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139話

ガイゼンは人当たりの良い貴族でコンドアの街でも親しまれている領主である。

ただ政治的手腕に関してはあまりいいとはいえず、あくまで普通。

政治に関しては彼の腹心達が支えていた。


「それで、偵察・・・いや、オリオの報告は?」


「リルフェア様、ラティリーズ様共に確認できたとのご報告です」


「そうか・・・では、会談の準備を急げ」


「は」


数人の部下が執務室を後にする。


メイド一人とガイゼンを残して、執務室には誰もいなくなった。

大きなため息を一つつくガイゼン。


「はぁぁー・・・本物とはな、胃が痛くなるよ」


そう言いながら、自らの肩を叩く。


「ガイゼン様、領主として凛としてください」


「そうは言うがな、ルゥ・・・俺は元々一般人なんだぞ。

 大した能力も無いし、この国の神様に会う事になるなんてなぁ・・・」


領主ガイゼン・クローラ。

この男の本名は『RF―ゲイズ』、EOSからの転移者の一人。


ヘルフレイムと白銀の大剣全員が転移に巻き込まれた時も遠巻きにその様子を見ていた、

プレイヤーの一人である。


ちなみにLvは91でガチ勢ではない。


「しっかりしてください、それでも私の旦那様ですか?」


ルゥと呼ばれたメイドはそう返した。


「いやいや、だからってな」


「実力で今の立場を勝ち取ったのですから、もっと凛としてください。

 来年には父になるというのに」


「うぐ・・・分かった、分かったから睨むな」


大きなため息を一つつくと、ガイゼンは顔を引き締めた。


「なるようになるしかないが、それでも努力はするさ」


「それでこそ、我が旦那様ですよ」


ルゥはその顔をニッコリと笑わせた。


彼も思いもしないだろう、訪ねてくるリルフェア、ラティリーズの護衛。

その護衛に見覚えがある事など。


――――――――――――――――――――


「旦那様!準備は大丈夫ですか!」


「ま、待ってくれ!」


正装をし、出迎える準備を着々を進める。

だが、時間をかけすぎたためか、

既にリルフェアとラティリーズは門の前まで来ていた。


「うおお!?こんな時間か!?」


時計を見て、予定時刻より多少過ぎていることに気づいた。


「はぁ・・・まだ終わってないんですか?」


呆れたように、ルゥはため息をついた。


「お前な、仕える主人に向かってため息はどうなんだ?」


「はいはい、悪うございました。

 お着替え、手伝いますので急ぎましょう」


悪びれもせずに、ルゥは着替えの手伝いを始めた。

悪態は付くが、ルゥの手際は見事なもので。

ほぼ数十秒で正装は整った。


――――――――――――――――――――


「・・・まだかしらね」


メイドに出された紅茶を飲みつつ、リルフェアとラティリーズは

応接間で領主を待っていた。


傍に控えるメイドと執事は、冷や汗を流しながらリルフェアを見ていた。


「が、ガイゼン様は?」


「まだです、お着替えに時間が掛かっているとか」


「いつまで待たせるつもりなのだ・・・うう、胃が痛くなってきたぞ」


初老の執事は、腹を押さえてそう言った。


「胃が痛いのは私もですよ!もう」


「緊張しなくてもいいわ、別に取って食うって話じゃないんだからね」


「ひゃ、ひゃい!?」


「こ、これは失礼を・・・」


執事とメイドは平謝りで頭を下げ始めた。


「とは言っても、緊張するなと言った方が無理な話よね」


紅茶を一口飲み、その場の雰囲気を軽くしようとするリルフェア。

だが、緊張感というのはすぐさま解けないもの、しばらくその空気が続いた。


「八霧君、少しいいかしら?」


「なんですか?」


後ろに控えていた八霧はその言葉に反応して傍まで寄る。


「様子を見てきてくれないかしら?」


「ガイゼンさん、を?」


「ええ」


八霧は残る聖堂騎士達と護衛として連れてきたオリビアを見る。


「こちらは大丈夫ですよ、八霧様」


「我々が守りますので」


