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138話

コンドアの領主であるガイゼンが放った偵察は、

既にリルフェア達の拠点の傍まで接近していた。


「ここが、話にあった場所だが」


アーセ村の外れに確かに存在する建物。

情報通りなら、この中にリルフェア様がいるはず・・・だが。

半信半疑のまま、偵察兵はその扉を叩く。


「・・・」


しばらく待ったが反応が無い。

留守か?


「むぅ、一度出直す―――」


「ようこそ、いらっしゃいませ」


「!?」


何処からともなく声が聞こえた。


「ただいま留守にしていますので、伝言があれば承ります」


「誰だ!?」


辺りを見渡すが人の気配も姿もない。


「私は試作型防壁『プロトウォール』と申します。

 プロトとでもお呼びください」


「は・・・いや、まさか・・・扉が喋ってるのか!?」


「御明察です、お客様」


驚いた、扉が喋るとは。

いや・・・ゴーレム技術やドール技術の類だろうか。

見るのは始めてだし出会ったのも始めてだが、そんな感じがする。


「と、とにかく留守なのか・・・後にした方がいいか」


「もしかしたらガイゼン様の関係者でしょうか?」


「む!?何故分かった?」


「近々尋ねてくるかも知れないと、八霧様が仰っていましたので」


どうやら、動きはばれていたようだ。

賢い奴がいるようだな・・・。


「・・・ああ、その通り。

 私はガイゼン様に命令されてここの偵察に来た者だ」


「そうですか、では。

 お客様と認識し扉を開放します」


「は?」


目の前の重厚な扉がひとりでに開く。

開いた先には小さな玉座と、大量の書物が壁に所狭しと並べられた場所が広がった。


「ようこそ、お客様」


――――――――――――――――――――


異文化交流、まさにその一言だ。

ドールのメイドと、ゴーレムの騎士が部屋の端で待機している。


「これは・・・凄いな」


「現在、リルフェア様も聖堂騎士様達もアーセ村へ外出しております。

 なんでも、説明会?を開くとか」


「なるほど、村が騒がしいと思ったらそのせいか」


「ですので、マスター『神威』様が、試作されていた現地製のゴーレムと、

 ドールを防衛用として起動したのです」


マスター・・・ドールの制作者か?

これだけの数のドールとゴーレムをたった一人で製造したのか?


きっと、物凄い賢者だろう。

髭を蓄えたような、聡明な老人・・・そんな人物だろうな。


「リルフェア様の部下にそのような賢者がいてもおかしくはない。

 なるほど、これは情報は確かだったようだな」


「お客様、奥の応接間にご案内いたします」


無感情、無表情な顔でドールのメイドの一人がこちらに話しかけてくる。

この世の者とは思えないほどの美貌と、鈴が鳴ったような声。

街を歩けば男が振り向くほどの女性だ。


「あ、ああ・・・頼む」


奥にある一つの扉を開くメイド。


応接間は、豪華とも質素とも言えないバランスの取れた部屋だ。

ソファーが並び、真ん中に大きなテーブルがあること以外は何の仕掛けもなさそうだ。

罠にかけるつもりはない、ようだな。


「ここでお待ちください、お飲み物を持ってきますので」


「・・・」


綺麗に一礼すると、メイドは扉を閉めた。


「罠ではなさそうだな・・・やはり、リルフェア様が来たというのは本当か」


居辛い気持ちを整えながら、偵察兵は被っていた兜を机に置いた。


――――――――――――――――――――


「はぁ・・・疲れたわね」


リルフェアは自分の肩を叩いていた。

説明会と一言でいうが、正確には村人への協力を漕ぎつけるためのもの。

嘘は言ってないので、そこは気楽だったが。


「まさか、ここまで協力的だとは思わなかったよ」


「ええ・・・」


ラティリーズ、リルフェアの為ならば村の全てを差し出すとまで言われた。

一部の村人は聖堂騎士の活動の手伝いをしたいという始末。

申し出は有難いが、彼らを戦いに巻き込むわけにはいかないと、

リルフェアはその申し出を断っていたが。


「嫌われてるよりはかなりましな状況だと思いますよ」


「そうね、エリサちゃん」


「お母様、ご苦労様です」


「隠居して、体力が落ちたと痛感したわね。

 現役だったらこの程度で疲れもしなかったわ」


そう言って、ふふと笑うリルフェア。


「はは・・・ん?」


八霧が苦笑いでそれに返していると。

拠点の様子を見て顔色が変わった。


「誰か来たみたいだね」


「?」


八霧が指さす先。

拠点の扉の一部が赤く光っていた。


――――――――――――――――――――


「これは・・・!リルフェア様!」


ガイゼン卿の所から来たという偵察兵はリルフェアに頭を垂れた。


「ご苦労様」


「ラティリーズ様もご無事で何よりでございます」


「心配かけて、ごめんなさい」


「い、いえ!いえいえいえ!頭を下げないで下さい!

