135話
帝国へと侵攻する決意を固めたゼフィラス一行。
その前準備として、作戦会議を開いていた。
その会議の場には、何故かグスタフの姿もあった。
「我々はヘルザード帝国へと侵攻する」
「・・・やられる前にやる、ですね」
深く侵攻すれば、相手のゼローム皇国への攻撃が遅くなるはず。
それにゼローム皇国内にいる、反乱分子につくか、つかないか。
そう悩んでいる貴族もいるだろう。
その貴族たちの反乱を抑えるためにも、我々が活躍する必要がある。
「勝算は?」
エマがそう聞く。
その顔は、怪訝そうだった。
「一部隊で、国一つを相手して勝てる見込みがあるの?」
エマのその言葉を聞いたテネスが周りを見る。
傷ついた聖堂騎士やリザードマン、ハーピー達が治療を受けていた。
確かにエマの言う通り全てを合わせても、軍を相手取るには足りなすぎるだろう。
「それはですね―――」
「一部隊、ではない」
急にグスタフが口を開いた。
説明しようとしたテネスの目線がグスタフに向く。
「ヘルザード帝国もゼロームと同様で一枚岩ではないのだ。
それを利用すれば、勝機すら出てくるだろう」
「ええ、説得すれば我々に協力してくれる部族も出てくる筈です」
いつの間にかグスタフの隣にいたライラールもそう語る。
「ヘルザード皇帝、シャルードは民心を完全には握っていない。
そもそもヘルザード帝国自体、大量の部族の集まりのようなものでな」
グスタフは部下であるリザードマンやハーピー、治療をしているゴブリンを見る。
「ここにいる奴らも、各部族から引き抜かれた者達だ。
部族によってはここに来たくない者もいただろう」
「・・・つまり?」
「戦争に飽きてるのさ」
――――――――――――――――――――
グスタフが語った事。
ヘルザード帝国は大量の部族を内に抱えた多民族国家だという。
そもそも、ヘルザード帝国は惰性でゼローム皇国と戦っている部分が多い。
そのため長引く戦乱で民心が離れ。
戦いの大義名分も稚拙な部分が多くなり。
各部族も、昔のような激烈な忠誠心も無くなり始めていた。
そうは言っても、力がものをいうヘルザード帝国。
最も力の強く勢力も大きいシャルード率いる王家には反抗する余地はなかった。
だが、それも昔の話になりつつあった。
現在では各部族も王家に対抗できるほどの力を持ち始め。
口には出さないが、王家を軽視する部族もちらほらと出始める状態になっていた。
特に現国王であるシャルードは、尊大な態度を取ることが多く。
自身の力もそれほどあるものでもないのに、威張り散らしているという事実が、
更に各部族の反感を招く結果ともなっていた。
「俺は生まれも育ちも悪い方でな・・・」
「何度、あの人から悪口を言われたか、覚えてません」
「悪口・・・嘘じゃないのか?」
ゼフィラスがそう聞き返す。
目の前にいる男は、一軍を任されるほどの男。
・・・それに、悪口を言われるような人物ではないように思える。
「嘘じゃないです!力は認められてますけど、それ以外は」
「ライラール、それ以上はいい」
「ですが」
悔しそうに、顔をにじませるライラール。
それを見ていたプリラが口を開いた。
「自分が一番、そう思ってるのかしらね?
典型的な小物ね、ふふ」
プリラはくすくすと笑う。
「小物、か、ふふ、そうだな」
珍しくグスタフが笑った。
小物と言ったプリラも笑い続けていた。
「だが、そのシャルードの評価も地に落ちるだろうさ。
じきに、な」
「それは、どうしてかしら?」
エマがそう聞き返すと、グスタフはふっ、と笑った。
「シャルードはラティリーズへの思慕を抱いている。
そして、彼女を手に入れようと躍起になる余り・・・今回の戦争になったわけだ」
「・・・おいおい」
ゼフィラスも今期の戦争の原因に関しては詳しくは知らなかった。
いや、ほとんどの者がその事実を知らなかっただろう。
昔からゼロームとヘルザードは戦争をしていた、
今回もその流れがまた始まっただけ、という解釈だった。
「今までは領土問題を戦争の理由にしていたが、それは嘘だ。
そして、国内の誰かが今期の戦争の本当の理由を国内に流し始めている。
恐らくは和平派の誰かだろうけどな」
「・・・和平派か?」
「ああ、部族の中には戦争をしたくない奴もいると言っただろう?