「・・・分かった、出来る限りで見てくるよ」


応接間の出口に立っているメイドを見る八霧。


「あ、えっと、何か御用でしょうか?」


「トイレ、何処にあるかな?」


「でしたら、出て右にありますので」


「ありがとう」


メイドはドアを開けてくれた。

さて・・・少し様子を見てくるかな。


――――――――――――――――――――


「ルゥ、これでいいのか?」


「決まってますよ、旦那様」


「ううむ」


ようやく準備が終わり、ガイゼンは多少胴回りがきつい正装を着て一階へ降りてきた。

階段を降り終えると同時に、廊下を歩く少年と目が合う。


「・・・?」


「ん?」


ガイゼンと八霧の目が合う。


「いや、気のせいだろう・・・さすがに」


「・・・んー?」


だが、八霧の方はガイゼンの顔をじーっと見ている。


「どこかで見た顔、なんだけどな」


「お客様、今目の前に居られるのは領主ガイゼン様です。

 何か御用でしょうか?」


メイドがそういう。

威張り散らすとか、貴族らしい嫌味とか含んだ声ではない。

こちらを心配して言ったようだ。


まあ・・・確かに一般人が領主と話すのは色々まずい部分もあるし。


「まあ、僕の立場もそう高くない・・・かな?」


そういえば、どんな立場に立っているのだろう?

何かに任命されているわけでもないし、トーマさんの従者、のままか。


「ところで、君は誰なのかな?」


「ああ、申し遅れました。

 ガイゼン卿、僕はリルフェア様の護衛役、八霧と申します」


「ああ、八霧・・・ん?」


名前を聞き、再び八霧の顔と格好を見る。


「・・・ヘルフレイムのブレーンか?」


「・・・やっぱりあなたも転移者?」


「お、おお!?」


驚きの表情を見せるガイゼン。

ああ、やっぱり・・・そうだ。


どこかで見たというのはそういう事だ。

EOSのどこかで見かけたのだろう。


「・・・ガイゼン様?」


「ルゥ!この子は俺の世界のギルドで、参謀だった子だ」


「あら」


多少の驚きを含んだ顔で八霧を見るルゥ。

その様子を見て、八霧はガイゼンとルゥの関係を何となく理解した。


「RF―ゲイズ・・・いや、単にゲイズと呼ばれていた男だ」


「初めまして、かな?」


「そうか、そうだな」


ふふ、と笑うガイゼン。


「君の名と実力は知っている。

 それに、トーマさんは元気か?」


「知り合いなんですか?」


「ああ、昔世話になった事もある。

 ・・・しかし、君達がリルフェア様の護衛なら安心だな」


そう言って、ガイゼンは一つ頷いた。


――――――――――――――――――――


「リルフェア様、お待たせいたしました」


「お疲れ様、ガイゼン卿」


「いえ」


リルフェアとは対面のソファーに腰かけるガイゼン。

座るタイミングを見計らって、リルフェアも姿勢を整える。


「して、リルフェア様・・・状況を説明していただけると幸いなのですが」


「ええ、説明させてもらうわね」


現在の状況、自身の状況。

アーセ村へと転移で避難している現状を次々と伝えていくリルフェア。

ガイゼンは何度かその言葉に頷く。


「つまり、私の領地で匿ってくれ、そういうことですか?」


「それは・・・少し違うわね」


「?」


「私はゼロームを再建する、そのためにガイゼン・・・あなたの領土を借りたいの」


「借りる・・・ですか?」


意外そうにそう聞き返すガイゼン。

リルフェアの隣に立っている八霧は一つ頷くと。


「リルフェアさんこそ、ゼロームの正統な支配者。

 その支配者を無視して、国を言いように操る逆賊を討伐する。

 ・・・それが、僕達の目的」


「ええ、そのためにガイゼン・・・土地と兵士を貸して欲しいのよ」


リルフェアにそう言われ、ガイゼンは椅子に座り直して目を瞑る。

・・・しばらく、沈黙が応接間を支配していた。


読んで下さり、ありがとうございました。

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