゼローム全体を見れば小さい領土だ。
この領土から仲間を増やして西方と争う事になるだろう。
「拠点の修復部材は何とか集めてくれるそうよ」
セラエーノさんは、誰かと話して帰ってきたところだった。
どうやらガイゼンさんの部下の一人だったみたいだけど。
「あ、話ってそれだったんですね」
「ええ、コンドアの街の周りは物資が豊富に集まるって聞いたからね。
もしかしてと思って聞いてみたんだけど」
どうやら修復部材は思った以上に早く集まりそうだ。
これで拠点をフルに活用することが出来るようになる。
しかし・・・修理したらどこに移動しようか。
コンドアの街の近くまで歩かせた方がいいかもしれないけど。
「修復には時間が掛かる。
本格的稼働は、もうちょっと先」
「どれくらいかかるの神威?」
「・・・物資が集まれば数週間で完成する」
多少時間が掛かるくらいか。
その為にも、物資は確保しておいた方が良さそうだ。
帰る道すがらは、装甲馬車にリルフェアさんとラティリーズさんを乗せ、
その周りを聖堂騎士と僕達で輪形陣で囲むような形になっている。
その物々しい移動方から、コンドアの住人からは奇異の目で見られたけど。
あとでガイゼンさんから説明もあるだろうし、このまま帰ろう。
「・・・?」
だが、その行進を阻むように陣取る男達がいた。
格好は騎士服、或いはフルプレートのアーマー姿。
どこかの騎士団だというのはすぐに分かった。
気になるとすれば、その格好の不一致さだ。
ボロボロの鎧の者もいれば、つぎはぎのように色があっていない鎧を着ている者もいる。
まるで傭兵団、それもろくに補給が受けれないような。
「聖堂騎士団と見受ける」
その男達の一団から、一人の男が歩み出てきた。
街中でこんなことになっているので、野次馬が集まり始めていた。
まあ、しょうがないか見ようによっては一悶着ありそうな一団だし。
「いかにも」
イグニスさんがそう言って歩み出る。
「聖剣騎士団所属、『フランベルジュ同盟』のゴドウィンだ。
リルフェア様とラティリーズ様がこちらにお目見えになったとの事で。
こんな形だがご挨拶を」
丁寧に礼をするゴドウィンをみて、
イグニスは剣の持ち手にかけていた手を下ろした。
その様子を見て、周りの聖堂騎士も構えを解いていた。
「聖剣騎士団・・・そうか」
「それと、情報を」
「?」
イグニスにゴドウィンが近づくと耳打ちをする。
「すぐに外に出ない方がいい、野盗と炎の剣の会が襲い掛かる算段をしていた」
「何故だ?リルフェア様とラティリーズ様を襲うというのか?」
「半信半疑、それに・・・これだけの護衛を引き連れた一団。
どこかの大金持ちでもない限り、この規模はあり得ないだろう?
だから、その金を目当てに、な?」
それを聞いたイグニスは頭を押さえた。
「たとえ半信半疑とは言え、神を襲うというのか・・・屑共が」
「それだけ、光って見えるという事だ。
我々もお供し、彼らと戦おうと思うが?」
「どうして一緒に戦うと?」
八霧が横からそう口を出す。
「・・・そうだな、炎の剣の会も聖剣騎士団の一員。
そんな奴らが賊と手を組み誰かを襲おうとしている。
聖剣騎士団の一員として、止めなければな?」
そういうと、ゴドウィンはふっと笑った。
「そうだね、身内は身内が止めないと。
イグニスさんどうする?」
「このまま正々堂々と正面から出て行こう。
賊如きに負けるようならば・・・我々に今後はないだろうしな」
確かに、と頷く八霧。
そして、近くにいた古参勢に話しかける。
「セラエーノさんは馬車の直近の護衛を。
エリサはスケとカクと一緒にセラエーノさんの補佐をして。
神威、セニア、オリビアは聖堂騎士の人達と一緒に賊を対処して欲しい」
「ん」
「分かった、八霧君」
「流石、参謀だね」
そう言って、セラエーノは八霧の頭をぐしぐしと撫でた。
「護衛は任せなよ」
ガッツポーズをして、セラエーノは持っているハンマーを振る。
鍛冶に特化したスキル編成にはなっているものの。
セラエーノ自身のステータスは近接特化に近い。
要は、下手な戦士よりも力が強い。
「それに、聖堂騎士に武器を配っておかないとね」
「へ?」
武器?
何のことだろうか?
「ああ、拠点が転移してから数日間で作っておいた武器よ。
って、そんな顔しないの、普通の武器だから」
八霧の目は、疑いの目に近かった。
元々、普通の武器を作る方が珍しい人だ。
変な武器を渡されても、聖堂騎士達が困るだけだ。
「ほら」
セラエーノが道具袋から出したのは、確かに普通の鉄の剣だ。
「あんた、振ってみなよ」
「私か?」
馬車の近くでイグニスとゴドウィンの動向を伺っていた聖堂騎士に、
セラエーノは鉄の剣を渡した。
「・・・?この剣、本当に鉄でできているのか?」
何度かその場で振るう。
違和感を感じるみたいだが。
「軽いでしょ、それにとても切れ味が良くて頑丈」
それを聞いて、聖堂騎士は近くに転がっていた大きめの石に剣を軽く振り下ろした。
すると、包丁で大根を切るかの如く、すっぱりと石が真っ二つに切れてしまった。
「うお!?」
驚きの表情で剣を見る聖堂騎士。
その様子を見て、セラエーノは満足げに頷いていた。
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