長い事戦乱期と休戦期を交互に迎えているんだ。
そろそろ終戦すべき、そう考える奴らもおのずと出てくるものさ」
「なるほど、確かにな」
ゼフィラスはその言葉に頷いた。
「でも、何でこんなタイミングに?
決戦で勝利して、国境沿いにも大軍を・・・って、そうか。
ゼロームに侵攻できないように、工作を行ったって事ね?」
「ああ、戦争の真相を伝えて・・・国内を動乱させる。
それで国境沿いから軍を退かせようという狙いもあったみたいだが・・・。
多少時期が遅れたようだな」
「・・・ですが、その状況は利用できますね。
これから、という意味ですけど」
そう呟くテネス。
「ああ」
「反対派を味方につけて国内を内乱状態にできる、そういう事ですね」
その言葉に、グスタフは頷いた。
そして、グスタフはゼフィラスと向かい合った。
「ゼフィラス、我々は貴国へと降伏する。
その代わり我々の国家転覆・・・いや、国家再生の手助けをしてくれ」
「・・・再生、か?」
「ああ、ゼロームにとっても、ヘルザードにとっても。
もう戦争は要らないものだろう、こんな先の見えない戦争など」
グスタフの言葉を聞き、腕を組み考えるゼフィラス。
「どう思うエマ?」
「・・・将軍は嘘を付ける様な人物じゃないわ。
まあ、直接戦った貴方に言うべきセリフではないと思うけどね」
「そうだな」
攻め入る我々からすれば渡りに船。
或いは、死地へと誘う船か。
どちらにせよ彼らと協力した方が生き残る可能性と、
作戦の成功率は飛躍的に高くなるだろう。
「一つだけ確認させてくれ」
「なんだ?」
「グスタフ、君はゼロームの軍門に下る、本当にそれでいいのか?」
そのゼフィラスの言葉に、場が一瞬凍り付く。
だが、グスタフは高笑いをすると、一度頭を下げた。
「ああ、降伏しよう」
「そうか、ならば・・・今日から君と私は戦友だ」
そう言って、手を差し出すゼフィラス。
「戦友、か・・・そうだな」
グスタフも強めにその手を握った。
「だが、この戦いが終わったら、決着はつけさせてもらうぞゼフィラス」
「無論だ、いつでも来い」
そう言って二人は笑いあった。
周りもその様子を見て安堵の表情が広がった。
その様子を見て、テネスは一人呟く。
「気になりますね・・・ヘルザードの国内に噂を流したという人物」
「そうね」
隣に立っていたプリラも頷いていた。
和平派が流したとすれば自然な流れだが。
まるで、誰かが上から見下ろして状況を操作しているみたいだ。
・・・そう感じるほど、状況が良くなったということもあるが。
テネスは何度か首を横に振る。
「まあ、いい状況になったんですから、良しとしましょうか?」
「そうねぇ・・・ところで、テネス。
もし、グスタフさんの話が無ければ、あなたはどうしてたの?」
「え?ああ・・・簡単ですよ」
「?」
「グスタフ将軍を仲間に引き入れ、連合軍を形成して攻め込む。
まあ、ここまでは考えていましたが・・・まあ、状況はそれよりも良くなりましたね」
「読み通り?」
「そこまで、先を考える能力はないですよ」
そう言って笑うテネス。
聞いたプリラも微笑んでいた。
「では、行きましょうか?
このまま見捨てて行くのも気が引けますし」
「ええ、乗り掛かった舟だものね」
そう言って、二人は軍団について行く。
目指すはヘルザード帝国中央部に鎮座する首都。
殴り込みの部隊が完成した瞬間だった。
読んで下さり、ありがとうございました。