 私如きに!」


リルフェア、ラティリーズと話す偵察兵を見て、八霧は苦笑していた。

その八霧の隣に立っている神威は、無表情のままで彼を見ていた。


「しかし、これで疑いは晴れました。

 ガイゼン様との会談の件、私が対応しましょう」


「ええ、助かるわ」


リルフェアが片手を偵察兵に向ける。


「これは?」


「握手よ、約束の」


「こ、これは・・・失礼しました」


おずおずと、リルフェアの手を握る。


「そ、それにしても素晴らしい拠点ですな。

 ゴーレムとドールがこれほど稼働しているとは。

 コンドアもゴーレムの工房がありますが、これほどの物を作るのは・・・」


「あるの、工房?」


「え?」


その話に食いついたのは、他でもない神威だった。


「え、ええ・・・と言っても大きなものではないですが。

 規模も中小企業の一つですし、目玉というほどのものでは」


「見てみたい、駄目?」


「え、ええと・・・リルフェア様?」


「ふふ、ここにあるすべてのゴーレムとドールの製作者は、

 目の前のこの子よ?」


「え、ええ!?」


驚いた表情で固まる偵察兵。

まあ、無理もないと思うリルフェア。


この世界でのゴーレムとドールの技術は未だ発展途上。

神威の技術はオーバーテクノロジーに近いものであり、

自我を持たぬドールですら、世界基準でも最高峰のドールになる。


「まだ、完璧じゃない。

 全員作製途中」


「作製途中?いや、完全に稼働しているように見えるが」


キョロキョロと、メイドやゴーレムを見る偵察兵。


「全員試作機、完璧な状態じゃない。

 それに、完成はまだまだ先・・・皆、自分で考えて行動出来て完成」


「自己判断できるゴーレムやドールとは、聞いた事が無いが・・・」


「私はそうですけど?」


「僭越ながら私も」


セニアとオリビアがそう答える。


「へ?」


「彼女たちは、自らの意志に目覚めたドール。

 後、そっちに控えてるシスとフィナも」


偵察兵が目を向けると、シスとフィナは行儀よく頭を下げた。


「い、いや!あり得んだろう!私も長い事ドールやゴーレムを見てきたが。

 自分自身で考えて動くドールなど、見た事は・・・!」


「でも、事実ですから」


「ええ、証拠でも見せましょうか?」


そう言うと、オリビアは長袖をまくり上げた。

そして腕を剣に変形させた。


「・・・!」


次は、盾、鞭、ボウガン。

最後にレイピアに変形させた。


「どうでしょうか?」


「本当に、ドールなのか・・・。

 腕を変形させるドールは見た事があるが、君は複数に変形させることが出来るのか」


「いえ、複数できて当然だと思うのですが?」


ドールの腕は、それそのものがドールの戦闘能力に換算される。

つまり、複数変形できる分汎用性が上がり、戦闘能力も向上する。


ちなみにオリビアの場合は10種以上の近接武器と防具。

セニアの場合は遠近入り混じりの7種類程度。

シスは遠距離特化、フィナは近接特化である。


「いやいや!それは常識外れというもので―――」


「常識なんて、その都度変わるものだと思うけどね」


八霧が口を挟んだ。


「それより、会談の準備を始めた方が建設的じゃないかな?」


「あ、ああ・・・そうだった、すまない興奮してしまった。

 それで、そちらの責任者は?」


「僕になるのかな?」


「君が?いや、若すぎる気がするが」


「八霧君は優秀な子よ、私が保証するわ」


リルフェアのその言葉を聞き、偵察兵は多少たじろいだが。

一呼吸置くと、八霧の顔を見た。


「・・・そうですか、では八霧殿。

 会談の準備をしましょう」


「はい」


こうして、ガイゼンとリルフェアの正式な会談の準備が始まった。

後で聞いて知ったが、この偵察兵、元ドール技師だったらしい。


なるほど、詳しくて当然だった。


読んで下さり、ありがとうございました。

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